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エンディング

(4人の偉人たちによる、魂を込めた『未来への提言』が、静かに、しかし確かにスタジオを満たしている。それは、もはや対立する意見ではなく、一つの大きな多面体のように、様々な角度から真実の光を放っていた。司会者あすかは、その光の中心に立ち、深く、そして穏やかな声で語り始めた)


あすか:「皆様、ありがとうございました。哲学、規律、希望、そして、現実…。皆様の最後の言葉は、それぞれの人生そのものであり、私たちが未来を考える上で、決して欠かすことのできない、四つの道標となりました」


(あすかは、ゆっくりとスタジオを歩きながら、これまでの激しい議論を振り返る)


あすか:「私たちは、この対話の中で、何度も意見の衝突を目撃してきました。『民を救う』という希望と、『国を守る』という規律。『見えざる手』に委ねる哲学と、『見える手』で導く現実。そのどれもが、自らの正義を掲げ、決して譲ることはありませんでした」


(あすかは立ち止まり、4人の顔を順に見渡す)


あすか:「しかし、今、皆様の提言を伺い終えて、思うのです。…もしかしたら、これらは、対立するものではなかったのかもしれない、と。規律なき希望は、やがて暴走し、自らを滅ぼす炎となる。希望なき規律は、冷たく、硬直化し、いずれは生命そのものが息絶える。現実を見ない哲学は、ただの空虚な言葉遊びに終わり、哲学なき現実は、進むべき方角を見失い、道を誤る…」


(あすかの言葉が、これまでの対立を、より高次の次元で統合していく)


あすか:「皆様の言葉は、まるで一つの大きな交響曲のようでした。時に激しく、時に静かに。異なる楽器が、異なる旋律を奏でながらも、全体として、一つの壮大な音楽を織りなしていく…。私たちに必要なのは、その中のどれか一つの楽器だけを選ぶことではない。四つの音色すべてに耳を澄まし、そのハーモニーの中から、自分たちの時代の『主題』を見つけ出すことなのかもしれません」


【対談者の最後の感想】


あすか:「(深く一礼し)皆様、長時間の対話、誠にありがとうございました。この歴史的な一夜も、間もなく終わりを迎えようとしています。最後に、この対談を終えての、偽らざるご感想を、一言ずついただけますでしょうか。…では、スミス先生から」


アダム・スミス:「(穏やかな知的な笑みを浮かべて)ええ。実に、実に知的な刺激に満ちた時間でした。私の理論が、後世でこれほど多様な形で解釈され、実践され、そして時には誤解されていることを知れたのは、学者として望外の喜びです。特に、皆様のような偉大な実践家の方々と、直接言葉を交わせたことは、何物にも代えがたい経験でした」


(スミスは、少しだけ悪戯っぽく続ける)


アダム・スミス:「ですが、忘れないでいただきたい。議論はあくまで議論。大切なのは、この番組が終わった後、あなた方が、何を考え、どう行動するかです。…私の提言が、あなた方の胸の中にある『公平な観察者』を呼び覚ます、小さなきっかけとなったのであれば、幸いです」


あすか:「ありがとうございました。…では、松方さん。あなたは、この対談、いかがでしたか」


松方正義:「(腕を組み、いつもの厳しい表情で)…ふん。言いたいことの、まだ半分も言えちょらんわ。時間も足りぬし、何より、甘っちょろい理想論を聞かされるのは、どうにも性に合わん」


(しかし、その言葉とは裏腹に、松方の表情は、来た時よりもどこかスッキリしているように見える)


松方正義:「…じゃが、まあ、少しは胸のつかえが下りたわ。わしが、なぜ『鬼』にならねばならなかったのか。その一分いちぶんくらいは、伝わったであろう。…(高橋をチラリと見て)高橋。お主の、その場しのぎの甘さは、やはり好かん。じゃが、そのしたたかさと、民の心を読む才覚だけは、ちと見直したわ。お主のような男がおったからこそ、わしも安心して憎まれ役でいられたのかもしれんな」


高橋是清:「(にこやかに笑い)なんじゃい、松方殿。素直じゃないのう。わしも、あんたのような石頭がおったからこそ、安心してアクセルを踏めたんじゃ。いつだって、最後はあんたが国を立て直してくれると、どこかで信じておったからのう。感謝しておるよ」


(かつてのライバルたちが、時を超えて、互いの存在を認め合う。その光景に、スタジオは温かい空気に包まれる)


あすか:「…ルーズベルト大統領。あなたにとって、この一夜はいかがでしたか」


フランクリン・ルーズベルト:「(快活に笑い)楽しかった!実によろしく、有意義な『闘争』だった!スミス先生の哲学は、私にとって最高の挑戦だったし、松方サンのような、信念の塊のような男と意見を戦わせるのは、政治家として実に血が騒ぐ!高橋サンのような、ユーモアと現実感覚を併せ持った実務家とも出会えた。素晴らしい出会いに感謝したい!」


(FDRは、カメラに向かって力強く語りかける)


フランクリン・ルーズベルト:「さあ、諸君!議論は終わりだ!ここからは、行動の時間だ!この番組を見て、何かを感じたのなら、明日から、何か一つでも行動を起こしてほしい!それが、我々をここに呼んでくれた、君たちの答えになるはずだ!」


あすか:「ありがとうございます。…それでは最後に、高橋さん、締めの言葉をお願いします」


高橋是清:「(満足そうに頷き)いやはや、本当に楽しかった。偉い先生や、大統領、そして石頭の頑固者殿とも話せて、あの世で良い酒の肴ができたわい。あすかさん、こんな面白い席を用意してくれて、本当にありがとうな」


(高橋は、少しだけ真面目な顔になり、優しい目で語りかける)


高橋是清:「わしは、難しいことはよう言わん。ただ、一つだけ。この番組を見てくれた、日本の若い衆に言っておきたい。…この国は、あんたが思っているより、ずっと面白くて、ずっと懐の深い国じゃよ。わしみたいな、奴隷にまでなった男が、総理大臣にまでなれる国なんじゃからな。だから、あんまり思い詰めなさんな。失敗したって、ええじゃないか。何度でもやり直せる。わしが、それを保証してやる。だから、どっしりと構えて、自分の人生を、そしてこの国を、存分に楽しんでおくんなさい」


【対談者、退場】


あすか:「(目に涙を浮かべ、深く、深く一礼する)皆様、本当に、本当に、ありがとうございました。皆様の魂の言葉、確かに、この胸に刻みました。…名残惜しいですが、お時間です。皆様を、元の時代へと、お送りいたします」


(あすかがクロノスを操作すると、スタジオの奥に、再びスターゲートが静かに開く。それは、来た時よりも、さらに穏やかで、慈愛に満ちた光を放っていた)


あすか:「まず、近代経済学の父、アダム・スミス先生。あなたの理性の光が、私たちの未来を照らし続けることを、信じています」


アダム・スミス:「(静かに立ち上がり、全員に一礼して)良き旅を、皆さん」

(スミスは、静かなクラシック音楽と共に、光の中へと姿を消した)


あすか:「次に、国家の礎を築いた、財政の鬼、松方正義さん。あなたの厳しいまなざしが、私たちが道を踏み外さぬよう、常に見守ってくれていることを、忘れません」


松方正義:「(無言で立ち上がり、最後に高橋を一度だけ見てから)…ふん」

(厳かな雅楽の調べと共に、松方は、一切の未練なく、潔く光の中へと消えた)


あすか:「そして、アメリカに希望を取り戻した、不屈のリーダー、フランクリン・ルーズベルト大統領。あなたの行動する勇気が、私たちに、一歩を踏み出す力を与えてくれました」


フランクリン・ルーズベルト:「(車椅子を巧みに操り、最後に力強い笑顔を残して)Good luck, my friends!」

(力強いマーチと共に、FDRの姿が光に溶けていった)


あすか:「最後に、日本の民を愛し、その暮らしを守り抜いた、ダルマ宰相、高橋是清さん。あなたの温かさを、私たちは、決して忘れません」


高橋是清:「(にこやかに立ち上がり、スタジオ全体に手を振って)じゃあな、皆さん!達者でな!」

(軽快な和風ジャズの音色と共に、高橋は、最後まで人の良い笑顔のまま、光の中へと帰っていった)


【ラストメッセージ】


(スターゲートが静かに閉じ、スタジオには、再びあすか一人だけが残された。先ほどまでの熱気が嘘のように、静寂が満ちている。あすかは、ゆっくりとカメラの前に歩み寄り、視聴者に、最後のメッセージを語りかける)


あすか:「歴史は、博物館のガラスケースの中にある、ただの古いものではありません。それは、書物の中に閉じ込められた、ただの記録でもありません」


(あすかは、自らの胸に、そっと手を当てる)


あすか:「それは、今も私たちの血管を流れる、熱い血潮なのです。高橋さんの現実感覚も、ルーズベルト大統領の希望も、松方さんの責任感も、そして、スミス先生の理性も。その全てが、私たちの内側で、今も生き続けている。私たちは皆、歴史の子なのです」


(あすかは、手の中のクロノスを、そっと閉じる)


あすか:「歴史の物語に、終わりはありません。彼らが紡いだ物語は、今、私たちの手に委ねられました。次に、この国の、そして世界の歴史の扉を開くのは…あなたです」


(あすかは、深く、そして優雅に、一礼した。スタジオの照明が、ゆっくりと、ゆっくりと落ちていく。そして、完全な闇と静寂の中、番組は幕を閉じた)

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