転校生来たる!.6
霧ヶ島中学校は、一年生が一人、二年生が三人、三年生が四人の、
計八人の『超』小規模学校である。
「ミーナ先輩! お昼、ご一緒していいですかァ」
そんなワケで、風通しが極めてよい。
「ああもう! あんたが来ると、いっつもメンドクサイから
落ち着いて食べられないのよね」
「エーッ、なんてこと言うんですか、酷いです先輩!
でもマキ先輩は、そんなコト思ってませんよねえ?」
マキはニッコリと微笑んで、可愛らしい弁当箱を抱える
大山ヒカリを向いて、やんわりと頷いた。
「ほらァやっぱり! ミーナ先輩の言うコトなんでも聞くし、
私って、とっても可愛い後輩じゃないですか」
「マキは誰にだってそうなの。心の中で思っても、イヤな顔が出来ないの」
「あー、また酷いこと言う!」
失礼しまーす、と、また二人の女生徒が教室を訪れる。
この時点で、なんと“全校生徒の半数以上”が、この三年一組に
詰めかけたことになる。
昼休みと放課後に限っては、とても広かった教室が
たくさんの笑顔で満ちる。
その日も女生徒の賑やかな話し声をBGMに、
キョウスケとヤストラが隣り合って、持参した弁当箱を広げていると
揚げ物や焼き魚の匂いに混じって、それを屈服させるほどの、
“強い花の香”が鼻孔をくすぐった。
はっとしてキョウスケは自分の席の前に立つ、
草守レイトに注意を向けた――
銀の少女は、好意的な笑みを向けている。
肩に乗っていた“小人”の姿は、なかった。
「私、お弁当を持ってきてないの。
キョウスケくん、この学校って“購買部”とかあるのかしら?」
こうばいぶ――
慣れない単語を耳にしたキョウスケは、助けを求めるように
隣のヤストラを見た。しかしその彼はだらしなく大口を開けて、
少女の整った顔を眺めている。
「好き嫌いは特にないわ。でも今はパンが食べたい気分なの。
案内してくれない?」
キョウスケはすっかり面を喰らって、やはり隣のヤストラを仰ぎ見る。
しかしその彼は、だらしなく大口を開け、やはり銀の少女の整った顔を
穴が空くほどに眺めていた。