97.異界へのシャングリラ
97.異界へのシャングリラ
「ナナ、これからどうしましょう?」
「サクヤ、少し前にモンゴルに虫人は現れた。そしてこの大地ごと異界へ消え去った、そこまでしかわからない。でもシュラはその前に破壊されていた。この地の大いなる神の力を持つ者たちによって。キョウリュウ、そしてカイリュウ族の男たちに……」
それを聞いて、サクヤは安堵した。
「生きている、ゴラゾム、ビートラ、リカーナが」
「サクヤ、ゴラゾムはもういない。新しい王女を残し、この地に虫人を導くために犠牲となった。ヒドラがそう私に伝えた……」
「ああ、なんという事。でもゴラゾムとリカーナに王女が生まれたの」
「そう、マンジュと名付けられた王女が、ここまでレムリアを導いた……」
「マンジュ……、その王女の名はマンジュというの」
サクヤはその名を聞き、マルマの最初のイブ「マンジュリカ」のことを思い描いた。
「ナナ、レムリアを追うわ、異界への通路はあるのかしら?」
「ヒドラ・シャングリラを通ればきっと行ける。でもサクヤ、あなたの体が……」
……持たない、ナナはそう口に出そうだった。しかし彼女の「決意の瞳」を見て、言葉を飲み込んだ。
「異界へのシャングリラは、あの先のオアシスにある……」
ナナはしばらくして、広大な砂漠を指差した。
「行きましょう、異界へ。宇宙船はここに残しておきましょう」
まだ燃料のルノチウムは十分ある、しかしサクヤは何か不吉な予感がした。
「異界にその宇宙船を持ち込んではならない」
そう、誰かがサクヤに繰り返し警告している様な気がした。
虫人であったなら、二人はとうに「あぶり」殺されていたろう、しかし昼間の高温もサクヤたちには苦痛すら与えなかった。日が何度か昇り、そして沈む。のちにシャングリラと呼ばれる、レムリアと共に飛来したヒドラの触手を抜け、ようやくサクヤは異界の王国を訪れた。
「ここにも、虫人の反応は無い。でも、あの丘に残る宇宙船はレムリアに間違い無いわ。彼らに何らかのアクシデントがあったのかもしれない……」
皮肉にも異界に張ったリカーナの完璧な結界は完全に虫人の気配を消していた。ようやく二人の前に異界へと続く、真新しいシャングリラが口を開いた。二人を真っ先に迎えたのは次元の谷の花園だった。
「なんてきれいな花かしら」
サクヤがその花に触れたその途端、先刻の警告が事実であると彼女は思った。次々と色あせていく花、からからにひからび、砂のように砕けていく次元の谷の花たちを見てサクヤは異界が虫人を受け入れることは容易ではないと知るのである。
「何故この星は受け入れてくれないの、この星も安住の地ではなかったのかしら……」
サクヤが進むにつれ、花園はひからび、石ころと褐色の地面に変わった。次元の谷にあった花園は二度と元には戻らなかった。しかし事実はその花園はリカーナが作ったもの、サクヤの体に亜硫酸ガスが滞留していたために起きた事だった。リカーナの作った結界は「亜硫酸ガスの感知」にも敏感だったのだ。そしてサクヤに滞留していた亜硫酸ガスが全て吸い取られると、花はもう枯れる事はなかった。サクヤも体が軽くなった事に気付いた。
「なんだか、幾分気持ちも軽くなった。ナナ、あれはきっとレムリアだわ。良かった壊れていない、この地に虫人たちは無事に着いたということは間違いない様ね」
「ええ、虫人たちは間違いなく無事だわ、でもいったいどこにいるのかしら?」
サクヤは生体反応を感知しようと神経を集中した。
リカーナの結界は厚くそして完全なものだ。それは少しずつ膨張し続け、やがて広大な「レムリア王国」として異界全域に広がっていった。ところがサクヤには虫人達の居場所が分からなかった。そのサクヤの目に止まったのが次元の谷から付いてきた一匹の「空色シジミ」だった。
「小さなシジミチョウよ、この地に降りたものたちをいつまでも守っておやり」
不思議な吐息がかかると、空色シジミは「パピィ」として生まれ変わる、パピィはこの時サクヤに不思議な力を分けてもらったのだ。




