66.ヒドラの残したもの
ヒドラの残したもの
「俺は、人間だから外に出れる、それにミーシャもセイレも虫人ではない」
タイスケが口を開いた、ラクレスが彼に何か策があるのかを尋ねた。
「ないこともない、しかし今回は保証ができない賭けだ」
「詳しく話してみてくれ」
「ああ……」
タイスケが策を話し終えた。
「ようし、タイスケを信じてやってみよう。なっぴのためだ」
皆の心は一つになった。
「ヒドラ、あなたは、ヨミとマナによって生まれた。そしてタオが最初に生んだ原始生命体『ラグナ』を求め続けていた。私の中のマルマ、それを手にし、精製したマナにナナという人型を授けた」
「だが、ナナにも闇の部分が残っている。大部分の闇はこの体に残したが……」
「そう、それでいいのよヒドラ。虫人の持つマナはすべてナナの元へ集まり、ヨミは私とあなたの中に大部分が閉じ込められている」
「なぜ、俺は消滅しない。出芽の後、俺は消え去るのではないのか、この星の奥底で」
「あなたは消えなどしない。この星で守り続けられているシャングリラこそ、あなたであることを知らないのね」
「シ・ャ・ン・グ・リ・ラ」
「人間も、人魚も、そして虫人も、それを守り続けていた。その存在は限られたものにしか知られていない、けれども彼らは長い間そうし続けてきたのよ、その意味も知らないまま」
「意味?」
「シャングリラは、生きている。それにマンジュリカーナは気付いていた。次元の谷に繋がるシャングリラが成長しているのをわしは確認し、その時なっぴが教えてくれた」
ギラファはタイスケの策を聞き終えると、そうぽつりとつぶやいた。ついで香奈がセイレに向かって口を開く。
「話してあげなさい、あなたの母『里奈』の代わりに」
セイレが話した。
「七海の人魚がシャングリラをいつから守っているのかは、はっきりしない。それはアガルタから地上や虫人の国、そして天界まで続いている。時には消え去り、また新たなシャングリラが現れる。私はエスメラーダとしてそう伝え聞いています」
「ミーシャ、オロスの地にも伝わっているでしょう」
「はい、香奈様。オロスのシャングリラは唯一天界へ繋がる。それがヒメカ様がオロシアーナに伝えたこと、わたしたちの術式が、シャングリラを守り続けていると」
「それでは我々の『ヨミの花園』も、ヒドラに関係するものだったのですか?」
ドモンはダゴスに尋ねた。
「そうだ。ヨミの花園はヒドラの胴体の一部、あの苞の一つだ」
ダゴスが指差すヒドラの苞が結界からも、もうはっきり見える。それはまた一層輝きを増していた。
「うっ」
軽いめまいが、なっぴを襲った。それはなっぴではなく、リンリンのものだ。ヒドラもなっぴも闇の力が底をつき始め、ヒドラは色が薄くなり、苞の輝きは七色に分かれ始めた。
「このままだと、私も、リンリンも……」
「まだまだ、戦えるわ、なっぴ」
「リンリン、でも」
「何言ってんだか、もう少しよ、さあキューを握り直して」
「テンテンの口癖、あーあ、マネしちゃって!」
なっぴはそう言いながら、頼もしいリンリンに感謝した。
「レン・スティノール」
おそらくこの一打で、リンリンは力つきるだろう。しかし、なっぴはそれでもキューを伸ばした。
「グギルルッ」
ヒドラに打突した瞬間の稲妻を確認すると、漆黒の戦士はヒドラの前にうずくまった。