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雷騒動から数日後、ローウェル公爵邸には、仕立て屋が訪れていた。洋服を作りにではなく、出来上がった洋服を持ってきたのだ。


「どうでしょうか?」


柔らかな黄緑色の生地に薄いシフォンを重ねたドレスを纏ったシエラが、やや不安げな様子でハルミオンの前に姿を現す。ウエストの切り替えから裾に向かって、徐々に濃くなるグラデーションが印象的なドレスだ。

それを見たハルミオンは、満足げに頷く。


「…よく似合っている」

「ありがとうございます…!」


頬を染めるシエラの横で、ハルミオンは仕立て屋に細かい指示を飛ばす。


数着分の試着をしたのみでほとんど何もしていないシエラと、あれこれ忙しく指示を出すハルミオン。そんな2人を眺めつつ、エリーは隣に立つ執事に話しかけた。


「旦那様はいつの間にこれ程のドレスをご注文なさっていたのでしょうか」


「王太子様と王太子妃様の元へ奥方様を初めてお連れになった直後のことでした。正式では無いとはいえ、王家の方々と顔を合わせた以上、公の場に出ることは避けられないと予想されていたのでしょう」


「成程、それでこちらのドレスは、全て旦那様がお選びに?」


「えぇ、それはもう、一着一着真剣にお選びになっていました」


「そうですか、旦那様が」


「えぇ、そうです」



ふと視線を感じて振り返ったハルミオンは、何やらニヤついている使用人らを見つけ眉間に皺を寄せるが、長年公爵家に使えている2人は動じることは無かった。


そうしているうちに、仕事を終えた仕立て屋は、最終仕上げをした後にまた持ってくると告げ、屋敷を後にした。







「はい、リディア様から伺いました」


壁際には本棚がズラリと並び、中心には本を読むための小さなソファセットが置かれているこの部屋は、屋敷の中で2人で過ごす際の定番の場所となっていた。仕立て屋が去った後、ハルミオンはその場所で隣に座るシエラに、王城で行われる舞踏会の話を切り出したのだ。


「伝えるのが遅くなってすまなかった。…共に出席して欲しい」


「はい、勿論です」


即答するシエラだが、返事をするその声には不安が隠れ見えた。




それもそのはずで、花園出身のシエラは勿論、今回が初めての社交界デビューとなる。

その上、2人の結婚を祝福する者はほとんど居ないだろう。条件の良い独身男性の筆頭だったハルミオンだ。娘を持つ男は皆、突然現れその座を妻の座を奪ったシエラに敵意を持つだろう。そうでない者も、貴族と花園の娘の結婚をよく思わないものが多い。


ハルミオンはシエラに苦労させたくなくて、出席しなくても良い方法を探していたのだが、やはり無理なようだ。しかし、


「心配しなくてもいい」


自分が守る、そう告げられたシエラは隣のハルミオンの顔を見上げる。心のうちに存在していた不安が、ゆっくりと薄れていくのを感じた。


「ありがとう、ございます」





書庫を使わせて欲しい、シエラが勇気を振り絞って告げた頃は向かい合わせに座っていたが、最近は隣合わせで座ることが多くなった。同性であっても、未だ他人と近距離にいることに慣れない様子のシエラが、ハルミオンの側では、心無しか力を抜いているようだった。



その変化をハルミオンは嬉しく思う。

遅い春を迎えた男は無表情の仮面の下で、隣で楽しそうに本を読む少女を優しい眼差しで見つめていた。



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