第262話 ケジメと決闘
大変お待たせしました。
体調も快方に向かっているので、少しずつ頻度を戻せるよう努力して参ります。
俺とゼットの因縁は、俺が思っていたよりも深かった。
そんな相手から古風な方法で決闘を申し込まれたら、受ける以外の選択肢はないだろう。
なお、日本では決闘は法律で禁止されているから、ただの喧嘩にした方がマシになったりする。
『決闘を受けてくれて感謝する。ただ、為すべきことがあるので、少々待っていて欲しい』
ゼットはその言葉を最後に10秒ほど無言になった。
A:マスター、地上のDリーパーが全て消滅いたしました。
それって……。
『今、この世界を含め、全ての世界からDリーパーを消滅させた。元の世界が消滅しているなら、他の世界を侵略する必要はないからな』
当然、ゼットの仕業だよな。
ゼットの声色は穏やかで、安心したような雰囲気を感じる。
『そして今、空中要塞内で行われていた非人道的な研究のほぼ全てを停止、廃棄した。元の世界に戻れないなら悍ましい研究を続ける必要はないからな』
ゼットの雰囲気は変わらない。
空中要塞の中の出来事なので俺達に確認する術はないが、嘘を言っているようには思えなかった。
異世界侵略も非道な研究も、本音で言えばやりたくなかったんだろう。
『最後に……いや、その前に1つ聞かせて欲しい。この世界に生かしておきたい者はいるか?』
「……どういう意図の質問だ?」
何となく予想は付くが、一応聞いておく。
『今から、私はこの世界の人間を皆殺しにする。正確には『昇華』の副産物による生命維持を停止する。この世界の住人は、今まで生命維持装置により生き続けていた。装置が停止すれば、30秒ほど地獄のような苦しみを味わい、そのまま死……いや、魂が崩壊するだろう。しかし、君達が生かしたい者がいれば、例外的に生き残らせよう』
それは、前の2つの所業へのコメントとは異なり、全く感情を感じさせない物言いだった。
「何故、この世界の人間を500年も生かし続けたんだ?」
『当然、復讐だ。私が故郷に帰れず苦しむ間、連中も死なさずに苦しみだけを与えることにした。私が元の世界に戻り、私の世界が救われたら解放するつもりだったが、結果は知っての通りだ』
「…………」
エグいことをしているのは間違いないが、被害者による復讐と言われたら仕方ないとも思う。
『少なくとも、私の500年の観察によれば、この世界の住人に生かす価値のある者は存在しない。それでも、君達が生かしたいと思う者がいるなら、例外を設けても良いと思っている』
「……誰もいないな」
この世界の住人は、少々やり過ぎた。
そして、500年あっても反省しているようには見えなかった。
だから、誰も助けたいと思えなかった。
『そうか。それなら、連中はこれで終わりだ』
また円道さんがジ・エンドって言った。
A:地上の人間が苦しんで消滅しました。
地上が地獄絵図という状況で、使い終わったジョークを再利用するのか。
『さて、これで決闘の前にやるべきことは全て終わったな』
「何と言うか……まるで終活ね」
「聞いたことのない単語ですわね。どんな意味ですの?」
「簡単に言えば、死ぬ前の身辺整理のことよ。心残りなく終わるための活動、略して終活……」
セラの問いにミオが答える。
今の3つの行動は、ゼットが『死ぬ前にやるべきこと』だったように思える。
望まなくてもやらざるを得なかったことを止め、許せぬ者達に裁きを与えた。
その先には何がある?
「アンタ、死ぬ気か?」
『決闘で手を抜く気はないぞ。ただ、勝っても負けても私にその先の未来はないのはその通りだ。先にも述べた通り、私の身体は『昇華』により非常に不安定になっている。全力で戦えば肉体は崩壊を始め、1時間も保たず死んでしまうだろう』
勝っても負けても死ぬことが確定している戦い。
普通に考えれば、そんな戦いを挑むことに意味はない。
「どうして、俺に決闘を申し込んだ?最初は、故郷を滅ぼされた仇討ちかと思っていたが……」
『そもそも、君は私の仇ではないだろう?私の故郷は私達の研究によって滅んだ。私や仲間の科学者が滅ぼしたも同然だ。私にとって、世界とは宝の詰まった宝箱だったのだよ。宝が全て失われた空箱を破壊された程度、恨むようなことではない』
「前世の件は?」
『それも同じだ。あの組織は滅ぶべくして滅んだ。私は、悪の科学者として自らに引導を渡した。それだけの話で、アジトを探し出した者を仇と呼ぶほど他責思考ではない』
ゼットの声色は穏やかだ。
強い恨みも感じないし、自棄になったようにも感じない。
『ただ、それでも考えてしまうのだよ。君は、私にとって死神のような存在だとね。恨んではいないが、前世も今世も君が関わると私は終わってしまうらしい。死を運ぶ……いや、生きる意味が失われるという方が正しいか……』
……流石に、死神と呼ばれたのは初めてだな。
それも、死神を名乗る存在の親玉から……。
『だからこそ、私の最期は君との戦いが相応しいと思った。死神に敗れて死ぬか、死神に打ち勝って死ぬか、そのどちらかが相応しい……いや、それ以外の最期を望まない』
生きる意味を失ったから、せめて死に方は自分で選びたいのか。
『当然、これは全て私の都合だ。君に付き合う義理はない。説明した上で君が戦いを望まないというのなら、それはそれで仕方がないことだとも思う』
「一度、決闘を受けると言ったんだ。今更翻す気はない」
『そうか、感謝する。それでは、決闘の条件を決めようか。まず、戦いは君と私の1対1、これは絶対に譲れない。君以外の者に殺されるのは御免だからな』
「良いだろう。皆は手出し無用だ」
「…………」
『不利だから』ではなく、『俺以外に殺される』のが嫌だから1対1を望むのか……。
少し、マリアが我慢するような雰囲気を出しているが、意図的に無視する。
『いや、手出しすること自体は構わないぞ』
「は?」
1対1を望んでいるのに、仲間の手出しを禁止しない? ……意味が分からない。
『敗北条件を、死ぬか、降参するか、仲間が手出しすることにすればいい』
「何だそりゃ……。殺し合いの決闘じゃないのか?」
『最初に同郷の者を殺すような真似はしたくないと言っただろう?私は死神に打ち勝ちたいのであり、殺したいのではない。無論、本気の戦いである以上、君が死ぬ可能性も十分にある。……その時は、諦めて私の黄泉路に付き合ってくれたまえ』
「本当に自分の最期を決めるためだけの戦いなんだな……」
ゼットの目的は、本人が言ったとおり、『死ぬ前に俺と戦うこと』、それだけだった。
むしろ、俺が戦いで死ぬことの方を例外と捉えているようにも聞こえる。
『ああ、その通りだ。折角だから、報酬の話でもしようか。君が勝てば、空中要塞ネメシスを君に譲ろう。非道な研究は概ね破棄したが、それでも十分な価値はあると思う。破壊するも良し、利用するも良し、自由にしたまえ。……魔王ディーも中にいるから、自由にしたまえ』
「俺が負けたら?」
『その時は空中要塞ネメシスを丸ごと破棄させて貰う。君達の手による転移条件の達成は不可能になるから、諦めてこの世界で4日間過ごしてくれ。この世界の住人は誰も残っていないから、少しは過ごしやすくなっただろう?』
「何と言うか……ちょっと色々と俺に有利すぎないか?」
『私の都合に付き合って貰うのだ。これくらいは当然のことだ』
数多の世界を滅ぼした侵略者の親玉。
その親玉との最終決戦が、リスク少なめ、報酬たっぷりの決闘になるとは思わなかった。
『そろそろ、そちらに行こうか』
ゼットがそう言うと、俺達の前に魔法陣が現れ、中から男が出てきた。
男……ゼットは白衣を着ており、どう見ても科学者といった風貌だった。
それでは、ステータスを見てみましょう。
名前:ゼット
性別:男
年齢:682
種族:ハイエンドエルフ(転生者)
秘術:<亜空の支配者>、<万物の解析者>
能力:<武技>、<装甲>、<転移>、<連携>、<狙撃>、<回避>、<解析>、<通信>……………………
流石のステータスだなぁ……。
基本的にDリーパーが所持していた能力はほぼ全部持っているみたいだ。
そして、種族はハイエンドエルフ。流石はジ・エンドウさん、徹底している。
秘術とやらはユニークスキルに近そうだな。
「ふむ、直接見たことで確信できた。やはり、君は凄まじく強い」
「アンタも強いな。……それと、その剣、ヤバいな」
ゼットは鞘に入った剣を持っていた。
その剣は鑑定しなくても分かるくらいにヤバいオーラを放っていた。
とりあえず鑑定!
亡剣・呪言
分類:片手剣、呪い
レア度:神話級
備考:不壊、生物の殺害数に応じて強化、長時間の使用で使用者の肉体を蝕む
殺した数だけ強くなる武器。良くある呪いの装備だ。
たった、それだけの能力なのに、ここまで禍々しいオーラを放っているのは何故だ?
「これは私の非人道的研究成果の1つだよ。この剣は生物を殺せば殺すほど強くなる。さて、質問だ。私の専門分野の1つは何だったかな?」
俺の知っているゼットの専門は遺伝子工学……。
「…………もしかして、クローンを殺しまくったのか?」
「正解だ。クローン製造装置の出口にこの剣を置いておけば、自動でクローンを殺し続け、強くなり続けるのだよ」
「滅茶苦茶、非人道的だな……」
生み出して殺し、生み出して殺す。しかも、それを自動化しているときたものだ。
「この剣を手に入れてから400年あまり。既に1億人以上のクローンを殺している。……まさか、際限なく強くなり続けるとは私も予想外だった」
1億も殺せば、呪われた神話級にもなるだろうな……。
「代償として、使い続ければ私も無事では済まないが……剣の呪いよりも私の身体の崩壊の方が早いから何の問題もないだろう。ああ、この剣も報酬の1つとして構わないぞ」
「い、いらない……」
アレは多分、存在するだけで世界に良くない影響がある呪いの装備だ。
この戦いが終わったら迷わずに破壊しよう。
「……同郷だからか、どうしても話が長くなってしまうな。名残惜しいが、そろそろ始めようか。今から、私と君だけを亜空間に隔離する」
「何故?」
「私達が本気で戦えば、この世界は滅茶苦茶になってしまうだろう?戦いの途中で崩壊されても困るので、私と君だけを座標のズレた亜空間に移すのだよ。その亜空間は中からは壊れにくいが、外からは割と簡単に壊すことができる。君の仲間達がこれを壊したら、君の負けとしよう」
「分かった。皆も良いな?」
俺が確認すると、皆が頷いてくれた。
《いざという時は、迷わずに破壊いたします》
《ああ、任せた》
万が一があっても、マリアなら俺が死ぬ前に救助してくれるだろう。
「君だけ少し前に出てくれ」
「分かった」
俺が皆よりも前に進むと、ゼットを中心に結界のような球体が広がり、俺だけを飲み込んだ。
亜空間の中はとてつもなく広い。空間をねじ曲げているのだろう。
仲間達は亜空間の外ギリギリにいるようだ。
「この亜空間、アンタの力を削っているんじゃないのか?」
これ程の結界、亜空間を維持するのは、それなりの負担になるだろう。
全力の勝負といいながら、片方にハンデ有りというのはよろしくない。
「私の能力が元ではあるが、エネルギー供給も制御もネメシスに任せてある。この亜空間のせいで私が全力を出せない、ということはないから安心したまえ」
「そうか。これで気にすることはなくなったな」
「決闘開始の合図は5カウント、君に任せよう」
「了解。それじゃあ、5、4、3、2、1……」
カウントが0になり、俺とゼットの決闘が始まった。
「っ!」
ゼットの初手、それはDリーパーと同じエネルギー弾の発射だった。
Dリーパーのそれと異なるのは、空中に数多の魔法陣が現れ、そこから一斉にエネルギー弾が連射されてきたことだった。
簡単に言えば、全方位からの飽和攻撃だ。
加えて言うと、Dリーパーのエネルギー弾とは比較にならないほどにエネルギー密度が高い。要するに、強い。
「今更こんなのに当たるかよ!」
しかし、飽和攻撃だろうが、威力が高かろうが、当たらなければどうということはない。
「せいっ!」
俺が攻撃の隙間を抜けた瞬間、目の前にゼットが現れた。
攻撃が避けられる前提で誘導したって訳か。
「ふっ!」
ゼットが剣を振るい、俺も剣を振るう。
ぶつかり合った2つの剣は凄まじい衝撃を周囲にもたらした。
力自体は俺の方が強いらしく、鍔迫り合いなら分が……真後ろからエネルギー弾が来やがった。
俺はエネルギー弾を避けるため、ゼットから距離を取る。
エネルギー弾はそのまま俺の前にいたゼットに当たる……ことはなく素通りして行った。
「エネルギー弾の自滅はないのか……」
俺はエネルギー弾の連射を避けながら呟く。
以前、ドーラはエネルギー弾を逸らしてDリーパーに当てるという芸当をやってのけた。
つまり、エネルギー弾は本人にも当たるはずなのだが……。
「君達のことは見ていたと言っただろう。P-172.256.163.75の戦いを見て、エネルギー弾による自滅を欠点と認識し、改良を加えたのだよ。同じ波長を持つ者、つまり本人にはもう当たらない」
「……それまで気付かなかったのは、それはそれで問題じゃないか?」
「……残念ながら、私の本職は戦士ではないのだよ。その手の戦いのコツには疎くてね」
ゼットは強い。それは事実だが、本人の実戦経験はそれほど多くないのか?
「私にできることは、最大の火力と物量を相手にぶつけることだけだ」
「それだけでも、結構、厄介だな!」
俺はエネルギー弾を避けながら、ゼットに接近、剣を打ち合う。
エネルギー弾の配置が絶妙で、こちらが全力を出せないようにうまく調整されている。
「こちらも命を削っているのだ。厄介でなければ困る」
まだ、少し打ち合っただけだが、ゼットの肉体が悲鳴を上げ始めているのが分かる。
本当に、長くは戦えそうにないな。
「無論、多少は小細工も使えるぞ」
次の瞬間、ゼットの姿が消え、俺の背後に気配が……違う、右だ!
俺は背後の気配を無視して右に向けて剣を振るい、短距離転移していたゼットの斬撃を防いだ。
「まさか、ここまで簡単に対処されるとは。君達が背後への転移に反応できることは知っていたから、裏をかけるかと思ったのだが……」
背後への転移はDリーパーが使っていた。
ゼットはそれだけでは無意味だと考え、背後への転移自体をブラフとして使ったのだ。
余談だが、背後の気配は謎の肉塊だった。
「転移への対策は徹底しているんでね」
以前、織原に転移で拉致られた経験もあり、転移対策はバッチリと言える程に頑張った。
まあ、織原は同じ手を二度使わないタイプの存在なのだが……。
「流石と言わざるを得ないな。しかし、全くの無駄という訳でもなさそうだ」
そう言うと、再びゼットの姿が消え、今度は真下から斬撃が襲いかかってきた。
空中で向きを変えて受け止めると、更に転移と攻撃を繰り返してきた。
当然、エネルギー弾による援護もあるので、俺は防戦一方……から攻撃に転じた。
俺は『ワープ』を使い、ゼットの次の転移先を予測し、その真後ろに転移して斬りかかる。
「なっ!? ぐっ!」
ゼットは辛うじて反応できたものの、剣で受けることはできず、僅かに身体を引いて被害を抑えることしかできなかった。
ゼットの背中から血が流れている。この戦い、初ダメージは俺のものだ。
残念ながら、その傷はすぐに回復してしまったようだが……。
「君も転移ができるとは思っていたが、何故私の転移先が分かった……?」
「視線だよ。転移先に目が行っているぞ」
『ワープ』にも言えることだが、大抵の短距離転移は転移先を目視しておく必要がある。
転移での戦いに慣れていないと、どうしても次の転移先を見てしまうんだよなぁ……。
……俺?俺は特定の位置を注視しない八方目という技術を浅井から伝授され、完璧に身につけているから、視線で転移先を読むのは難しいはずだよ。
「……やはり、本職の戦士は違うな。同格の相手と戦ってこなかったツケが回ってきたか」
「アンタ、どちらかと言えば魔法使いとか科学技術で戦う側じゃないのか?何で、こんな真っ向からの近接戦をやってるんだ?」
正直、ゼットと戦うという話になった時、こんな接近戦をするとは思っていなかった。
大規模な魔法を使ったり、科学的な武器を使ったり、奇襲や罠を多用したりと、後衛的な戦い方を想定していた。
蓋を開けてみれば、『強大な力を持った呪いの近接武器』と『援護用のエネルギー弾』と『移動用の転移術』しか使っていない。
ゼットに関する事前の情報から想定できる戦い方ではない。
「当然、戦術や戦法、戦いの手札は山のように用意してある。しかし、君を見ただけでその大半が全く通じないと確信できた。私には時間がないのだ。通じもしない策に時間を使うくらいなら、最も勝率の高い戦い方一本に絞るべきだろう?」
「それがコレなのか……」
「ああ、流石の君も、ここまでシンプルに高い火力なら、無事では済まないはずだ」
山ほどの無駄な小細工を並べるより、シンプルな最大火力で勝ちを狙う。うん、悪くない。
「……納得した。続きをやろうか」
「行くぞ」
そこから、俺とゼットの転移合戦が始まった。
「君のそれは八方目だな。本で読んだことがある。難しいが、見様見真似でも多少は使えそうだ」
「そんなのが載っている本を読むなんて、意外と乱読家なんだな」
「技術のブレークスルーとは、本筋と無関係な技術から着想を得ることも多いのだよ」
「言われてみれば、東も結構色んなジャンルの本を読んでいたなぁ……」
俺とゼットは高速で転移、攻撃、回避を繰り返しながら、何故か雑談をしていた。
転移を繰り返しているので、実際には滑らかに喋っておらず、途切れ途切れだと補足しておく。
また、本人の言ったとおり、見様見真似の八方目により、ゼットの転移先は読みにくくなった。
「膠着状態か、望ましくないな……」
俺達の戦いは完全な膠着状態に陥っていた。
時間のないゼットにとって、この状況が望ましくないのは間違いないだろう。
つまり、次の手を打ってくる可能性が……。
「っ!」
俺は急激に速くなったゼットの動きに数瞬反応が遅れた。
斬撃は躱したが、服に掠って少し切れてしまった。
「ここまでして、服を少し切っただけとは……」
「いや、驚いたよ。まだ速くなるとはな」
更に速くなる可能性も考慮し、慎重に攻防を繰り返す。
「なに、生命力を代償に一時的に全能力を上げただけだ」
「……寿命、削りすぎじゃないか?」
「ここまで来ると、私に払える物はもう寿命しか残っていないのだよ」
再び斬撃の応酬が続き、膠着状態になろうかというところで、急にゼットが攻撃を止めた。
エネルギー弾も飛んでこなくなっている。
「潮時だな。これ以上、私に打つ手はない。対する君は、まだ本気すら出していないのだろう?」
「……良く分かったな」
確かに、俺は全てのステータスを解放してはいない。
最初に決めたステータスで全力は出しているが、本気かと言われると明確に違う。
「戦闘のコツには詳しくないが、観察力はある方なのでね。手加減をしているというよりは、自分に枷を付け、その中で全力を出している、といった感じか……」
俺の戦いを見ただけで、そこまで分かるのか……。
「本当に、良く分かったな。それで、どうする気だ?もう打つ手がないんだろ?」
「ああ、このままでは私の身体は後10分も保たないだろう。だから、頼みがある」
「何だ?」
「本気、いや、そこまで行かなくても、今の私にはどうにもできない圧倒的な力で私を屠ってくれ。時間切れで負けるくらいなら、圧倒的な差で敗れた方がマシだ。諦めも付く」
本当に、ゼットは少しでもマシに死ぬことしか考えていないんだな……。
「良いけど、条件がある。本気で攻めてこい。無抵抗の相手に本気なんて出したくないからな」
「了解した。私も最期の全力を出そう」
「いつでも来い。本気で倒してやる」
「それでは……行くぞ!」
ゼットは言葉通り、今までで最高の速度による突進をしてきた。
あえて、転移を使わないのは、この速度に当ててみろということか。良いだろう。
俺はステータスの大部分を開放し、『英霊刀・未完』……ではなく、『神霊刀・至世・完』を振るい、ゼットのいる空間を断ち斬った。
「がはっ……!?」
俺の会心の一撃は、ゼットの身体と不壊を持つはずの『亡剣・呪言』を真っ二つにした。
回避や防御どころか、攻撃の認識すらできなかったであろう、
「感謝……する……」
その言葉を最期に、ゼットの身体が塵のようになって消滅した。
ゼットの死亡と同時に亜空間も消え去った。
「ご主人様、お疲れ様!」
「お疲れ様です……」
《おつかれー!》
「仁様にお怪我がなくて何よりです」
「ご主人様の圧勝ではありましたけど、良い勝負でしたわ」
亜空間が消えたので、外側にいた仲間達も近付いてくる。
「ああ、悪くない戦いだったな。ゼットも満足してくれたみたいだ」
ゼットは消滅する直前、確かに笑っていた。
色々とやらかした黒幕ではあるが、納得して死ねたのなら何よりである。
「それで、空中要塞を貰ったらしいけど……どうすれば良いの?」
「……言われてみれば、詳しい説明、何もされていないな」
勝利報酬として提示され、了承したのは良いが、説明は一切なかった。
今更の話だが、空中要塞ネメシスにはパッと見た限り、入口すら存在していない。
『それらの説明は私、空中要塞ネメシス制御システム、名称ネメシス・コアにお任せください』
響いてきたのは、ボスラッシュの時に指示を出していた声だった。
思い返してみれば、ゼットはネメシスに亜空間の制御を任せたと言っていた。
つまり、制御に必要な頭脳に当たる機能が存在するということだ。
「人工知能か何かか?」
『はい、私は前管理者ゼットに作成された空中要塞ネメシス制御用人工知能です。空中要塞ネメシスは前管理者ゼットの死亡と同時に、管理者不在となりました。現在、空中要塞ネメシスの管理者権限を取得できるのは、進堂仁様だけとなっています。管理者権限を取得いたしますか?』
「分かった、取得しよう。……やっぱり、ゼットはそんな片手落ちな真似はしないよな」
勝利報酬を与えると言っておきながら、使い方を教えないなんて有り得ないだろう。
『その件に関して、前管理者ゼットよりメッセージを預かっております。『仮にも決闘だというのに、負ける前提で長々と説明をするのも興醒めになるだろう。ネメシス・コアは空中要塞ネメシスの全てを知っている。説明はネメシス・コアから聞いてくれ』とのことです』
確かに、決闘の前に負ける前提で説明されたら盛り上がりに欠けるよな。
『正式な管理者権限の取得のため、空中要塞ネメシスへお入りいただけますでしょうか?』
「それは構わないけど、どこから入れば良いんだ?」
『少々お待ちください。……今から、転移用の魔法陣を発動しますので、その中に入ってください』
「仲間も連れて良いか?」
『はい、構いません。それでは、発動します』
ネメシス・コアの宣言と同時に、何度も見た転移の魔法陣が現れた。
よく見ると、少しだけ形が違う気がする。多分、『入口』と『出口』で違う魔法陣なのだろう。
「それじゃあ、行こうか」
仲間達と共に魔法陣に近付く。
「仁様、私が先に入ります」
「……任せた」
ゼットのことは信用しているつもりだが、仮にも敵の本拠地への移動ということもあり、警戒しながらマリアが先に入り、安全を確認した後に俺達も入る。
「……ここが、空中要塞の中か」
「明らかに地上とは文明レベルが違うわね」
空中要塞ネメシスの内部は、長い廊下とその左右にある幾つもの扉、シンプルに研究所といった様子だった。
床も壁も天井も扉も金属製で、塗装もされており、それぞれの部屋にプレートが掛けられている。
『現在向いている方向に5分程お進みください。途中、気になる部屋があったら仰ってください。ロックを解除いたします。管理者権限があれば何時でも入れるため、後回しにしても構いません』
「分かった。とりあえず、確認は後回しにして、管理者権限の取得を優先しよう」
ゼットが死んだこと、空中要塞の中に入ったことで、内部のマップは完全に把握できている。
ゼットは悍ましい研究は破棄したと言っていたし、実際に破棄されているようだ。
しかし、マップの痕跡から何をやっていたか、一部は分かっちゃうんだよなぁ……。
今更何を言っても意味がないので、ノーコメントで……。
「ここか」
5分程歩いて到着したのは、円形の広い部屋だった。
四方に通路があり、俺達はその内の1つから出てきた。
マップから得られる情報によれば、4つに分けられた区画には、それぞれ異なるテーマがあったことが分かる。……1つの区画はほぼ廃棄されているみたいだ。
「ふう……。これから、どうすれば良い?」
苦々しい話は置いておいて、今は管理者権限の取得を優先しよう。
部屋の中央には椅子があり、操作パネルのような物に囲まれている。あの辺かな?
『照明の当たっているパネルに掌を乗せてください』
操作パネルの1つに天井から光が当てられる。
俺はネメシス・コアの指示に従い、対象の操作パネルに近づき、その上に手を置いた。
『生体認証完了。管理者権限を進堂仁様が取得いたしました』
特に何かが変わった様子はないが、俺は無事に空中要塞ネメシスを入手できたようだ。
『空中要塞ネメシスの制御は、制御パネルによる直接操作、または私、ネメシス・コアへの指示により実行可能です。前管理者ゼットは主に直接操作していました』
「天才と比べられても困るな……。多分、ネメシス・コアに任せると思う」
『承知いたしました。何なりとご命令ください』
多分、パソコンとかを弄るのとは比べものにならないくらい難解だと思う。
アルタ、念のため、使い方とかを把握しておいて貰えるか?
A:既に解析は完了しています。トラップなどがないことも確認済みです。
おお、仕事が速い。
それじゃあ、俺もやるべきことを……やろうか……。
「………………ネメシス・コア。魔王ディーの元に案内してくれ」
空中要塞ネメシスに捕らわれている魔王ディー、転移条件の1つでもある。
何時までも、その存在から目を逸らしている訳にもいかないだろう。
『承知いたしました。西側、点灯している通路をお進みください』
東西南北に通路が広がっており、北西側の区画、それはほぼ全て廃棄されている区画だ。
つまり、魔王ディーの研究とは、ゼットが『悍ましい』と称した研究なのである。
ゼットは今まで戦った相手の中でも上位に入る実力者です。
無双系主人公が戦うと相手の強さが実感しにくいというのは無双ものの欠点だと考えています。
しかも、時間がない+実力差を悟ったことにより、ボスなのに戦闘時間が短くなってしまいました。
それでも、実力を表現したかったので、「仁の服を斬る」という快挙を成し遂げてもらいました。




