2.解毒と治療
リッキーに手伝ってもらいながら、急いでぬるま湯で泥水を洗い流し、傷口を清潔にする。
呼吸はあるし、ありえない曲がり方をした足と、背中の矢が刺さった傷以外には、大きな外傷はないようだ。
男は褐色の肌をした異国人だった。
赤みがかった暗い色の髪に、丁寧にケアされたような美しい顔。
華奢だと思ったのに思いの外がっしりしてる男は、自分より少しだけ年上だろうか。
雨ノ森に住み、日差しが弱く、年中青白い肌の自分やこの山の麓の村人とは違う、異質な存在。
太陽みたいな男だ、と思った。
泥だらけだった上着もざっと水を掛けると上等な作りだった。
白くしっかりした生地に紺の差し色で縁取りがしてあり、これまた白い糸で太陽みたいな刺繍がしてある。
あまりこの国では見かけないデザインだ。
裏側に小さく名前のような刺繍もあるが、リューというのが彼の名前なんだろうか。
異国の見た目に異国の服。
やはりこの国の人ではないようだ。
とりあえず、野盗というよりは富豪に近い雰囲気だから、拾った自分としては好都合だろう。
「とにかく毒をなんとかしないと…」
解毒薬はある。しかし、この虫の息の状態で助かるかは五分五分だ。
「…おばあちゃん、いいよね?」
静かな家の中で、自分の声だけが響く。
おばあちゃんが繰り返し話して聞かせてくれた言葉が頭に浮かぶ。
むやみにお前の特殊な力で、人に影響を与えてはいけない。
力の使い方を誤ったらいけない。
きちんと学びなさい。
自分を守れるように。
後悔しないよう、その力を使えるように。
おばあちゃんと小さな家に本を積み上げ、夜な夜な学びを、外に出て学び、時には喧嘩して学んできた日々を思い出す。
今はもう、自分で判断しなければならない。
「バレないように、死なない程度まで治す。それならいいよね?」
いつの間にか足元に寄って来ていたキューに語りかける。
キューは黒い宝石のような目をくりっとさせて、キュー?と首を傾げている。
…自分で、決めないと。
このまま死なせたら、一生後悔する。
確信に似た気持ちが胸に湧いてきて、私は決めた。
『リュドリス』
『………』
朽ちた木の割れた頭から、若木の芽が生えたような頭をした、不思議な老人が現れた。
からだからごっそり力が抜けた気がする。
でも倒れるわけにはいかない。
「リュドリス、死なない程度の解毒治療と…後遺症が残らない程度に足を治してくれますか?』
『………』
リュドリスは枯れ枝のような手から、緑のドロリとした不思議な粘液を溢れ出させた。
黒くも白くも見える、不思議な金の粒子のような光がたくさん溶け込んでいる。
そして傷口を覆い、曲がりくねった足に絡みついた。
少しして緑のドロドロは霧のように消えていって、黒い靄と毒のただれが無くなった痛々しい矢の傷と、そこそこに曲がった足が現れた。
「………うっ…」
立ちくらみがする。
これはなかなかのハイレベルの治療だったのかもしれない。
リュドリスが首を傾げてこちらの様子を伺っている。
枯れ枝のような首が折れないか心配だ。
「大丈夫…ありがとう。」
まだなんとか動ける。というか、治療はこれからが本番だ。
後の治療は私の腕次第。
重たい体を引きずって、私は戸棚から傷薬と解毒薬の材料をいくつか取り出す。
死なない程度にはなったけど、それでも辛いはずだ。
外はいつの間にか夕暮れになっていた。
ランプの灯りの下、また強くなってきた雨音を聞きながら、私はできる限り優しく、この太陽のような男を治療していった。
家の中に自分以外の人がいる。
久々の状況に、不謹慎だが、少し心があたたまる感じがした。
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