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第七十八話 MAGが足らない日

 星一朗は唸っていた。

【箱庭】地下にある竜二所有の【コレクションルーム】のいつもの場所で。

もう何度目だろう、彼が唸りながら方眼紙とゲーム画面を交互に見るのは。

ディスプレイの先から流れてくる荘厳なメロディーが、

さらに現状の鬱屈感を演出していると言っても過言ではないだろう。

 頭を悩ませている星一朗の横で、涼しい顔をしてホットティーを一口含む

見目麗しき女性は彼の様子をニコニコ顔でがんばれーと他人事のように口を添えるだけであった。

テーブルの上には彼女の叔父である竜二が作ってれた特製クッキーが沢山盛られたお皿もあり、

程よい甘さと程よい塩気で、クッキーはまだ焼きあがりの暖かさを保っていた。


「……ここはどこだ?」

「カテドラルの地下1階ですってば。

 確かに何回か階段を昇ったり降りたりしていますけど、敵悪魔の出現状況から間違いありません。

 もうひと踏ん張りです! せっかくラストダンジョンまできたんですから!」

「これさ、1回トラポート(セーブポイントへワープ)でぴょいっとターミナルに飛んだほうがよくない?

 ほら仲魔連中のMPも減ってきてるし物理反射とか怖いし?」

「えー、せっかくここまで来たのにですか!?

 もう少しで地下2階のはずだから頑張りましょうよ!」


 なんでこの娘はマップ情報も見ていないのに、

はっきりとここは地下1階だと明言できるのか星一朗には理解できなかった。

長年のプレイ知識からくるものなのか、はたまた人類にはまだ知られてない超能力の一種なのか、

眉間にシワを寄せるのが精一杯の男にとってはまるで未知の能力持ちのエスパーにすら見える。


 これまで何度も助言を頼もうかと思ったようだが、

こうやって苦しむのもゲームの醍醐味だと思い直し、

苦渋の決断と言わんばかりにその声はあげないようにしていた。


「でもまあ、よくチェスター君が3Dダンジョン系のゲームをやろうと思いましたね。

 前から苦手なだけで嫌いではないとは言っていたのは知ってますけど。」

「まあ、なんつーかね。

 人様のプレイ動画とか結構あがってんじゃん。

 アレを見ていると俺にも出来るんじゃね、みたいな錯覚になったわけで。

 最近のやつはやりやすくなってんだなーというのはわかったけど、

 やっぱやるならレトロからでしょ、というね。」

「なるほどー、それで今までやりたくてもやれなかったゲームに手を出し始めたってことなんですね。

 じゃあ近日中に日本のRPGの原典とも言われるウィザードリィにも……。」

「あ、いや、ウィズはちっとたんま。

 すまないが、プレイ動画とか見たりセシルからアレコレ誘惑されても

 全くクリア出来る未来が予想できん。

 宝箱開けるのに人死が出るとか、パーティー全滅とか今の俺には耐えられん。」

「あ、あのあたしは……誘惑なんてしてませんってば。」


 星一朗がプレイしているゲームはスーパーファミコン版【真・女神転生】、なんと登場する敵は全て神や悪魔。

マルチエンディング方式でありゲームプレイ中の選択肢によって分岐するようになっている。

思想や価値観によって陣営が異なっており、

簡単に概要を説明すればロウルートであれば秩序と法のもと天使が仲間になり魔王を倒す陣営、

カオスルートであれば自由と混沌のもと魔王が仲間になり天使を倒す陣営、

最後はそのどちらの陣営もつかず中道を行き全てを敵に回すニュートラルルート、

どっちつかずはどちらからも敵という図式である。

世界中の神や悪魔が一同に会する現在もシリーズが継続しているなかなか濃い目のRPGである。

ちなみに本作についてはプレイステーション版や

バーチャルコンソール版といった移植や配信が多い作品でもあり、

今の環境でもプレイ自体はそう難しくはない。


 3Dダンジョン系のゲームを克服するために前々から考えてはいたようだが、

小旅行帰りのタイミングからプレイをする気になったようである。

ただクリアするだけでは味気ないと鼻息荒く言い放ち、

マップは見ずに方眼紙でマッピングしてやると宣言したのだった。

さらにどうせやるなら原典たるスーパーファミコン版が良いだろうと言ってしまったこともあり、

実機の所有の関係上、【箱庭】入り浸り生活が再開されたのであった。


「マップくらいは見てもよかったんじゃ……。」

「宣言しちまったもんを撤回するのは敗北以外になんでもない!

 せっかく迷いながらこの大聖堂カテドラルまで来たんだ。

 なので最後までナビお願いします!」


 苦しむのもゲームの醍醐味、という意識はどこへ行ったのやら。

クリアが最重要と考え直したのだろうか。


「んーそれってやっぱり……あたしっていうナビに頼っちゃだめなんじゃ……。」

「セシルさんがいないとボクここで詰んじゃうので!!」


 仕方ないですね、と言いながらセシルはアドバイスを始めた。


「昔のゲーマーは偉大だぜ…オートマッピング機能がある最近とはプレイ環境が違いすぎるもんな。

 俺、初代のウィザードリィとかデジタルデビル物語・女神転生とか極めた人を素直に尊敬するわ。

 絶対にこの方眼紙さんが無いとダンジョンへ挑む気にならん。」

「おじさまは……やってそう。

 たぶんこの部屋のどこかにそのソフトもあるわけだし。」

「最早、君のおじさまは伝説のゲーマー兼コレクターだよ。

 絶対その道の連中に崇められてる気がする。」


 星一朗の真・女神転生もあと僅かでクリアであるが、彼はカオスルートを進めていた。

これまで様々なルート分岐のフラグやら選択肢やらがあったのだが、

天使と悪魔の主張を聞いた結果、天使ムカつくとの回答により悪魔側へ協力する気になったからである。

問題はここで起きた。MPが減っていた1軍メンバーのラクシュミとキクリヒメをマグネタイトの残量も考慮して一旦下げたのが原因だった。

彼はこれまでニュートラル属性だった為、どの属性に所属する仲魔も呼び出せたのであるが、

ゲームの仕様上、反対勢力の仲魔は呼び出すことは出来ない。今は思いっきりカオスの人。

つまりこれまで愛用していた回復魔法が使えるロウ属性の仲魔と使用できなくなるということである。

なお、星一朗の場合、引っ込めた後改めて前線に出す際に発覚したようである。


「し、しまった!!!

 今頃気づいたけど、キクリヒメとかラクシュミとか呼び出せないじゃんか!

 回復役ヒロインしかいねーっ!!」

「チェスター君、女神様好きだもんね……。

 天使や女神って回復系魔法揃ってるから使いやすいけど、ここらへんは罠な気がするなー。」

「否定はしない、だが、どうしよう……。」


 取り敢えず保険で入れてたマヤ(回復が使える)とゾウチョウテンを引っ張り出し、何とかなりそうとのセシルからお墨付きをもらったのでこのまま進めることにした。

セシルは星一朗が作成していたカテドラルのマップの方眼紙に目を通していると一箇所記入ミスがあることに気づいた。

彼女の記憶によればそこには確か扉があったはずであると、すぐさま星一朗は確認へ向かった。

案の定、セシルの指摘通り通れないとしていた通路に実際は扉があった、まさかの記入ミスでとんだ遠回りをしていたようである。

その扉をくぐり先へ進んでいくと2階へ上がれる階段が見つかったのだった。


「2階に着いたはいいものの、

 この代わり映えのしない光景はファイナルファンタジー3のクリスタルタワーを彷彿とさせるぜ

 ……セーブポイントが無いってのもな!」

「チェスター君はラストダンジョンに何か恨みでも……って自分で言っていてなんですけど、

 恨みの一つも持っていないゲーマーはいないですね。」

「ラストダンジョンはゲーム開発者との戦いのファイナルラウンドみたいなもんだしな、

 昔のゲームほどクリアできるものならクリアしてみやがれを感じるぜ……。」

「ドラゴンクエスト2のロンダルキアの洞窟は有名ですよね、

 エンカウント率の高さと無限ループ、そして何よりドラゴン……ドラゴン……。」


 あのトラウマが蘇りそうだったようで、ホットティーを改めてくいっと飲んで一息入れるセシル。


「こほん、当時の製作環境を思わせるエピソードもあってさらに有名になっていますね。

 想定レベルを35とかでやってくれたら平和でしたけど、ここまでネタにはなっていなかったかなと。」

「とんでもない話が四半世紀ぶりに出てきて唖然としたぜ…。

 さて、そろそろ他のゲームに思いを馳せるのは後でやろう、まずは最上階の天使を倒しに行こうぜ。

 メンバー的にはベルゼブブ、インドラジット、マヤ、クー・フーリンがいるし何とかなるよね?」

「……そうですね、下手を打たなければたぶん勝てるかと。」

「マグネタイトの残量が黄色信号なんだけど、きっと道中の仲魔トークで回復出来るかな……?」


続く

ゲームソフトの選定は作者個人の独断とプレイ経験で決定しています。

一部偏ってしまう事もありますが、何卒ご了承ください。

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