散歩の五十話 闇の犯罪組織レッドスコーピオン
「さて、状況を整理しよう」
食後に全員で話をする事になった。
とはいえ、ギルドマスターは既に何かしらの確信を得ている様だ。
「先ずゴブリンの事だが、繁殖するのは早い魔物ではあるが、わずか数日の間に自然環境下で急激に増えることはない」
「どこかにゴブリンの巣があった場合でもですか?」
「ゴブリンの巣がある場合でも、食料を求めて頻繁に村を襲う事は稀だ。それは森の中である程度の食料を得ることができるからだ。そして、数日前にゴブリンの目撃情報があったのは集団ではなく数匹レベルだ」
ギルドマスターの話を聞いて、僕は何となく理解してしまった。
他の人も分かった人がいるようだ。
お互いに顔を見合わせていた。
因みにシロは分かっていないのか首を傾げていたが、アオは何となく分かった様だ。
「もしかして、このゴブリンの大量発生は人為的に引き起こされたと」
「私はその可能性が高いと思っている」
僕の問いかけに対して、ギルドマスターは断定してはいないが、ほぼ断定的に捉えていた。
皆はその真実にビックリしていた。
「魔物を呼び寄せる魔道具は存在する。そしてここ数日の間にとなると、とある人物しか該当しない」
「あの二人に付き添っていた女性ですね」
「そうだ。奴らには、我が領にダメージを与える理由もある」
あの時、ギルドにいた殆どの人が怪しいと見ていた、バクアク伯爵家の二人をぶっ叩いた女性。
普通じゃないと思ったけど、ギルドマスターは何かを掴んだ様だ。
「あの女性を調べて、嫌な名前を思い出したよ。犯罪組織、レッドスコーピオン。伯爵家だけでなく他の貴族とも繋がりがあると言われている、闇の組織の人間だ」
「レッドスコーピオン……」
兵の中には、ゴクリと息を呑む人もいた。
恐らく相当大きな犯罪組織なのだろう。
「闇の犯罪組織、レッドスコーピオン。兵の殆どは知っているが、シュン達も覚えておいた方が良いだろう。違法薬物や不法な魔導具の売買も行う、金が貰えるなら誘拐や強盗、殺人も行う集団だ」
「まるでマフィアみたいな集団ですね」
「まるでではなく、マフィアそのものだろう。売春や違法奴隷に賭博に高利貸し。何でもやって資金を得ているが、一部の貴族がスポンサーについていると言われている」
「バクアク伯爵は、そのスポンサーの一人であるのですね」
「そうだ。街で喧嘩を起こしていたのも、バクアク伯爵から依頼を受けたレッドスコーピオンの末端の構成員と判明している。あの女は組織の中でもそれなりに立場のある人間なのだろう」
ここに来て、まさかの犯罪組織が絡んでいる事実が明らかになった。
犯罪組織のやっている事が、まさに今回の事件と繋がっている。
そう思うと、馬車に人為的な傷をつけたのも、その犯罪組織で間違いないだろう。
「その女性の事は旦那である辺境伯の指示の下、兵に捕縛を命じている。しかし、行方をくらましているのか姿を見せていない。なので、念の為にこの村に私が来たわけだ」
「あの二人も姿を見せていませんか?」
「いや、あの二人はギルドに姿を見せている。あの女性がいないからか、受付で悪態をついていたがな。あの二人にも尾行をつけさせている。明日昼にも、ここにも兵が追加で届く予定だ」
「僕はどうしますか?」
「シュン達の実力なら、ある程度のゴブリンは対処できる。明日はそのまま調査続行だ」
これは本格的に大きな事件になってきている。
僕達も調査と言いつつ、ゴブリン退治も多くなりそうだ。
この時は、そんな風に思っていた。




