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4-25 祝福

本日クライマックスのため連投中です。

何事もなかったかのように呪いの模様が霧となって消え、しん、とした静かな空気が辺りを支配した。

レイナルド殿下が呆然と横たわるリューを見ている。


「リューカス……」


レイナルド殿下の掠れた声が響く。


「……っ俺は」


「何を弱気になっているのです!」


いつの間にかレイナルド殿下の隣には、リアーナ様が寄り添っていた。

その目には強い意思が宿っている。


「貴方は王になる。今まで必死に頑張ってきたのではないですか。認められたいと、王子に生まれた責務を果たしたいと、この国を守りたいと、そう言っていたではないですか!」


「……弟を……この手にかけて……?」


「王位を争うとはそういう事でしょう」


「……レイナルド」


スレイド陛下が静かに語りかけた。

倒れそうな身体から発する力のない声なのに、その声には芯があり、威厳がある。

死の際のこの体のどこに、こんな力があるんだろう。


「お前は良い国を作りたいのか、王の地位が欲しいのか、どちらだ。」


レイナルド殿下は、見つめていた震える手から視線を上げ、スレイド陛下を見る。


「もう一度言う。責務を果たし良い国を作る手段は、王になる事だけではない。自分の力が最も役立つ領域を見定めろ。それも一つの能力だ。……それから。」


スレイド陛下は一つ息を吐き出した。

レイナルド殿下を見つめる目は、厳しさと慈愛が混ざり合っている。


「己の価値を他人の物差しで測るな。地位を認められる為の手段とするな。認められたいと思うのは、自分で自分を認められていないからだ。まずは、あるがままの自分を認めろ。……既に私はお前という存在を認めている。何がなくても、お前は私の大切な子だ。」


レイナルド殿下は目を丸くしてスレイド陛下を見た。

その姿は、本来の繊細で弱さのあるレイナルド殿下そのものの姿だ。


「……っ何を戯言を!王家たるものそのような甘いことを言っては国が倒れます!」


「……そうだな、リアーナ嬢。私は王としての責務を果たさねばならない。それが、残酷であったとしてもだ。」


ぐっと力を入れ、マティアスさんの肩から手を話し、立ち上がる。

どこにこんな力があるのだろう。

もう、立てる力など無いはずなのに。


「第一王子レイナルドから王位継承権を剥奪、謹慎と呪いからの療養のため幽閉とする。マッカス家のリアーナは側妃ラナリスを唆し、妃の命を奪い王家の者に呪いをかけたとして拘束する。マッカス卿、そなたにも責任がある。拘束し、余罪がないか調査を行う。また、その地位を剥奪する。」


「………っ!」


「お前たちの沙汰は調査後……新王から言い渡す。」


しん、と静まり返った会場に、スレイド陛下の声が響く。


「今この時より、第三王子マティアスに王位を継承する。」


「……!!」


会場が驚きに包まれる。


「お待ちください!!マティアス殿下はまだ成人していないではないですか!!王位継承はまだできませんわ!」


リアーナ様が諦めず強い視線でマティアスさんを睨みつける。


「……僕の誕生日が来週の生誕祭の日だって、誰か言ったかな?」


マティアスさんが静かにリアーナ様を見返した。


「毎年ある建国祭と誕生日が一緒にされるのは可哀想だって、父上と母上が僕の生誕祭をずらしてくれていたんだよ。建国祭の一週間後に。」


リアーナ様がはっとした表情になる。

マティアスさんが静かに告げた。


「僕の誕生日は今日。建国祭の日だ。」


「………っ!」


スレイド様とマティアスさんの背後に凛とした姿で立つアリーニャ様を見る。

間違いない。これは。

アリーニャ様がマティアスさんを産み落としたその時に、未来を見越して計画したトリックだったんだ。

だから、リューもマティアスさんもスレイド様の意識がある期間を気にしたり、明確な誕生日の日付を言わずに「生誕祭はもうすぐだ」のような表現をしていたんだ。

アリーニャ様の近くに立つファリアナさんは驚いた表情をしている。

きっと、これは王家の秘密だったんだろう。

スレイド様とアリーニャ様、マティアスさん…リューだけで守ってきた、最後の一手。


ギリ、と目を瞑り俯いていたリアーナ様が再び顔を上げた。

その目は闘志に燃えている。

バッと足を踏み出す。

だが、それは直ぐに封じられた。


「これ以上罪を重ねるな」


タナトスさんがリアーナ様の手を捻り上げた。

小刀がカランと床に落ちる。


「……私の罪や命など、良いのです」


リアーナ様はなおもマティアスさんを睨み続ける。


「このまま死にゆくサラディーニを見続けるぐらいなら、この命惜しくはありません」


「……進軍してもサラディーニは救われないよ」


「世迷言を。地道な対策を続け、国力が落ち、飢えと貧困に苦しんだのはタナトスが一番知っていることでしょう。」


「破壊と殺し合いによる領土の奪い合いでは、いずれ人間は死に絶える」


マティアスさんの声が響いた。

リアーナ様がピタリと止まる。


「……人間は増えすぎた。この狭い世界は一つだ。国同士が手を取り合い、生きられる土地を守り増やすのが、これからの世界だ。僕はそんな国と、世界を作る。サラディーニの誇りある国民と一緒に。」


タナトスさんの背後にいた、私を囲んでいた人とは違う軍の兵士達がザッと動いて、リアーナ様やマッカス卿、そして数人の他の軍の者を拘束していく。


マッカス卿は項垂れながら、呟いた。


「……リアーナ。あれは……秘術ではなかったのか?お前、何故、呪いなどでラナリス様の命を奪うような事を……」


「父上も言ったではないですか」


リアーナ様の声は依然として芯のある声だった。


「サラディーニのためならば、犠牲は必要だと」


「……っそれは」


「兵士も妃も、同じ命です。」


リアーナ様は拘束されながらも、真っ直ぐに退出していった。


 


「……ルディア」


マティアスさんが私の方に進み出た。

背後ではファリアナさんやアリーニャ様が、心配そうな顔でこちらを見ている。


私はふわりと微笑んだ。

仕上げの時だ。


『マティアス殿下……いえ、国王マティアス陛下。王位継承おめでとうございます。』


精霊の声を響かせ、優雅に東の国の礼をとる。


『破壊より、育成を。侵略より、手を取り合い健全に競い合う発展を。精霊の民の生き残りである私ルディアは、新王マティアス陛下の新しいサラディーニを祝福致します。』


そしてゆっくり立ち上がり、両手を広げた。


『フィーリー!』


『はぁい!おめでとう!サラディーニ!』


ふわっと広いホールの宙に現れた人型のフィーリーが、たくさんの花びらを撒き散らす。

花瓶のあちこちから小さな芽のような妖精が飛び出して、たくさんの花を咲かせ、ドレスに飾り、柔らかな香りのする花を手渡す。


幻想的な風景に、わぁ、と歓喜の声が響く。


「おめでとうございます!マティアス陛下!!」


メノラス卿が満面の笑みで手を叩いた。

会場に祝福の拍手が広がる。

見渡すと、芸術工芸祭で話した人たちも沢山いる。

マダム・ファンポールがハンカチで目を抑えている。

これから国を強くし、手を取り合い、サラディーニの文化や環境を守っていくのはこの人たちだ。


「カルタスさん、いるかな……?」


「はい、こちらに」


どこからともなくカルタスさんが現れた。

やっぱりこの人は突然出てくる。


「リューのこと、お願いします。ちゃんとお医者さんに手当てしてもらって下さい。後遺症が残らない程度にしか治っていませんから。恐らく、明日には目覚めると思います。」


私は回答を待たずにその場を離れた。

テラスに繋がる大きな窓を開ける。


「ルディア……行くの?」


マティアスさんの声が背後に聞こえて、一つ息を飲み込む。

ダメだ、まだ早い。

今は見せ場だ。

最後まで、強く、美しく。


「はい、お世話になりました。」


私は素敵なお姫様の笑顔を浮かべられているだろうか。


「……その指輪、外さないであげてね」


マティアスさんは残酷だ。

私は返事をせずにそのままテラスに出た。


『リッキー!』


ヒィンと大きな羽を広げ仄かに光る白馬が暗がりのテラスに現れて、会場に歓声が巻き上がる。

リッキーはふわりとわたしを背に乗せ浮かび上がった。

横乗りだ。

リッキーも気が利くじゃないか。


「ルディア!!」


ファリアナさんが半泣きでリッキーの背に乗る私を見上げている。

そんな顔しないで欲しい。

今日はこの国の新王の、貴方の夫となる人の記念すべき日なのだから。


私はみんなに手を振った。


「ありがとうございました!みなさんお元気で!」


リッキーが空に駆け上がる。

満天の星空だ。

足元にはサラディーニの王宮が夜会の灯りと篝火に照らされて、暗闇に美しく浮かび上がっている。


素敵な人たちだった。

本当に、幸せだった。


『っ姉ちゃん!』


星空がグラリとぶれる。


『リッキー!もう大丈夫だ!転移したらすぐ消えて!』


ガッと掴まれてどこかの砂の上に着地する。

ここはどこだろう。

王宮からは遠いのかな。


『ほんと……カッコつけ過ぎでしょ……』


「……お祝いムードになってた?」


『十二分だよ』


ラナトはそう言うと私の口に何か押し込んだ。


『ごめん、ヒトの食べ物良くわかんなくて適当に持ってきたけど、これでいい?』


ほろ苦いチョコレートが口に広がる。

ふふ、と笑いが溢れた。

ラナトに食べ物をもらったのは初めてかもしれない。


「もうちょっと甘いほうが好きだなぁ〜」


『…………姉ちゃん』


贅沢言うなって怒られると思ったのに。

ラナトは少し間をおいてから、いつの間にか持ってきていたらしい私のカバンからタオルを取り出して私の顔に押し付け、次いで頭にバサリと何かを乗っけた。


『とにかくそれ着て。砂漠の夜は冷えるんでしょ。』


港町でリューに選んでもらったベージュのローブに、国境を越えてすぐにリューにもらったラクダの毛のポンチョ。


困ったな。

何処にもかしこにもリューがちらつく要素がある。


『……俺は暖かくないかもしれないけど、寄っかかるぐらいにはなるから。ちょっと寝な。』


ラナトは更にカバンから私のお気に入りのブランケットを取り出して私をくるむと、大きな虎のように獣化して私を包み込むようにして座った。

すべすべで優しい感じがする。

温かい気もする。

なんだかんだ、優しい弟だ。


ラナトにくっついて空を見上げた。

いつか見たのと同じ砂漠の星空には無数の星が瞬き、筋を描いて流れていく。

私もこの星空好きだなぁ。

何だか妙にぼやける星空を見上げながら、お気に入りのブランケットに包まった。

最後に抱きしめた感触が、何故か微かに腕に蘇ってくる。

打ち消すようにぎゅっと自分の体を抱きしめて、そのまま沈むように、瞼を閉じた。


読んで頂いてありがとうございます。


いいねブックマークご評価ありがとうございます!!

そして誤字脱字報告もありがとうございます!

とても嬉しいです!


ついにこの時が来てしまいました……

明日は最終話まで連投予定です。

ぜひ最後までお付き合いください!!


「なんてこった……」「ルディーー(;_;)!」

「リュー早く起きろー!!!」と思ってくれた方、

ぜひブックマーク、☆下の5つ星☆から☆いくつでもいいので応援よろしくお願いします☆彡

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