仲間
仲間
忍術学園の大教室は、朝から熱気に包まれていた。
卒業を目前に控え、今後の任務を共にする「三人一班」の編成が発表されたからだ。担当教官の「各々で自由に班を組め」という言葉が終わるやいなや、教室のあちこちで騒がしい勧誘合戦が始まった。
「櫻ちゃん! 俺たちと班組もうよ! 絶対楽しくなるって!」
「櫻さん、うちの班に来ないか? 支援役が必要なんだ!」
成績優秀で人望も厚く、強いくノ一として一目置かれている櫻の周りには、あっという間に男子生徒たちの人垣ができていた。
「えっと……みんな誘ってくれてありがとう。でも、私……」
櫻が苦笑いを浮かべながら辞退の言葉を探していると、教室の反対側から甲高い女子生徒たちの歓声が上がった。
「佐助君! 私たちと一緒にチーム組まない!?」
「ねえ佐助君、私と組んでくれたら絶対足引っ張らないから!」
名門・鈴木一族の天才であり、学園一の容姿と実力を誇る佐助の周りにも、凄まじい人数の女子生徒が押し寄せていた。
しかし、佐助は群がる女子生徒たちに視線すら向けず、冷ややかな雰囲気を纏ったままスッと群れをすり抜けた。
「あっ、佐助君……!?」
群衆をあっさりと置き去りにした佐助は、男子生徒たちに囲まれていた櫻の前まで歩み寄ると、迷いなくその手首を掴んだ。
「え……佐助君!?」
「行くぞ、櫻。ここは騒がしすぎる」
「ちょっと、佐助君! 待ってよ!」
女子生徒たちの悲鳴と男子生徒たちの羨望の視線を背に、佐助は櫻の手を取って教室の外へと連れ出した。
静かな中庭の回廊に着くと、佐助はやっと櫻の手を離した。櫻は少し頬を赤くしながらも、ふうと息を吐いた。
「もう……佐助君ったら強引なんだから。女子みんなから命狙われちゃうわよ」
「くだらない連中と組んでも足手まといになるだけだ。……それより、櫻。三人目のメンバーだが」
佐助の言葉に、櫻はピシッと表情を引き締めた。
「三人目……? もう考えてる人がいるの?」
「ああ。……本間陽樹だ」
「陽樹を……!?」
櫻は一瞬目を丸くしたが、すぐに納得したように柔らかく微笑んだ。
「ふふ、やっぱりね。あの二人きりの特訓の時から、佐助君が陽樹のこと気に渡してるのは分かってたわ。うん、私も大賛成! 陽樹となら、絶対に良いチームになれると思う!」
「……勘違いするな。あいつのしぶとさが使い勝手がいいと思っただけだ」
素直にならない佐助に、櫻は「はいはい」とクスッと笑った。
二人は陽樹を探して教室へ戻った。
教室の隅で、自分の机に肘をつき、退屈そうに外を眺めている陽樹の姿があった。周囲の生徒たちが班を組み終えて盛り上がる中、どこかポツンと取り残されているように見える。
佐助と櫻が同時に陽樹の机の前へと歩み寄った。
「陽樹」
櫻の声に、陽樹は顔を上げた。
「ん? なんだよ櫻、それに……佐助」
「班の手続きの締め切りが迫っているぞ。陽樹、お前……メンバーはもう決まったのか?」
佐助が淡々と尋ねると、陽樹は頭の後ろで手を組みながら、やけくそ気味に笑った。
「いーや、まだ決まってねぇよ! 周りの奴ら、俺が『英雄の息子』だからって遠慮してんのか、誰一人誘ってこねぇんだよな。最悪、あぶれて二人班に混ぜてもらうさ」
強がりを言う陽樹の顔を、佐助は見下ろした。そして、静かに、しかしはっきりと告げた。
「なら、決まりだな。お前は俺たちの班に入れ」
「……は?」
予想外の言葉に、陽樹はポカンと口を開けた。
「佐助……お前、本気か? 俺なんかと組んだら、お前の足引っ張るかもしれねぇぞ?」
「俺の足を踏み越えてみせると言ったのはお前だ、陽樹。口だけか?」
不敵に挑発するような笑みを浮かべる佐助。その横で、櫻も嬉しそうに頷いた。
「そうよ、陽樹! 私は最初から陽樹と組みたかったんだから!」
「お前ら……」
陽樹の胸の奥が、じんわりと熱くなる。
『英雄の息子』としてではなく、『本間陽樹』という一人の人間を見て、仲間として必要としてくれた。
「……へっ! 後悔しても知らねぇからな! よろしく頼むぜ、佐助、櫻!」
陽樹は立ち上がり、ニッと歯を見せて笑った。
「あちゃ〜……もう決まっちゃったかぁ」
その光景を、教室の柱の陰からじっと見つめている一人の少女がいた。
ショートヘアが元気な印象を与えるくノ一——梅野楓だ。
手には三人一班の申請用紙を握りしめている。実は彼女も、一人でいた陽樹のまっすぐなところが気になっていて、勇気を出して班に誘おうとタイミングを見計らっていたのだ。
「陽樹くん、誘おうと思ってたんだけどな……。まさかあの鈴木佐助と佐藤櫻と組むなんて、最強の班になっちゃったじゃん」
楓は残念そうにハァと溜め息をつきつつも、三人で楽しそうに笑い合う陽樹たちの姿を見て、ふっと笑みをこぼした。
「ま、いっか! 陽樹くんが嬉しそうだし! 負けないように、私も良い班探さなきゃね!」
楓は用紙を小さく丸めると、次の仲間を探すべく元気いっぱいに駆け出していった。
陽樹、佐助、櫻。
誰もが認める天才と、芯の強いくつノ一、そして泥臭く立ち上がる英雄の息子。最高で最凶の「三人一班」が、ここに誕生したのだった。




