42.黒の森の騎士
黒の森の騎士
「あらあら、エビネ国王が目を真っ赤に腫らして泣くなんてね」
「フランヌ、それを言うな。わが国民たちも同じだ、この星で暮らす事には中々決心がつかなかったのだ」
ラクレスがゆっくりとラベンデュラに近づく。なっぴは五大巫女の最後、フランヌの守護色の青い服を紡ぎ始めた。
「そういえば、少し小降りにはなったがわしのツノも再生している、もはや不要であるが……」
ラクレスはそれでも嬉しかったのに違いない、早速「バチバチ」とツノを擦り合わせて胸を張った。
「ところでマンジュリカーナはこれから何をするつもりなのだ。フランヌの力もやがて底をつく、われら虫人たちの力は無限ではない。それなのにキングもコオカたちも再誕させるというのか」
ラクレスとともに戦った者達はこの場を立ち去るとき、口々にこう言った。
「王とともに我等はあります。もしものときには必ずかけつけます」
「フフッ、馬鹿な事をお前たちに泣き言をいう事があるものか……」
「あらあらラクレス、強がっちゃって、あっ」
なっぴが足を滑らせた、しかし糸紬は止まらなかった。再びバイオレットキューを握り直すなっぴの顔には笑顔は消えていた、彼女はレムリアの五大巫女の力を使いルノクスの虫人たちのほとんどを再誕させた。しかし、欠けているものたちもある。
「やはり、我々の呪縛、虫人の再誕がマンジュリカーナの最終目的ではない」
「ラベンデュラどのもそう思われるのか?」
「大臣も」
二人は沈黙の中、バイオレットキューを持ち一心に舞うなっぴの姿を見ていた。
「スカーレット、由美子の守護色はあのインディゴに間違いありませんね」
ラベンデュラは、なっぴが次に紡いだインディゴの服を指差した。それは次代の巫女「サフラン」となった由美子のものだ。
やがてにぎやかな集団が皆の前に現れた。
「もうひと勝負、ひと勝負って、本当にもうしつこい!」
「ピッカー、だから由美子はもう暴れたりしないんだって」
人型のドモンがピッカーの背をたたいた。
「暴れる? ドモンたら、フェンシングはたしなみよ、スポーツだって」
古い虫人たち「黒の森」の虫人とともに由美子がスカーレットに再会した。
「お母様、今まで私を守っていただきありがとうございました。パピィが……」
パピィの死の悲しみをもうこらえる必要は無い、由美子は顔を覆った。誰もそれを止める事はできなかった。ひとしきり無くと由美子は振り返りなっぴを見つめた。
由美子の足下で小さな声が聞こえた。
「あの、由美子。ボク生きてるんだけど……」
「えっ、パピィなんで?」
「なんでって言われても」
空色シジミは自分の羽を確かめるように少し羽ばたき、ついと彼方に飛び去った。
「そうか、パピィは虫人たちと一緒に行くんだ……、ありがとうパピィ」
「ガマギュラスもギリーバの旦那も現れないってことは、この星の方が性に合っているということか、少し寂しいがしかたない」
ピッカーには少しばかり、先の事が解った。何かしら起こる予感がしていた、それは「騎士」としての彼の特有な感だったのに違いない。