13.異国の商人(sideロディー)
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雨ノ森があるオルネリア王国の商業地域の街は、今日も豊富な農産物や工芸品、異国の皿や宝石といった多くの取引で活気に満ちている。
大きな道沿いには流行りの店が立ち並び、その裏手には流行りや生活を支える商会の建物が並ぶ。
俺はその一つの大きな商会の扉を、憂鬱な気持ちで開いた。
「おぉ、ロディー帰ったか。調子は上々か?」
「あぁ、まぁな。」
得に変わり映えのない売上金と、仕入れた品々のリストを窓口の男へ出し、小間使いに荷卸しをさせる。窓口の男は慣れた手付きで帳簿をペラペラと捲った。
「ご苦労さん。良く見させてもらうよ。」
この窓口の男は、ガタイのいいなりのくせに、かなり細かい性格だ。
このまま自分の取り分の金を直ぐに渡してくれりゃいいのに、細かい金額が合わない限りほんの少しも金をよこさない。
「…明日には俺の取り分を貰えるか。」
「バカ言え、3日はかかる。俺が何人の帳簿を管理してると思ってんだ。税の管理に拠点の維持管理費、最近は新しいルート開拓で投資も増えて、やりくりに目が回りそうなんだ。」
そう言うと、もう話は終わったとばかりに、別の帳簿を手に取り、他の紙に何か書き込み始めた。
「…お前が探してた薬があると言ったら?娘さん、気にしてるんだろう?」
ちらりと男がこちらに視線をよこす。情報収集は抜かりない。あとひと押しだ。
「偽もんじゃねぇだろうな。」
「当たり前だ。」
ちらりと素朴な木の入れ物に入った軟膏を見せる。雨ノ森に生える柔らかい木で作った小さな器だ。
ルディアが作る肌の薬は、今この街で入手困難なレア商品だ。
あまり数がないのもあるが、入手経路が知られていないのもあって、幻の品とまで言われる。
まぁ、俺が商会に黙って販売しているから、入手経路不明となっているだけだが。
こんなに人気が出るなら、もっと高値で売っておくべきだったと後悔している。
「そんなもんチラつかせて、おめぇまた借金作ってんじゃねぇだろうな。」
「…いらないのか?」
男はふぅとため息を吐いた。
「2日にしてやるよ。その代わり、市場と同じ正規の値段で買わせてくれ。タダより高いもんはねぇからな。」
できればもう一日早めたかったが、この様子だと無理だろう。男の気が変わらないうちに軟膏を差し出す。
男は既にリサーチ済みだったのか、市場価格ピッタリの金額をカウンターに乗せた。
「じゃあまた2日後な、待ってるよ。」
そう言うとまた手元の紙に何かの帳簿をつけ始めた。ここからまた2日分のやけに長い時を待たないといけない。
「ロディーじゃんか!お前のかわい子ちゃんまだ連れて帰ってきてないの?」
商会を出ると、ルディアの処方薬を横流ししている別の商会の若い男が近寄ってきた。
チャラチャラとしているが、こいつは成り上がり貴族の三男だ。悔しいが着ているものも上等だ。
「ルディアは一緒に住んでた老婆が死んでから閉じこもってたんだ。もう落ち着きそうだが、あと少しだけ時間がかかる。」
「ふーん、それならまだいいんだけど。ちゃんと連れて来れるんだよね?君と前金で専属契約結んだのも、その子がこっちに来て今より沢山お薬作ってくれるって話があるからだからね?」
「…分かってる。次は連れて帰ってくるさ。」
「そう…期待してるよ。あぁ、今回の分はいつもどおりうちの者を向かわせるから。その場で換金。それでいいね?」
成り上がりのくせに、美しい金髪の貴族三男の男は、これみよがしに前髪をかき分けた。
「あぁ、沢山仕入れたからな。早めに来いよ。」
「ふふ、まーた金に困ってるの?見栄張ってばら撒き過ぎなんじゃない?」
「…先行投資だ。」
そう、人脈を手に入れるには金の力が必要だ。
金持ちが集まる社交場へ行き、寄る者へ奢り、力を示す。
上等な服は上質な出会いを引き寄せ、己の力をより引き出す。
女へは流行りの品をさらりと渡し、母親譲りのこの顔で微笑むのがスマートだと知っている。
いつかお前より上流の貴族になるだろうな。
そんな未来を描いて、俺は内心優越感に浸った。
「なるほどね。まぁ、ほどほどにね。じゃあ、よろしく。」
ひらひらと手を振って、金髪の男は去っていった。
「…早くルディアを連れてこないとな…」
一緒にいたあの異国の男。
やけにしっかりしたのが嫌な感じだ。
また早めにルディアのところへ行き、この街へ連れ帰りたいが…まだいるとすると本当に邪魔だ。
あの怪我が治るまでいるつもりなのか。
イライラとしながら馴染みの酒場へ入る。
「あらロディー、いつものでいい?」
「あぁ、頼む。」
街で評判の美しいこの女が、この高級店のオーナーだ。
俺の良さを理解できる物分かりの良い女だ。
俺はお気に入りの琥珀色の酒を喉に流し込んだ。
「今回もお仕事お疲れ様。大変だったでしょう。色んな人と交渉するのも大変ね。」
「まぁな…慣れもあるが。」
アホどもが、もっとスムーズに事を運べばこの街も良くなるのに、君のような人ばかりではないらしい…と微笑むと、オーナーの女は恥ずかしそうに笑った。
女の心を掴むのなど簡単だ。
俺は上機嫌で2杯目を頼んだ。
「ねぇ、そういえば、今日は珍しい商人の方がいたのよ。なんだかすごくお金持ちっぽい人で、西の国の方だったかしら?何でも人探しをしているとかで、少しお話したら情報料とか言って宝石なんてくれちゃったの!みてこれ、小さいけど綺麗でしょう。」
そう言うと美しい赤い宝石を摘んで俺の鼻元にかざす。
「おい、これハイグレードのルビーじゃないか!くれただと?」
「あら、そんなに高いの?うれしいわ。」
「…まったく、どんな人探しだ。あまり危険な人物に関わるな。君が心配だ。」
「ふふ、ありがとうロディー。いつも優しいから照れちゃうわ」
頬を赤らめてよじる体が甘い香りを漂わせる。
大人の駆け引きとはこういうことだ。
「まったく、俺を心配させるなんて罪な人だよ。…ちなみに、どんな人探しなんだ?」
「それがね、自分と同じ褐色の肌で、少し赤みがかった暗い髪の若い男らしいんだけど…事故にあって大怪我してるかもしれないんだって。見た目は良くいそうな西の国の人って感じだけど、大怪我までしてるなら分かりやすいのかしら?みんな心配してるから、早く探し出して力になりたいって、財産なげうって探してるみたいよ。早く見つかるといいわねぇ…」
…ルディアのところにいたあの男の姿が直ぐに脳裏に浮かんだ。
やはり俺は運がいい男なのかもしれない。
もし同一人物であれば、ルディアの世話になる必要がなくなる可能性が高く、ルディアをこの街に連れ出しやすくなる。
違う人物だったとしても、オーナーの女へ謝礼をしたように、俺にも何かしらの金品を礼としてよこすはずだ。
どちらにしろ、謝礼は期待できるだろう。
これは、早速動かねば。
俺はより上機嫌になり、3杯目の酒を注文した。
想像以上にひどい男だった…
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