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舞踏会を約1週間後に控えたある日、手紙では謝罪していたものの、直接例の雷の日のことを詫びるために、シエラは王城を訪れた。快く許しをもらったシエラは、リディアにお茶に誘われテーブルを囲んでいた。
「そうなのよねー。この国って、歴史ある分厳格で、マナーとか厳しいし、あなたの苦労すごくわかるわ」
舞踏会の準備が大変だと、少しこぼしたシエラに対し、リディアは“ すごく”の部分を強調して賛同した。他国から嫁いできたリディアにとって、祖国で学んできたつもりでも十分ではなく、色々と苦労したという。
「歴史の授業も大変だったわ。私の生まれた国よりも長い歴史のある国だったから、覚える事も沢山あったのよね。」
「いえ、マナーや歴史は花園で学んでいたのでそれ程苦労していないのですが、貴族の方々の名前を覚えるのが大変で…」
そうシエラはため息をついた。
「花園って、マナーだけじゃなくて歴史も教えてくれるのねぇ。羨ましいわ」
「いえ、歴史は習った訳では無いのですが、本を読むのが好きで花園においてある本の中には歴史の本もあったので…」
「独学で勉強したってこと?!」
「はい、大まかな部分は理解していたので、とりあえずは十分だと言われました」
「…」
歴史の授業が一番嫌いで、よくサボっては怒られていたリディアには考えられない話だった。
「リディア様?」
「…貴族の名を覚えきれないと言ったわね、どこまで覚えたの?」
「伯爵家の方々まではなんとか…、その下の方々となると急に沢山になるのでなかなか覚えきれなくて…」
「…覚え始めたのはいつから?」
「リディア様に初めてお会いしたあとに、覚えておくようにとハルミオン様から…」
因みに、伯爵以上の家の数もかなりある。
「…そういえば、花園でも賢くて評判だったようね」
「はい、それが私がここに来た条件の一つですから」
そう、買われてきた時の条件。
かすかに痛む胸を無視して、シエラは微笑む。リディアはシエラの顔が一瞬曇ったことには気づかなかったようだ。
行儀が悪いと思いながらも、テーブルに肘をついた。
「私があなたと同じくらいの頃、この国に嫁いできた時だけど、この国のマナーや歴史を覚えるのに数ヶ月かかったし、貴族の名前を覚えるのにはもっとかかったわ。何度授業をサボってはハルミオンにイヤミを言われたことか」
当時を思い出したのか、苦虫を噛み潰したような表情をしたリディアにシエラはくすりと笑う。
だが、リディアが別段人より劣っている訳ではない。
まぁ一般的な令嬢は授業をすっぽかしたりしないが、授業の速度に関しては、国の令嬢が成長に合わせて身につける事項を数ヶ月で終えたリディアも割と優秀だ。それを上回るシエラにリディアは驚いた。
「ルイスとどちらが優秀かしら」
「ルイス、様?」
ふとリディアの口から出てきた、耳慣れない名前にシエラは首をかしげる。
「あら、まだ会ったことなかったかしら。レイの一番下の弟で、この国の第4王子よ」
「レイモンド様のということは、エミール様方の弟ですよね。どのような方ですか?」
レイモンドとアランとエミール、3人とも個性が異なる兄弟だ。末の弟はどのような人物なのだろうか。
「そうねぇ、学業に関しては一番秀でているのではないかしら。幸いなことに、この国の王子たちは皆優秀だけれど、それぞれ得意分野が違うのよね」
突出したものはないが何事もバランスよくこなすが王太子レイモンド、武芸に優れていて騎士団所属の第2王子アラン、社交性に優れ外交を担当しているのが第3王子エミール。そして、記憶力がよく学業面が特に優れていて将来を期待されている末の王子ルイスとのことだ。
「シエラとは年も近いし、話が合うかもしれないわ。レイに似て人当たりの良い可愛い義弟なの。また会わせてあげるわね」
はい、ありがとうございます。シエラはそう告げようとしたが、後からの声に阻まれた。
「帰る時間だ、シエラ」
「ハルミオン様」
振り返った先に、ハルミオンの姿を見つけ微笑むシエラに反して、話を遮られたリディアはハルミオンを睨む。
「ちょっと、まだ話してるんだけど!」
「それはすみません、リディア様」
「絶対わざとでしょう!?何よ、シエラが私と楽しそうにしているから嫉妬してるの?」
「そうではありませんが」
じゃあ何よ、とリディアは今にもハルミオンに飛びかかりそうな勢いだ。
いつもの光景に慣れつつあるシエラだが、そろそろ止めないと、と思っているところにタイミングよく声が聞こえた。
「あながち間違いじゃないよね」
ハルミオンに続いて入ってきたのは、仕事を終えたレイモンドだった。
「どういうこと?」
夫の言葉にリディアは反応する。別にリディアもハルミオンが自分に嫉妬下と本気で思った訳では無い。
そう考えたのがわかったのか、レイモンドは笑う。
「嫉妬してるって言うのは間違いじゃないってこと。そうだよね?」
話を振られたハルミオンは目を伏せる。
「だから、どういうこと?」
未だ話が掴めていない様子のリディアとシエラに、レイモンドは説明する。
「ハルは、シエラちゃんがルイスと会うのが気に入らないんだよ。ハルよりも年齢も近いし女性に対しても卒なく接することのできる子だからね」
エミールの件もあるしね、とレイモンドは続けた。
まさかあのハルミオンが、とは思ったが、目をそらす様子を見てリディアは開きかけた口を閉じる。
…どうやら夫の推理は当たっていたようだ。
じろりと睨まれたレイモンドは肩をすくめる。
「あの、ハルミオン様…」
こちらを伺うシエラに気づいたハルミオンは気まずげにしながらも目線を合わせて告げた。
「…会うときは俺がいる時にしろ。…エミールの時みたいになるのも面倒だ」
「はい…」
自分を心配してくれている、ハルミオンのひねくれた言葉をそう解釈したシエラは、胸の奥が暖かくなった気がした。




