秘法を求めて.4
(キョウスケ様のオ傍を離れてしまッタ……スクナはもう……〈使い魔〉失格なのデス……)
スクナは先ほどからそんな調子で、キョウスケの肩の上でブツブツ言っている。
完全に寝過ごした“彼女”は、今の今までキョウスケの姿を追って、この気の遠くなるような果てしない屋敷の中を、必死で飛び回っていたのだった。
(もしもキョウスケ様のオ身体に何かアッタラ、スクナはもう……ゴ先祖様に顔向け出来まセヌ……)
(大丈夫ですぞ、お嬢さん。キョウスケ様は、この“ヒビキ”がお護り致しました。今朝も奇妙な羽虫が一匹飛んで参りましたが、この“ヒビキめ”が、ドーンと片を付けましたぞ!)
(オオ。ヒビキ様、この未熟なスクナを救って頂キ、本当にありがとうございまシタッ!!!!)
ヒビキは、とても得意そうだ。感謝の意を伝えきれずに困るスクナを見て、まんざらでもない様子。“羽虫”と呼ばれた草守レイトの〈式神〉――ノークは、現在は屋敷の外でキョウスケの報告を待っている。
ふあー、という間の抜けた声がした。
「こんがり焼けたトーストに、アツアツのコーヒーだ。砂糖はナシで。トーストにはバターを乗せろ」
「兄さん、寝ぼけてる?」
「キョウスケ、お前が今、イッチバーーン食べたいものはなんだ?」
するとキョウスケは、少しだけ考えた。
「……味噌汁に納豆ごはん。ネギたっぷりで」
「おーし、いいぞォ。その映像を、頭によォーく思い浮かべておけ、だが食べるんじゃないぞ。“これをやり遂げたお前”は、その御馳走にありつけるんだ」
「なんの話?」
「最後は気力がモノを言うって話だ」
一行は、とある部屋の前で立ち尽くした。
そこは父――狭霧キョウカの書斎である。
どうしたことか、部屋の周囲は冷えている。
普通の家庭とは、なにもかも違い過ぎる“狭霧家”に置いて、この場所は特に異彩を放っている気がした。
キョウスケの背筋を、イヤな予感が通り抜けた――
「入ったことは?」
「一度もない」
兄弟は前方に視線を向ける。
なんの変哲もないドアが、とても重々しく感じられる。
「いいかキョウスケ。“あのドアの向こう”は、こちらの常識が一切通用しない、“異次元の国”だ。少しでも気を抜いたら、こちらへは絶対に戻ってこられない」
「そんな、大げさだよ」
(それが少しも大げさではないのですッ!!!! このヒビキ、キョウタロウ様の“反抗期”に付き合い、命を二度ココで拾っておりますッ!!!! 実を申しますと、ヒビキはこの部屋の前に来ただけで、酷い立ちくらみがしてしまうのです……)
〈式神〉が本当に立ちくらみをするのかは、さて置いて、泰然自若を常とする彼を、ここまで震えあがらせるとは相当な恐怖に違いない。
「――宝を守るのは、“地獄の番犬ケルベロス”。大きな音は禁物だ。そーっといけ、そっと。目的の品を手に入れたら、他のものには眼もくれず、とにかく死ぬ気で出口を目指せ」
(火を吐きますぞ、キョウスケ様ッ!!!! 決して相手を起こしてはなりませぬッ!!!!)
そこには一体、どんな怪物が居るというのだ……。
この命がけのミッションの成否は、
どうやら“彼女”にかかっているらしい。
問われるのは、窮地に陥った“彼女”が、どれだけ頑張れるかだ。
「スクナちゃん、名誉挽回のチャーンスだ」
キョウスケの肩の上に腰掛けた美しい妖精は、それを聞くと不思議そうに小首をかしげた。




