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コズミックトラベラー  作者: 星野 ラベンダー
Chapter2「宇宙船で暮らす人々」
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phase3「穹の超変化?!」

 美月は船団の人達を手伝いながら交流しつつ、コズミックトラベラー号で過ごす。そんな日々の生活の流れが、突如大きく変わった。


「あと二日か三日で、カーフェイ星に到着するわねえ」

「カーフェイ星ですか?」


 いつものように炊事の仕事を手伝っていると、一人が思い出したように言った。美月は野菜を切っている最中だった。

 手を止めずに何の気なく聞き返す。どこかで聞いたようなと記憶に引っかかる星の名前だった。いや、聞いたのではなく《《見た》》のだったか――。


「そうよ、私達の目的地の星」

「ここで用事を終えたら、ミヅキちゃん達の宇宙船を修理するための特殊牽引宇宙船を呼べるわ」

「こっちの都合で、ずっと先延ばしにしちゃっててごめんねえ……」

「あっ、そういえばそういう話でしたね!」


 船団に助けられたとき、ハルと船長のレイハがそういう交渉をしていたことを思い出した。急用があるためどうしてもすぐに向かわなければいけない惑星があり、修理を待っていられる状況ではないのだが、その用事が終わったら修理を呼べると。


「だから、あと数日でミヅキちゃん達ともお別れってことになるわねえ……」

「あっ……」


 はっと気づいた。コズミックトラベラー号が修理できる状況になれば、美月達がこの船団に滞在し続ける理由はない。


「この厨房も寂しくなるわねえ……」

「ミヅキちゃん、本当によく働いてくれるし、明るくていい子だから。お仕事の間、毎日楽しかったわよ」


 ある人はしんみりとした言葉を呟き、ある人は心遣いが強く感じられる台詞をかけてくる。


 それらが美月の胸に切なく響いて、気がつけば野菜を刻む手を止めていた。旅に出てからそれなりに出会いと別れを経験してきたが、別れが迫っていると知ったとき、俯いたまま顔を上げられなくなるのは初めてだった。


「でも、まだあと数日あるんだから!」

「そうそう、残りの数日間よろしくね」


 気遣いからか、周りの人達が今度は次々に明るく声をかけてきた。美月ははい、と小さく頷いた。


 その時は寂しさから、カーフェイ星と聞いたときに感じた引っかかりの存在をすっかり忘れていた。しかし、またすぐに思い出すことになる。


 別れは仕方ないことなのに、どうしても割り切れない心を抱えてコズミックトラベラー号に戻ってくると、ハルがリビングに全員を招集してきた。


 すぐにリビングに行くと、既に美月以外の全員が揃っていた。ハルは一人一人の顔を確認すると、タブレット端末の画面を見せてきた。そこには、いつかのメカトロニクス展示会(エキスポ)の専用サイトが表示されていた。


「ここを、よく見てほしい」


 ハルが指さした画面の一部分を、全員の顔が覗き込む。示す先にあったのは展示会の開催場所についてだった。カーフェイ星の衛星に設営された特別専用会場。それが、メカトロニクス展示会の開催場所だった。


 カーフェイ星。ごくごく最近目にした、いや耳にした星だ。あっと美月は声を上げた。


「ミヅキは知っていたのか。私も先程知った。この星は、ショーラ船団が現在目的地としている星の名前だ」

「えっ、え、大丈夫なんですか?! ダークマターに見つかるんじゃ……!」


 穹が慌てながら言った。場に緊張が走る。しかしハルは落ち着きを促すようにゆっくりと首を振った。


「ダークマターに私達の居場所は知られていない。知られているなら、もう既に現れている。この船団から出ない限り、ダークマターに見つかる可能性は低い」

「あ、なら良かったです……! ……あれ、じゃあどうして僕達を呼んだんですか?」

「覚えていないか? この展示会の特色を。パーツや設備や機器類など、各参加企業の自慢の品が展示され、実際に購入できると。その中には宇宙船のパーツも数多くあると」


 ハルはローテーブルの上にタブレット端末を置いた。


「この船の目的地と同じなのだ。この展示会に向かい、現在のコズミックトラベラー号に欠けている部品を全て購入する」

「……ええええっっっ?!」


 素っ頓狂な悲鳴が同時に上がった。クラーレが「何を言ってんだ!」と音を立てて立ち上がった。


「危なすぎるだろ! 普通に工場で修理を頼むじゃ駄目なのかよ!」

「展示会に揃う部品は全て質の高いもの。コズミックトラベラー号をより頑丈に、壊れにくくすることができる。その利点を考慮した。もちろん私一人で直すには時間がかかるので、工場には依頼する。部品を揃えて、この部品を使って修理をするよう頼む予定だ」

「デメリットのほうが遥かに大きいだろ! ダークマターに見つかったらどうするんだ! それにニュースでやってたが、輸送船襲撃の件があったから更に警備が厳重になってるって話だぞ!」

「見つかっても問題ないし警備も関係ない」

「はあ?!」

「何も問題ない人物が買いに行くのだからな」


 ハルは、すっと床を指さした。そこには特に何もない。しかし何が言いたいのかを、美月は察することができた。


「ショーラ船団の人達に、買いに行ってもらうのを頼むってこと?」

「正解だ。ショーラ船団に助けられてから今日まで過ごし、ここの人間達と接した経験から、代理の買い物を頼んでも大丈夫だと分析した。というより、さっき頼んできた」

「頼んできた?!」

「船長のレイハに話したのだが、すぐに承諾が取れた。今から出店ブースを改めて確認して、どのブースでどれを買うかリストアップする作業を行う予定だ」


 行動が早いなあと美月は思った。それくらいハルの中で、「大丈夫だ」という答えが確固たるものとして算出されているのだろう。


 いずれにせよコズミックトラベラー号が直って、しかも前よりも状態が良くなるなら、願ってもないことだった。


「ミライ? どうした?」


 ここでハルが未來に顔を向けた。未來ははっとした様子で顔を上げた。


「い、いえ! ちょっと考え事を……」

「本当か? 何か悩みがあるならすぐに言いなさい」

「自分に関することでは全く悩んでいないので、大丈夫ですよ~!」


 未來の台詞は裏を返すと、自分に関しないことで悩んでいることになる。しかし未來は「早くコズミックトラベラー号直ってほしいですね~!!」と話を変えてしまった。


 船に来てから、未來の調子がどこかおかしいことが美月は気になっていた。今のように、時々何かを考えているようにぼうっとしていることが多いのだ。


 おかしいことと言えば他にもあった。未來は、あまりショーラ船団の人と交流を持とうとしないのだ。手伝いはするし話もするが、深く関わろうとはしないのだ。交友に積極的なほうの未來にしては、極めて珍しかった。


 それと関係あるのだろうか。考えても、結局想像の範囲を出なかった。未來も、何か言うことはなかった。


 それから三日後、カーフェイ星に到着した。船団の人達はハルから預かったお金とリストを持って、すぐに展示会へ行ってくれた。


 この日は一般人入場が許可される日であり、リストも全て一般人に向けた商品を売っているブースでの買い物をリストアップしてあるため、企業法人ではない船団の人達でも購入できる。


 数時間後、船団の人達は頼んできたものを携えて、船に戻ってきた。かなりの量があったが、少しも嫌そうな顔をしていなかった。むしろ、役に立てて良かったと皆して華やいだ笑みを見せていた。


 礼を述べたハルが、アイと共に買ってきたものの確認をその場で行い始める。問題はなかったようで、終わった後にありがとうと一礼した。


「これで、部品が全部揃ったんだね!」


 ところが。アイは困ったような表情で目を伏せた。いや、とハルが首を振る。


「まだ残っている」

「え、えっ? それって……」

「買い忘れではない。あえて伝えなかったのだ。その部品は、代理購入が認められないものだからな」

「代理購入……?」


 商品によっては、代理での購入か、本人の購入か明らかにしないといけないものがあるという。その最たる例が宇宙船やそれに関する機器類だとハルは話した。


 必要ないケースもあるが、この展示会の場合は誰の代理かを伝えて、宇宙船の登録情報を主とした身分証明できるものを見せないと買えない店が多くあるとのことだった。


 コズミックトラベラー号の情報を見せればダークマターが飛んでくることは目に見えているため、巧妙な偽の登録情報を用意し、代理購入の際にはそれを見せるよう頼んであるとのことだった。偽の情報を使うことに対して、ショーラ船団の人には上手く誤魔化してあるという。


 コズミックトラベラー号に戻った後も、ハルは腕組みをして、買ってきてもらった部品の数々をじっと見つめ続けていた。


「その部品を、諦めちゃうっていうのはどう?」


 少し手に入らなかったものがあるとはいえ、大多数は手に入ったのだ。もともと行ける予定のない場所で買えるものを手に入れられたのだから、戦果は上々と言えるのではないか。だが、ハルはそうだなとは答えなかった。


「この部品は、船体シールド機能を強化するのに必要なものなんだ」

「ダークマターに襲われたとき、シールドがどうとかいつも言ってるあれ……?」

「そうだ。買い物リストの中では重要度が高いものなのだ。ここで購入を諦めるには勿体ない商品でもあるのだが……」


 自分でもどうするべきかまだ計算結果が出ていないようで、ハルは完全に黙ってしまった。

  

 

 

 

 「大変なことになっちゃってるみたいだなあ……」


 宇宙船が直ると思ったのに、大事な部位の部品だけ買えなかったとは、世の中上手く行かない。ゴールテープを前にどてっと転倒してしまったかのようだ。


 実際穹もそういう経験がある。小学二年生の駆けっこのとき、珍しく一回も転ばず終わりそうだったのに、ゴールの直前も直前で顔から転び、周囲から一斉に笑い声を浴びたものだ――。


 遠いはずの出来事にうっと心が苦い味で満ちて、いけないいけないと首を振る。気持ちを切り替えなくては。今日は長風呂にして、リラックスして過ごすことにしよう。


 いつも使っているシャンプーやボディーソープを用意しようとして、ふと掴んだシャンプーのボトルが、ひどく軽いことに気がついた。

 軽く振って中から液体の音がしないことを確かめると、詰め替えを探そうとして洗面所の戸棚を開ける。ところが中を漁っても、なかなか見つからなかった。


「あれ……?」


 ここに無いということは倉庫だろうか。弱ったなあ、と頭に手をやる。ほとんど服を脱いでしまったこともあり、今から取りに行って広い倉庫の中を探すのは正直億劫だった。


 かといって、皆のものを勝手に借りるのも気が引けた。やっぱり倉庫へ向かうしかないか。ため息を残して戸棚を閉めようとした、その寸前のことだ。


 奥のほうに、見覚えのない薄い青色のボトルがあるのが見つかった。パッケージを見るとそれはシャンプーボトルで、しかも未開封だった。泡と、腰よりもある長い髪を持つ綺麗な女の人の絵が描かれている。


 確か、仲間達の持ち物のどれでもなかったはずだ。少し迷った末、穹はこのシャンプーを使うことを決めた。もしかしたら別の人の私物かもしれないときのために拝借する量は少なめにしておこうと決め、穹はそのボトルを手に風呂場へ向かった。


 それが、昨夜のことだった。


 朝、穹は起きてすぐに異変に気がついた。夜更かししたわけでもないのに、妙に頭が重いのだ。内側がというより、外側に何かを被っているような重さだ。


 どうしたのだろうと頭に触れて、次の瞬間、異変の正体を知った。


「うわーーーーーーー!!!!!!!!!」


 どたどたどた、と複数の足音が駆けてくる。美月達が、「どうしたの?!」「何が起こった!」と続々飛び込んで来た。現れた皆に、穹は足をもつれさせながら駆け寄った。


「こっ、これ!!!!」

「……えっ?! ちょっと穹、その頭どうしたの!」

「僕が知りたいよっ!!」


 穹の姿を見た瞬間、美月を中心に揃って仲間達の目が見開かれた。穹は何度も頭を、髪の毛を忙しなくさすり続けた。


 穹の黒い髪は、背中の中心あたりにまで伸びたロングヘアーとなっていたのだ。


「朝起きたらこうなってて! ど、どうしよう何かの病気かな僕!! こんな、髪がいきなり伸びるなんてこと有り得ないしっ!!」


 パニックになればなるほど、長い髪も一緒になってさらさら揺れる。何がどうしてこうなったのか、とにかく自分の中でとんでもない異常が起きているのだと。じっとしてなどいられなかった。


「髪が、一気に伸びる……?」


 しかし、一緒になって慌てそうな姉は妙に冷静だった。じっと穹の一夜にして長くなった髪を見つめていると、ふとそこを指さした。


「穹、昨日いつもと違うシャンプーを使わなかった? 薄い青色のボトルで、泡と髪の長い人の絵が描かれているやつ」

「あ、ああ……。確かに使ったけど……? いつものシャンプーが切れちゃって、詰め替えも見当たらなかったから」

「それ、この前行ったメムリアド星でお土産に買ったシャンプーだよ! 一晩で髪が長くなる海藻を使ってあるってやつ!」

「えっ!!」


 穹は長い髪に目をやった。そっと、髪の束を下のほうで掴んでみる。


 いい香りがするなあ、少量しか使っていないのによく泡立つなあとは感じたがそれだけで、他に変わった部分はないシャンプーだった。しかし、まさかそのような特殊効果があったとは。


「なんだ……」


 種がわかれば、どうということはない。穹は脱力した。

 他の皆も、「なんだ~」「良かった!」などと安心してくれた。


「そんなに伸びるなんて、どれくらい使ったのよ?」

「そこまで使ってないよ、むしろ自分じゃないやつのを借りるんだから少なめの量を意識したよ? でもなのにここまでってことは、いつもの量使ってたらどうなってたんだろう……」

「何にせよ、凄い効果があるってことがわかったし! 私も早速今日にでも使ってみようかな!」

「僕は落ち着かないからもとの髪に戻すよ……。ハルさん、すみませんが切ってくれませんか?」


 ロボットであり、もとの髪型の情報がデータとして保存されているハルなら、正確に髪を切ってくれるはずだ。実際ハルは、船の皆の散髪を何度か行っている。その腕が信用に値するものなのも知っていた。


 が、ハルからの応答はなかった。少し背を前に倒して、じっと穹のことを見下ろし続けていたからだ。


「ハルさん……?」

「……」


 ハルに目はないが、目を皿のようにしているといって差し支えない気配を感じていた。黙ったまま、ひたすら穹を凝視している。

 不思議に思うより、もはや不気味に感じるほど長い時間見ていたかと思うと、急にテレビ頭を別の方向に向けた。


「ミヅキ、ミライ、アイ。こちらへ」


 ハルは美月と未來とアイを連れて、少し離れた場所に移動した。腰を折って三人の顔に近づき、音量を絞った声で何かを話す。ちっとも聞き取れなかったが、ハルの傍にいた美月は、「何それ!」と声を上げた。


「いいじゃんそれ! 凄い名案!」

「わ~、天才ですねハルさんっ!」

「ふざけているわけではない……のですよね……? 師匠のことですものね? な、ならばわたしも協力します……が……」


 アイの反応がとても気になったが、詳しく聞くより先に浮き浮きとスキップするように美月と未來が近づいてきた。


「穹、朝ご飯食べたあとで私の部屋来て! っていうか連れて行くから! うん!」

「待って、何をしようっていうの?」

「それは内緒~! その時までのお楽しみだよ、穹君!」

「えっ、怖いんですが?!」

「わ、悪いようにはしません。……恐らく」

「恐らく?!?!?!」


 何を言っても、誰も本当のことを教えてくれない。

 クラーレの「無事に帰せよ……?」の一言が洒落に感じられなかった。

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