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22.共に歩く人(sideリュー)

本日夕方3話目の投稿です。

「…諦めて私と遠くの国へ逃亡せずに、私だけ逃がそうとするのは…あなたがまだ国のことを諦めていない証拠よ。戻るんでしょう、サラディーニへ…リューカス王子。」


ざわりと海風が吹く。

丁寧に事実を並べ、俺自身がサラディーニの第二王子だと示したルディアは、世間の情報とこれまでの出来事から何が起こったのかをかなり正確に言い当てた。

むしろ、この言い方だともっと詳しく推測できているだろう。

新聞記事の情報に紐づけて、記事の泉が雨ノ森に流れるあの川の源流であることまで言及できる知識がある事も驚きだった。


「……ルディアが賢女アデルの娘だったのを忘れてたよ。」


「…褒め言葉として受け取っておくわ。」


言い当てたのに、ルディアは辛そうな顔をした。

本当は、俺とこんな風に対峙したくなかったのかもしれない。


「私を東の国へ逃しても、この知ってしまった事実は消えないし、精霊の民とわかった今、どうやってもあの人たちに追われるでしょう?確かに遠くの国で身を隠せば見つからないかもしれないけど…それは私の生き方じゃないわ。」


ルディアは賢女アデルのエメラルドのネックレスを取り出し、目の色を本来の精霊の民の色に戻した。

美しいその目が、強い意志を宿している。


「あなたの呪いは私が解くわ。他の精霊の力も味方になる。薬師として治療もできる。それに、知りすぎた私を目の届かない所にやるのもリスクが高いわ。国のために、王子のあなたが選ぶ選択肢はもう見えているんじゃないかしら。」


「………なぜ、そこまでする」


俺が決めるべき結論にまで言及したルディアに、絞り出すように問いかける。

俺に利があるのは確かだ。

だが、ルディアがこんなリスクのある選択をする理由はまだない。

…多分、その理由も、ルディアは用意済みなのだろうけど。


「私ね、できればありのままの姿で生きてみたいの。」


海からの風が、ざわりと木々をゆらし、雲を流していく。

海を背に真っ直ぐに立ったルディアは、堂々として、美しい。


「もしあなたが無事に国へ帰り、策略に勝つことができたら……私がこの目を隠さないまま自由に幸せに生きる方法を、一緒に考えてくれる?」


恐れ隠れる人生なんてごめんだと語るルディアに、芯の強さを感じる。

あの小さな森の家に住んでいた優しい彼女のどこに、この強さが眠っていたのだろう。


「…私が頼るなら、あなたより適任の人なんて絶対に現れないわ、リューカス王子」


「……こんな沈没しかかってる船に乗りたがるなんて、変わり者だね」


「呪いを解いて修理が完了したら、超強力な武装豪華客船なんでしょう?」


有無を言わせぬ勝ち気な顔で笑うルディア。

でも、その真剣な眼差しに、敢えてその表情を作っているのがわかる。

根底にあるのは、決意と、優しさだ。


「絶対に治してみせるわ」


「…降りるなら今だ。」


俺は絶対零度の強い視線をルディアに向けた。

これで怯むなら何があってもここに置いていく。

この自分の沈む船に乗り込むなら、それ相応の強さがなければ乗せられない。


「俺は母親に呪われ、臣下に毒矢を射られた側妃の第二王子だ。無惨な死を遂げる可能性のほうがずっと高い。馴れ合いや甘い考えで付いて来られても迷惑だ。

これは友達ごっこじゃない。」


静かな、強い口調で切り捨てる。


「遊びじゃないんだ。大人しく東の国へ向かえ。」


こちら側には踏み込ませない。

強く拒否を示す。

それなのに。

俺の睨みを、もはやふわりと受け流すように、ルディアは少し優しい顔をした。

むしろ、こちらの甘さを見透かされるような感覚に陥る。


「心配しなくても、多分私は破滅までは行かないわよ?権力者に引っ張ってかれて、こき使われるぐらいでしょ。最悪死ぬ前にうまいこと寝返るわよ。」


何でもない風に受け流される。

その様子に、不覚にも、うまいこと寝返れそうだなと思ってしまった。


「…それに私ね、逃げるのが得意だって言ったけど、ホントは攻める方も得意なの。」


一歩踏み出したルディアの覗き込むような挑戦的な視線が、陽の光を浴びて光る。


「もう、リューも殆ど私に捕まっちゃったんじゃない?」


沈黙。そのまま睨み合いが続く。

示された双方の利益。リスクは対策と決意で削られた。

これ以上の反論はない。

自分の立場として取るべき道は明確になってしまった。

あとはただ…この俺が腹をくくるだけだ。

それは、ルディアの人生を、俺の賭けのような道に乗せるということだ。


新しい未来を想像する。

呪いを解き、国に戻り、策略を潰し、正常な姿に戻す。

責務を果たし、以前のように動けるようになったら…

ルディアの望む、恐れも隠れもせず生きる道を、自分はきっと作り出すだろう。


そして、目の前の女性は守るだけの存在ではない。

恐らく、自分が思っていたよりもずっと強力な、一緒に戦える、共に並んで歩ける人。


空を仰いだ。

その選択をしても良いというならー


絶対に、自分はルディアと生き残る。


なんとなく、ルディアとなら、上手くいきそうな気がした。


「………降参だ。」


はぁとため息を吐いて、宣言する。

言ってしまったら、随分楽になった。

本当は、最初から、こうしたかったのだから。

躊躇いの無くなった手を、ルディアに差し出す。


「リューカス・サラディーニだ。改めて、よろしく」


ルディアは今までの交戦モードなど無かったかのように、ぱあっと喜び全開の顔になる。


「うん、ありがとう!!よろしくリュー!」


俺の手を両手でがっしり掴んだルディアは…何だかボールを加えて喜ぶ犬みたいだ。

なんだか気が抜ける。

なんだろう、さっきまで地の底のような気持ちで悩んでいたのは何だったか。

もはや、俺は死ぬんだぐらいに思っていたのが情けなくなってくるぐらいだ。


「はっっ…ごめんなさい、ええと、リューカス様?殿下?」


「やめて…今までどおりリューでいいから。大体隠して旅しないとだし。」


より気が抜けて、どっと疲れが出た気がする。

気にするところはそれじゃない。

これからどうやって行動するか、みたいな話になるのが普通じゃないのか…

でも、まぁ、明日でいいか。

俺もちょっと疲れてるみたいだ。


だから、空耳かと思った。

ルディアの次の言葉に、ビシリと固まる。


「ふふふ、じゃあリュー、よろしくね!せっかくだから私のこともルディって呼ぶ?おばあちゃんみたいに」


まじまじとルディアの顔を見る。

まだ犬みたいに人懐っこい顔で、どう?いいでしょ?と、顔に書いてあるようだ。

リュー、ルディ…と呼び合うことに抵抗はないのか?


でも、よく考えてみたら。

そんなに大きい問題は無い気がする。

さっき方針は決まった。

ルディアは俺と祖国サラディーニへ共に向かう。

呪いが解けなかったり何らかの失敗をしたら、きっと国に辿り着いたとしても俺は殺され、ルディアは不自由な未来になる。

上手くいったら、ルディアが恐れず隠れず自由に生きる道を一緒に作る。

一人なら死ぬかもしれないが…ルディアと一緒なら、死ぬ気がしない。

解呪もできるかもしれない。

であれば、最終的には策略に勝つ可能性が高い。

なら、その過程や未来の中で、自分がルディアを選び、ルディアも自分を選んだとして…どんな問題があるだろうか。

何かしら障害はあるだろうが、ぱっと思いつく感じ、対応できそうな問題ばかりな気がする。


それに、さっき認めたではないか。

ルディアは、共に並んで歩ける人だと。


あとは、ルディアに自分を選んでもらえばいいだけだ。


完全に圏外の選択肢としてギッチリ蓋をしていたものが、パンっと開いた気がした。



「………ルディ」


「えっっあの、はい」


ルディアが犬から普通の年頃の女性に戻ってきた。

なんだか面白い。そして可愛い。


「ルディ」


じり、と距離を縮めた。

もう一度、優しくその名を呼んでみる。

自分でも信じられないぐらい柔らかい声が出る。

幼少期から互いの関係を深める方法は叩き込まれている。

もはやそれは情熱の国と言われるサラディーニ人の、男女問わずに生まれ持つプライドだ。

ただ、正直あまり得意ではなかった。

気持ちが伴うだけでこんなに違うとは。

自分の体に流れるサラディーニの血が、沸き立つように感じた。


「そ、その、嫌なら今までどおりでも…」


潤み始めた、光が交じる深緑の瞳を覗き込む。

逃げようとし始めた手を、逃さないようにしっかりと握る。

思いを込めて、優しく。


「あ…あの…」


ルディアの優しい香りがする。

ふわりとした栗色の髪の毛が陽の光に当たってすごく綺麗だ。

うろたえるルディア。

でも、ルディと呼べといったのは君だ、ルディ。


距離を縮め、耳元で囁く。


「…ルディ」


ふるりとルディが震える。

どうだろうか。

もう少ししたら、リューと、同じように囁いてくれるだろうか。

もう一度顔を覗き込んだら、りんごのように真っ赤になっていた。

こんな風に真っ赤にさせたのは自分か。

何だか最高の気分だ。


「よろしくね。」


「ひ、ひゃい!」


あまり慣れていないのだろうか。

よく考えたら、あの森にはルディと育ての親ぐらいしかいなかったはずだ。

ロディーとか言う商人もいたが、完全に脈なしだった。

少なくとも、こんな反応では無かった。


「その、なんですか!どんな技ですか!よくわからないけどお許しください!!」


プルプル震えるルディに許しを請われる。

なんの覚悟もせず、不用意に愛称など呼ばせようとするのが悪い。

もうルディと呼ぶのを止める気などない。

でも、今日はもう関係を進めるのは難しそうだ。

引き際を誤ったらだめだ。

大丈夫。明日からもずっと一緒なんだから。

時間はたっぷりある。


真っ赤なルディに、次はどんな言葉をかけようかと考えて、笑いが溢れる。

手を開放しながら思った。

あの国に生まれながら、自分は随分淡白だなと思って生きてきたけど。

全くそんなことはなかった。


「俺も一応太陽の国の男みたいだから。気をつけてね。」


「えっ??うん??」


よくわかってなさそうだが、まぁ大丈夫だろう。

明日からゆっくり関係性を築いていこう。

それもきっと楽しいはずだ。


開放したばかりの手をまた取る。


「風出てきたし、そろそろ宿に戻ろうか。」


「そ、そうだね。」


さっきは完全にルディに捕まってしまったが、次は自分が捕まえる番だ。


やらなければならないことは沢山ある。

でも、不思議と上手く行きそうな気がしてきた。


死にかけた自分の未来に何度も光を当ててくれたこの人に、必ず幸せな未来を歩かせる。

そのために、惜しみなく自分の力を捧げよう。


共に並んで歩いてくれる、ルディのために。


読んで頂いてありがとうございます。

これにて第一章は完結です。

ここまでお読み頂いた方、本当にありがとうございました!!

いいねブクマも頂いてとても嬉しかったです!


次章はリューがぐいぐいいく…はず!!

明日更新です。ぜひまた見に来てください☆


「次章も楽しみ!」「続きが読みたい!」と思ってくれた方は、

ぜひブックマーク、☆下の5つ星☆から☆いくつでもいいので応援よろしくお願いします☆彡

いいね嬉しいです!

ありがとうございました!

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