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「お前さん……その年で随分と物知りだねぇ。そう呼ばれるのは何十年ぶりだろう。その家名はとっくの昔に捨てたから……」
そう感傷に浸るイーニャお婆ちゃんは、今までワシが見たことのない表情を浮かべていた。こう、何ていうか……後悔している、という言葉が一番合うような。
「やっぱり! あたしは……ゴホン、私はユーリ・ウェルリンバートンと申します!」
綺麗な礼で挨拶をするユーリ。それに答えるように、イーニャお婆ちゃんも礼を取った。
「丁寧にありがとう。へぇ、ウェルリンバートン家の。そうかそうか。君の……何代前かの先祖とは仲が良かったのを覚えている。」
「きっとお祖父様のことだと思います! お祖父様は死ぬまで、何度も何度もプリズマーノ姉妹のお話をしておりましたから!」
「……そうか、あいつは死んだかい。」
「……はい。ずっと『あの姉妹が幸せに生きているのか』と心配していたみたいです。」
「……それは悪いことをしたなぁ。まあ、わえ達はあまり表立って行動も出来なかったから、もし過去に戻ったとしてもあいつには会いに行けないが。だが、そうだなぁ……もしお前さんがその祖父の墓参りにでも行った時には、わえは……イーニャはまだまだ元気だと伝えておいてくれ。」
「分かりました!」
「ありがとう。」
二人のやり取りを傍観していたワシは、何故か急に一度だけズキンと頭が痛くなって思わずコメカミを押さえた。
「……?」
しかしそれは本当に一度だけのことで、はて、今のは何だったんだろうと首を傾げる。……まあ、一応治癒魔法でも掛けておこうか。
「レタア、大丈夫?」
と、風邪気味の時に掛ける魔法を感じ取ったのか、それともワシの表情を読んだのか、それまで傍観に徹していたガウディロに心配された。
「ん? ああ、ただの頭痛だから気にすることはない。」
「っ、レタア!」
と思ったら今度はグリタリアに詰め寄られた。何じゃ何じゃ?
「私のお祖母様もそのような口癖を仰っていて、でも明らかにおかしいと家族総出でお祖母様を引き摺って医者に連れて行った時にはもう、もう……手遅れだったのよ! いくら魔法の才があろうとも、過信はおよしなさい!」
そう言って瞳を潤ませるグリタリア。まさか彼女の古傷を意図せず抉ってしまっていたとは。これはよろしくないな。
「すまない。『これくらいなら大丈夫』と今までの経験という物差しで測ってしまう。今度からは気をつけるな。」
「あ、いや、その……こちらこそ大声を上げてごめんなさい。」
ワシの言葉に申し訳なさそうな顔をしたグリタリアを安心させられる言葉は何だろうか。そう考えている最中にポロッと意図せず零れていた。
「グリタリア、心配してくれてありがとう。」
「っ……、ええ! 次からは気をつけて頂戴!」
そしてそれは正しかったらしく、グリタリアの柔らかく笑った顔が見られたのだった。




