4.スープ
「よし!おしまい!食欲はある?何か食べれそう?」
バッチリ治療をし終えて食欲があるかと声をかける。
なんだかぼんやり部屋を見渡していたこの異国の人は、なんだか、少し気が抜けたような、安心したような顔でニコっと笑った。
「さっきからいい匂いがしてるから、実は凄くお腹が空いてるんだ。スープかな?もらってもいい?」
「食欲あってよかった!持ってくるわね!!!」
手当した患者が元気になるのはいつになっても嬉しい。
ルンルン気分でキッチンにスープを取りに行く。
後ろの方で、「まって!火傷気をつけて!!!」って慌てた声が聞こえた気がする。
満身創痍なのに人の心配してくれるなんて、優しい人なのかもしれない。
助けてあげてよかった。
晴れ晴れとした達成感を手に、私は熱々のスープをよそいにいく。
熱々のスープをちょっぴりこぼしつつ部屋のテーブルに運んでいくと、男は少し心配そうな顔でこちらを見ていた。
「…手は大丈夫?」
「ちょっと熱かっただけだし大丈夫よ!スープってどうしてすぐ手にかかるのかしらね。」
「………」
あまり配膳をしたことがないのだろうか、なんだか腑に落ちない顔をしている。
あぁ、そうか。
「ごめん、起き上がらせるわね!」
「え!?あぁ、大丈夫…っ、う」
「けが人が無理しないの!!」
大丈夫なわけがない。
死にかけたんだから。
慎重に優しく抱き起こすと、なんだか気まずげな感じで目をそらされた。
弱々しい自分が嫌なんだろうか。
「ありがとう‥」
「どういたしまして!自分で食べれそう?」
「大丈夫」
「…うそ、手首、赤くなってるじゃない!縛ったからよね!?ごめんなさい!」
治療者のくせに無駄な傷をつけてしまっていた。
しゅん、としながら男の手を取って傷薬をすり込む。
「余計に痛い思いさせてしまってごめんなさい」
「大した傷じゃないよ」
申し訳ない気持ちでいっぱいになって顔を見上げると、思ってたより優しい顔でこちらを見下ろしていた。
やっぱり、優しい人ってことで大丈夫なのかな。
「…まだちゃんと名乗ってなかったよね。俺はリューだ。遠慮なくリューって呼んで。」
「リューさんね!私はルディアよ。よろしくね。」
「ルディア、宜しく。助けてくれてありがとう。まだ少しの間お世話になるけど…必ずこの恩は返す。滞在中もできるだけのことはする。少しの間だけど、よろしく。」
律儀な人のようでよかった。
とりあえず、この様子なら変な心配はいらないだろう。
「ふふ、そんなお堅くなくていいのに!こちらこそ宜しくお願いします、リューさん。最近おしゃべりの相手がいなかったから嬉しいわ。」
「…リューでいいよ。こちらはお世話になりっぱなしなんだから。」
「じゃあ、遠慮なく。リュー!ご飯食べよ!!」
そう、リューは絶好の話し相手だ。おばあちゃんが亡くなってから、だいぶ気楽なおしゃべりをする機会が減ってしまった。リューは最初は丁寧な雰囲気だったけど、段々砕けた雰囲気になってきた。歳も近そうだし、これは話が合うかもしれない!!
キノコ拾いで、まさか絶好のおしゃべり相手をゲットできるとは、さすが私!!!
「リューを拾ってきてよかったー!」
「ぐっっ」
「ちょっと!?大丈夫!?」
リューが赤い顔でゴホゴホしている。
そういえば死にかけた昨日から、まだ1日しか経っていない。
「熱は?痛い?ベッドで食べたほういいんじゃない?ちがう、ごめん、私が食べさせてあげればよかったんだわ!!!」
「…っちがう、大丈夫だ。自分で食べれる」
「いいのよ、遠慮しないで!!!」
「待て、違う、本当に大丈夫だ!!」
「あちっ!」
「!!だから!大丈夫!?」
ほんとうにスープと言うやつはどうしてこう手にかかるのか。
不思議で仕方がない。
濡れタオルを手に乗せる。
再びリューに視線を戻すと、何故か下を向いてプルプルしていた。
…これは、笑ってる。
顔を上げたリューは、少し意地悪そうな顔でニヤッと笑っていた。
「…俺がスープ食べさせようか?」
「えっ!?だ、大丈夫よ!」
「いいんだ、遠慮するな」
「えっ、え!?!?」
「ふっ…くくっ…」
目を白黒させているとリューは面白そうに笑いだした。
そんなに面白かったかな。
なんだか私も楽しくなって笑いが溢れる。
家の中でこんなに笑うなんて、久しぶりだ。
ひとしきり笑ったあと、リューはふぅとため息をついて顔を上げた。
「ごめん。食べよう。」
「そうね…ふふ、ちょっと落ち着いて…食べましょうか。」
「うん。」
なんだか和んだ雰囲気だ。こんな食卓はいつぶりだろう。
雨の森には珍しい晴れ間の光が部屋いっぱいに降り注いでいる。
子供の頃おばあちゃんと過ごした日々をほんのり思い出す。
目の前に座るのは、ボロボロの怪我人だけど。
自由に動けないリューのために食卓を整え、丸パンを出す。
「誰かとこうやってご飯を食べるの、ほんとうに久しぶりだわ。」
「…普段からずっと、ここで一人暮らし?」
「そうね。去年まではおばあちゃんと一緒に住んでたけど、今はもうずっと一人暮らしだわ。採取した薬草を売ったり、処方薬にして街に売ったりして暮らしてるの。」
森を抜けて少し山を下ると、山の麓に小さな街がある。
アットホームで世話焼きの人が多いから、街っていうより村っていうイメージのほうが合っているかもしれないが。
「この薬師の腕なら王都でも通用しそうだけど、この森で暮らすのが好きなの?」
「そうね…」
一人で暮らしている今、正直不便なこの森で暮らし続ける理由はない。
それでも。
「誰も知らない王都で幸せに暮らせるかなんて、分からないじゃない。田舎娘だし。街には馴染みの知り合いも沢山いるから。」
きらびやかな暮らしがしたいんじゃない。
のんびり薬草を摘んで、本を読んで、食事を作って。
毎日自由に、小さな幸せを積み重ねていく。
少し寂しい時もあるけど、それが今の私が選んだ生き方だ。
「リューは?栄えた街で暮らしてそうだよね。」
「まぁ、そうだね。この国の街とは雰囲気が違いそうだけど、活気のある街だよ。」
「へぇー都会っ子なのね!」
それじゃ田舎のこの場所はさぞ辛かろう。
娯楽もなにもないどころか、他人ともめったに出会わない。
命があるだけマシだと思って、諦めてもらうしかないが。
「…聞かないの?」
「何を?」
「俺の素性とか、国とか、どうして川に流されてきたのかとか。」
「話したいなら話したらいいけど、『リュー』って多分本名そのままじゃないでしょ?治療にも必要無いし、聞かれたくないことのひとつやふたつや…みっつよっつあるものでしょう?無理して話す必要ないわ」
「……」
「ほらほら!冷めないうちに食べちゃいましょ!食べて体力つけて!」
生きているといろんなことがある。
そしていつかは死ぬ。
助けられない命もある。
だから、今生きていることに感謝して、今を生きていく。
矢が背中に刺さった状態で川に流されるなんて、間違いなく楽しい過去じゃない。
だから、せめてここにいる間だけでも。
体が元気でも、心が辛かったら、それは元気とは言えない。
私はこの人を元気にするために治療しているのだから。
はふはふしながら、熱いスープの肉団子を食べる。
我ながら上出来だ。
「ルディア」
「なに?」
「…ありがとう。」
「だから、いいって。ほらほら!食べて食べて!ルディアちゃん特製のスタミナ薬草入りスペシャルスープなんだからね!!」
「薬草!?入ってるの!?」
「そうよー!意外とスパイシーで美味しかったりするんだから。あ、大丈夫よ!用法用量はちゃんと守ってるから。」
「すごいな…普通に美味い」
「そうでしょう、そうでしょう。森の恵みとこのルディア様に感謝してお食べ。」
「…ありがとう、ルディアさま?」
「うむ、よろしい」
食べることは生きること。
3食しっかり食べるのが私のポリシーだ。
食べなきゃ元気なんて出ない。
リューも傷の割にそれなりに食べれるようでよかった。
「さぁ、食べたらお昼寝でもして!しっかり体力つけて、早く元気になるのよ!!」
誰かが家の中にいるって幸せなことだ。
胃も心も満タンになって、私のほうが元気になったのかもしれない。
なんとなくそんな気がして、こっそり森の神様に、感謝してみるのだった。
読んで頂いてありがとうございます。
「面白い!」「ルディア優しい!」と思ってくれた方も、
「そこはあ~んしてもらえばいいのにー!」「私がリューに食べさせてもらいたい……」と思った方も、
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