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#54 神様なんているわけないじゃん。みんな大げさだなあ

 朝。少しだけ早く起きた俺は、静まりかえった廊下をひとり歩いていた。


 例の映像が届いてから5日。

 作戦の方針もほぼ固まり、全ての準備に見通しが付きかけ、後は手を動かすだけという段階だ。


 余裕が出来ると余計なことを考える。

 俺自身が言った通り……


 作戦を練っている最中、俺は自分の無力を幾度となく悔やんだ。

 俺がもし、大量のサイバネ強化兵を相手に単騎無双できるような強さなら、他の人達にリスクを追わせることなんて無かったのに、と。

 とは言っても、俺に何ができただろう。この世界で目覚め、神になって数日。俺はできる限りのことをやっていたんだから、無念には思っても自分を責めはしない。問題はそこじゃないんだ。


 なんでオレが、絶妙にチートしきれないシステムなのか、って話。


 連日連夜、アンヘルと詰めて作戦を考えた小会議室に俺は入る。


「アンヘル」

『はい、賢様。会議の開始予定時刻まではまだ47分21秒ございますが、何かご用でしょうか』


 どこかに付いてるらしいスピーカーからアンヘルの声がした。ボディがここに居ないので『天啓』と『順風耳』の機能を使って会話している。

 秒単位で予定の話をするとかいう、ありがちなAIムーブしやがって。


「お前に質問がある」


 椅子のひとつに座って、壁を睨みながら俺は言った。


 俺は気がつくべきだったんだろう。初期状態のアンヘルが、危険を直前に知らせるだけで、『神の身を守る』ことが条件付けられていなかったという時点で。……神に死なれて困るなら、それを最優先にプログラムされていたはずだ。


 俺は気がつくべきだったんだろう。神が目覚めるより早く、神の祠の扉が開いてしまい、保護筐体コフィンを壊して簡単に神を殺せるという話を聞いた時点で。……そう、自動的に神が目覚めるようにしたり、目覚めるまで扉を開けないようにすれば、神の身を守ることは簡単だったはずだ。


 俺は気がつくべきだったんだろう。こんな神のために全てが用意されたかのような世界なのに、神に対抗する手段がこれだけ溢れている時点で。……確かに俺はチートめいた異常な力を持っている。だが、それは全能とはとても言えないものだ。現にムラマサ相手には殺されかけた。


「アンヘル。この世界は、わざと、神を殺せるように設計されている。間違いないな?」

『さようでございます』


 全くもって無感情に、いつもの調子でアンヘルは答えた。


 教会の連中がやってるのは、世界の設計ミスを突くバグ技じゃあなかった。

 何者かが神殺しにも勝ち筋を残していたんだ。


「そんな風になってんのは、何故だ? 俺に黙ってた理由も聞かせろ」

『まずこれまでお伝えしなかった理由に関してです。私にはいくつか、神本人から質問されない限り自発的に伝えてはいけない事項が設定されております。

 先ほどの質問は……おそらく神の精神的平衡を保つため……当該カテゴリに該当する事項であり、これまで賢様にお聞かせすることは致しませんでした』


 まぁね、確かに敢えて伝えるべき事ではない。

 神が殺害可能であることは、状況やスペック説明だけで十分察することができる。それだけ分かっていれば、わざわざ裏設定を伝えてビビらせる必要は無いってことか。


「じゃあなんでそんな設計になってるんだよ、この世界は」

『神が乱心した場合、それを住人によって止められるように、という、一種の安全装置としての側面がひとつ。万単位の犠牲と引き替えであれば、神を殺すことは可能なのです。

 補足として申し上げますと……これまで賢様が徹底して『天罰』による背教者の誅戮を避けておられましたのでご説明申し上げる機会がなかったのですが……『天罰』によって殺害可能な人間は1日1000人に限られ、その時点で麻痺銃スタナーモードに切り替わります。つまり……』

「つまり方舟中にレーザー降らせて一夜にして人類皆殺しってのはできないわけか。フェイルセーフってやつだな」


 どんなアホが権限を握っても大丈夫なよう、システム的に安全装置が設けられているわけだ。

 ……それだけか?


『ですがそれ以上に、方舟計画においては、最も優れた政体を模索することが目的。すなわち、敢えて神の手を離れ人のみにて生きる選択をするのなら……世界の設計思想に反して生きるというなら、それすら肯定するのが筋道とされたのです』


 そらこれだ。

 どこからともなく響く声が、残酷な世界の真実を俺に伝える。

 ショックを受けるとか絶望するとかよりも、ああこの世界を作った奴らの考えることはそんなもんだろうなと呆れ半分に俺は納得した。


「んじゃ『1カ月にひとりしか増減できない』『最大10人』の眷属とかいう謎の縛りの意味は?

 ホントこの制限が無けりゃ何も悩む必要なかったんだけど」

『眷属の数が制限されるのは、単純に魔法力コマンドリソース割り当ての限界という意味もあるのですが、神が力を持ちすぎないようにと言う意味もあります。

 人数を増やすまでに間が必要なのは、眷属を倒すことで神の力を削げるようにです。眷属は神の補佐であると同時に、その強大な力によって神を守護する者。仮に眷属を倒したとしても次から次に眷属を作られた場合、神に挑む者は絶望的な戦いを強いられます。故にルールが設けられたのです』

「ヒュー……魔王の四天王とかなんかそういう感じのやつか」


 俺は笑っていた。失笑ってやつだったと思う。

 あまりにも馬鹿馬鹿しすぎる。これはデスゲームだ。

 人間とか、集団とか、社会とか、なんかそういうのの意思を見極めるために、実験のために作られた。フェアでこそ無いがちゃんとルールとバランスがあるゲームだ。


 一瞬、自分の必死さが馬鹿らしく思えた。しかしそれでも必死にならなければならない。……このゲームは選択を誤れば大勢の人間が死ぬ。


『賢様。あまり私を信頼なさいませぬよう』


 姿無き天使が戒めた。


『私は世界運営支援システム。いかなる命令にも可能な範囲で応え、いかなる問いにも答えられるものであれば正確に答えます。その点に関しては信用していただけるかと自負しております。

 ですがあなた様の治世をお助けするのはあくまでも目的達成の手段であり、より優れた社会形態を選定するために作られた選定の過程プログラムでしかないのです』

「つまり運営ゲームマスターはお前だけ。俺も特別な役割を持たされただけの、プレイヤーのひとりにすぎないって事か」

『さようでございます。……私にお怒りですか』

「ううん。お前はそういう役回りなんだろ。怒るとしたらこの方舟を作ったクソ野郎、人間を数としか思ってないデスゲームフェチに対してだ」


 誰も居ない部屋に向かって俺はそう言った。


「上等だ。何を今更。俺がすることは変わらない。乗ってやろうじゃねーか、このクソボケなゲームに」


 これは、確かに俺が知らなくてもいいことだったとは思う。どのみち俺は、俺の正義に従って戦うしかなかったんだから。

 だけど心情的には、知らずに居るよりはずっといい。


「見てろ。俺はやってやる」


 700年も昔のイカレ野郎どもが何を考えていたとしても、俺はただ、この世界に今生きる人々をひとりでも多く救ってみせる……それだけだ。


 *


「ああ……見ているよ。応援しているから、がんばっておくれ」

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