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秘法を求めて.2




「フー。あれは危なかっタ。オレサマをビビらせるなんて、兄ちゃんヤルナ。ホメてヤル」



 草守レイトの〈式神〉――ノークは、地面に偉そうにあぐらをかき、キョウスケとヒビキを見上げている。

 背中に生えている二枚の羽は、極端にしおれていた。



「他家の〈使い魔〉が、この狭霧の敷地に侵入するなど万死に値する。キョウスケ様のお知り合いということで、今回はヒビキ……断腸の思いで眼を瞑りましょう! ――さあ、どこへなりサッサと立ち去りなさい!!!!」

「オイ兄ちゃん。少しはオレっちの話も聞いてくれヨ。そっちのガキンチョにモ、“今回の責任”があるんダゼ」


 そしてノークは、ビシッとキョウスケを指差す。


「責任?」

「そうダ。お前のトコロの〈式神〉にヤられた、“あのクソヤロー”の逆恨みダ。まったくジョーダンジャネー。いつものオジョーなら、ケチョンケチョンに返り討ちにするところガ、運悪くクソヤローどもに捕まっちまっタ。おいガキンチョ、今回の責任トレ」


 キョウスケとヒビキは呆気にとられた様子で互いに顔を見合わせる。

 するとノークは「セキニン、セキニン、セキニン!!」とうるさいくらいに連呼して、呆けている二人を煽りたてる。




「……ええと、少しお待ちを……運悪く、あなたの主が敵の手中に落ちて、どうしてキョウスケ様に“責任”があるのです。言いがかりもほどほどになさい」

「ダアッ、このクソガキが入口をもっと開けてイレバッ!」


 あの時――開くべきはずだった遺跡の扉は、“ある女”の登場によって、不完全なまま終わってしまった。

 ほんの少しだけ、隙間が出来ただけである。


「待ち伏せ、されていた……?」

「そうダ! そうダヨ! よく分かんネーケド、また突然現れたんダヨ、“あの女”みてーニ。襲って来たのは“クモ”のクソヤローと、“チョー”か“ガ”のクソヤローダ。もう最近ジャ、オジョーのオレに対する信頼度はガタ落ちダ。このまま行くト、コンビ解散もアルゼ……トホホ」



 ノークの話によると、草守レイトは昨晩、森の奥の遺跡にて怪物たちの襲撃を受け、そして捕まったらしい。

 実行犯は、硬い皮膚に覆われたクモの怪物。

 そして、スクナによって瀕死の重傷を負った、チョウの怪物。


 もしもそれが逆恨みなら、確かにキョウスケにも責任の一端がある。

「向こうの要求は?」


「キョウスケ様ッ!」

「オー、ソレ重要ダ。お前のところの〈式神〉のネーチャンと、それから……エエト、なんダッケ。確か“なんとかバン”……シキ、シキ……そうだ『シキバン』ダッ!」


 それを聞いたヒビキは、彼にしては珍しく、驚愕の表情を浮かべていた。

「……その〈妖魔〉は、本当にそう言ったのですか?」


 重苦しい空気が漂う。

 話の間に太陽は少し昇り、霧はすっかり晴れた。


「それって、なんなの?」


 狭霧家が隆盛を極めた(いにしえ)の時代を、ヒビキは思い出していた。




 それは“鬼の技”とも呼ばれ、それゆえに人々から畏れられた。



 ヒビキは、ようやく口を開く。

「――ご説明しますキョウスケ様。そちらの方が口にした『式盤(しきばん)』とは、我が狭霧家が所有する宝物の中でも、“特別な価値”と“特別な意味”を持っております。『式盤』は、言うなれば一種の“予言書”のようなもので、その者にとって、“進むべき最良の道”を示してくれるのです。無論、当家の家宝です。外に持ち出すなど許されるはずがない」



 予言――

 未来が分かる道具・『式盤』――


 そんな秘宝が自宅にあると聞かされて、信じられる者が居るだろうか。

 キョウスケは半信半疑だ。一方で、狭霧家の〈式神〉であるヒビキは、それを信じて疑わない。



 彼は実際に眼にしてきたのだ。この家が持つ“遥かなる歴史”を。そして、口に出すことも憚られる、この家が抱える深い――“深い闇”を。


 狭霧の呪われた歴史の始まりは、この絶海の孤島・霧ヶ島に流された“初代当主”にまで遡る。



「……とにかく、あなたも〈使い魔〉なら、自らの手で責任を取るべきです」

「オレは憑依型(ひょういがた)の〈式神〉ダ! 兄ちゃんみたいにヒキョーな技は使えネー。オジョーを取り返そうニモ、オレひとりじゃムリダー! だから手を貸せよガキンチョ。お前は大して重要ジャネーガ、あの〈式神〉のネーチャンは使えルッ!」


 必死さが、ノークから伝わってくる。主を怪物にさらわれたのだ。



 草守レイトが今も無事である保証は、どこにもないのだ。



「場所は? 期限は?」

「キョ、キョウスケ様! それはなりません。ええ、絶対になりませんぞ、キョウスケ坊ちゃん! どうしてノコノコと、敵の罠にはまるような真似をするのです。あなた様は、これからの狭霧を背負って立つお方。その大切な御身体を、そんなことで危険に晒すワケにはいきません!」

「ヒビキさん、聞いてください」



「――約束したんです。僕の大切な人たちを、草守さんを“護る”、と。どうかヒビキさん、僕に力を貸して下さい」



 そしてキョウスケは、狭霧の闇に触れる覚悟を決める――



「教えてください。『式盤』の在り処を」


 のらりくらりと、まるで掴みどころのないこの若者に、次第にヒビキは惹かれ始めていた。



 大いなる揺らぎの奥底で、ふと垣間見せた少年の鉄の意思。



 兄のキョウタロウによく似ている――ヒビキは、そう感じた。


「分かりました。キョウスケ様の御覚悟、しっかり受け取りました。大切な御学友の御身、このヒビキが命を賭して、お助けいたしましょう」

「ありがとう、ヒビキさん。それで『式盤』はどこにあるんですか?」

 うぐう、とヒビキは急に口をつぐむ。

 長年仕える彼でさえ、その在り処は知らされていないようだ。


 するとヒビキは、なぜかそれを提案する前に「今回に限り」という単語を、しつこいくらいに念押しする。


 果たして、彼が自信をもって勧められない、その提案とは?




「……“兄上様”に相談しましょう」




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