ファブニール討伐クエスト。
今までは財宝を守る様にして戦っていたファブニールだが、今やなりふり構わず爪を振りかざし、尻尾を叩きつけての大暴れだ。
その為、今までの様に特定カ所を集中的に攻撃する事が難しくなった。
そして背後に回った自分達も決め手に欠けていた。その硬い体に自分とアルティの攻撃が通らないのだ。それでもファバルの片手斧二刀流とカルノスの魔法で何とか牽制は出来ていたのだけど、時間と共に無視され始めた。
「これはマズイな。これでは背後に回った意味がない……」
「仕方ないよ、僕達の武器では」
「役立たずかも……」
つい自分が弱音を吐くいてしまった。
「そんな事はないよ。多少は牽制になってるから」
「そうは言っても、アルティは目を射抜いたやん? それに比べ自分は……」
「ちょっと、こんな時にすねない! 少しでも攻める! カルの魔法も効きづらそうなんだから」
「……そう言えば、前みたいに対土特化の植物魔法を使ってないな」
以前同じように硬さに悩まされた土蜘蛛と岩石蛇をいとも容易く倒して見せた植物系魔法を殆ど使っていないのだ。
と思っていると、今のアルティとの会話が聞こえていたのだろう
「ここは山の下の洞窟だから、植物魔法だと魔力消費がハンパないんだよ! それに効果も落ちるし、さっきの『エリア・プレス』で打ち止めだよ」
と答えた。
いよいよジリ貧だな……
現世での伝承の様に腹の下からなら攻撃も効きそうなんだけど……潜り込めそうにないし……
「なぁ、あのファブニールも小人が変身してるのか?」
「はぁ⁉ 何言ってるの、レンヤ兄⁉」
「うぁー! こんな時にレン兄が壊れたー」
そんな馬鹿な会話をしていると頭上を右から左へと尻尾が勢いよく通り過ぎ、前方の仲間を攻撃するのが見えた。
「うぉっと! 危なっ!」
「ボーっとしてないでちゃんと攻撃は避けてよ!」
「悪い。今ので正気に戻った! てか、あの尻尾が邪魔だな! これをどうにか出来れば大分楽になるんだけど……」
そう思いながら尻尾の動きを先の方から付け根へと目で追っていた。
「硬いくせによく動く尻尾だな」
尻尾も腹側以外は棘の硬い外皮に覆われていたが、いくつもの節に分かれている為に自在に素早く動く様だった。お陰で攻撃が通りそうな節を集中的に狙う事が出来ないでいた。
「ちょっと、刀が効かないからって見てないで攻撃してよ!」
「どうした。もうへばったか!」
アルティとファバルが戦いながら声をかけてくる。確かに見てても仕方ないかと、攻撃に移ろうかとして身体は止まった。
そして、視線はある一点に釘付けになった。
しなやかに動く尻尾の付け根……今まで硬い外皮かと思っていたけど……
アレだけ自在に動くのに硬いだけの訳が無いんだ。それだけの理由があった。
「あそこだけ、鱗の様に上下に重なって……しかも、隙間が大きくないか?」
「え? 何処?」
アルティが聞き返してくるが、それに答える事無く自分は猛スピードで走り出した。
その間も尻尾は左から右へ攻撃し続けているが、それを低い体勢で避けながら、猛スピードでそのまま目標へと迫る。
その先には大き目の鱗が覆う尻尾の付け根がある……そしてその重なり合う鱗の隙間は明らかに体表のよりも大きかった。
これがあの邪魔なまでに動き回る尻尾の仕組み!
自分は確信を持つと走り込んだ勢いを殺すことなく、そのまま大きく右足を踏み込んで村正を突き出す!
スキル『岩通し』!
まぁ、単なる突き攻撃なのであるが、鍛錬を積んでスキルに昇華するまで鍛え上げた技だ。そのお陰で今では落ちる木の葉の主脈を立てに突き通せるまでになっていた。
その正確な突きで、上下に重なり合う鱗の僅かな隙間に、見事な一撃を叩き込むことが出来た。
しかも、予想以上に刀身の半ばまで突き刺さってしまった。
「げっ⁉」
これにはすこし驚いたが、ままよと、そのまま下に押し斬り抜いて、一気に後方に下がる。
当然ファブニールは苦痛と怒りと咆哮を上げる。今まで大した事なく無視していた背後の敵の攻撃が尾の付け根に深々と刺さったのだ。
その為、今度はこちらに向けて尾を振り下ろして来た。
「うぉっ! 随分お怒りの様だな」
その攻撃を避けながらさらに下がる。
「レン兄、アレを狙ってたの⁉」
「なんじゃ、ただボーっと突っ立っとた訳じゃなかったんか⁉」
「凄いじゃん! レンヤ兄!」
ファブニールの激しい尻尾攻撃を躱しながら三人が声を掛けてくる。自分はそれに軽く手を挙げて答えながらもう一度付け根への攻撃機会を伺っていたが、どうやらファブニールの方が自爆した様だ。
ダメージを負った尻尾を激しく動かした事で、さっき切り裂いた傷口から血が噴き出し外皮が大きくめくれ上がったのだ。
それを見て自分は号令した!
「集中砲火!」
さっきまで無駄口を叩いていてもみんな優秀な冒険者である。状況を見極めてそれぞれが攻撃を放つ!
『エイス・スフェラ』
『シューティングアロー』
『刀閃』
掛け声と同時に、三人の遠距離攻撃が尻尾の付け根にさく裂し、ファブニールが咆哮を上げる!
『グアアァー!』
この攻撃により付け根の外皮は三割ほど弾け飛び、大きく肉を削る事に成功したのだ。
これで尻尾を切り落とせる!
そう思い、自分は再び突っ込む!
思いは同じか、ファバルも同時に走り出していた。
しかしファブニールは怒り心頭で攻撃対象を変えたのか、こちらに向きを変えた。
こっちを先に片付ける気か⁉
その場にいた全員がそう思ったに違いない。
だから自分とファバルは足を止め身構えた。
そして逆に、ギルやキュアン達が自分達の代わりに尻尾の付け根に攻撃を仕掛けようと動き出した。
まさにその瞬間、なんとファブニールが後ろ脚で立ち上がったのだ。
これには皆が一様に驚いき一瞬動きを止めてしまった。
「なっ⁉」
「自ら腹を晒すとは……」
自分とファバルも呆気にとられて見上げていた。
そんな中、アルティだけが冷静に無防備に見えるファブニールに渾身の矢を放っていた。
その矢は見事、ファブニールの喉元に突き刺さったが、致命傷にはならなかった。
それでも、その攻撃で自分達は我に返り再び走り出そうとしたのだ……
しかし、その瞬間!
ファブニールが少し背を丸めたかと思うと、一気に体中の棘が伸びた!
「何ッ⁉」
「うがぁ!」
この意外な攻撃に攻めかかっていた攻撃隊だけでなく、盾部隊も陣形を崩され負傷者が続出したのだ。
「あんな攻撃手段が残ってたのか!」
「ギル様⁉ ご無事かー⁉」
「皆! 大丈夫⁉」
「向こうは完全に陣形が崩れた!」
その意表を突いた攻撃とそれによる仲間達の損害に目を奪われていた自分達は後悔した。
自分がファブニールに視線を戻した時には既にブレスを吐く寸前だった……
「ッ⁉ ファイヤーブレスだ!」
自分がそう叫んだ時には遅かった……
まさかの棘攻撃と炎の連続攻撃…どちらも避ける事も出来ずまともに食らってしまったのだ。
棘には毒があったのだろう。掠り傷程度だったドワーフ達の動きも鈍い……こちらは四人とも炎のブレスを耐火マントとレジスト魔法で凌いだが、マントはぼろぼろ、レジスト魔法の効果は消し飛んでしまいアルティとカルノスにはダメージがあった様だった。
しかも、アイテム袋も焼けてしまい防毒マスクやポーションが使い物にならなくなってしまった。
これは一気に形勢が不利になった……
「大丈夫か⁉ 三人とも⁉」
その問いに一番離れた位置にいたカルノスは無言で弱々しく手を上げる
「僕もなんとかね……でも動けるまで少し待ってほしいかも……」
「儂の方は大丈夫じゃ! 鍛冶屋が火なんぞでくたばれんわ!」
四人とも何とか無事の様だな。
ならここで手を緩める訳にはいかない。
それにファブニールは少し前屈み気味になってはいたが、未だに腹を晒して立っている。この好機を逃しては!
そう思い攻撃に移ろうとして、再び動きが止まった……
ファブニールの口元から紫色の霧が漏れていたからだ。




