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第261話 交渉と因果

私的な理由により長期間執筆ができませんでした。

ご心配をおかけし、申し訳ありません。

大体解消したので、連載を再開させていただきます。


あらすじ:

Dリーパーの本拠地と思われる世界に辿り着いた仁達。

Dリーパーの親玉はかつてこの世界に召喚された元勇者だった。

この世界の住人は全く守りたいと思えないが、

転移条件を満たすには元勇者との邂逅は避けられないようだ。

元勇者の正体と目的は……大体本話で明らかになります。

 元国王達のいる施設を出て、絶対に声が届かない距離まで離れたところで立ち止まる。


「ドーラ、こっちに来てくれ」

《なーに?》


 俺は近付いてきたドーラを持ち上げ、ギュッと抱きしめた。


《ドーラもギュー!》


 ドーラは嬉しそうに声を上げ、俺を抱きしめ返してくれた。


「ご主人様、いきなりどうしたんですの?」

「ストレス解消中。この世界の連中があまりにも酷かったから……」


 ドーラを抱きしめることで、元国王達と話をして溜まったストレスを解消する。

 ああ、癒やされる……。


「的確にご主人様の地雷を踏み抜いていたわよね」

「私も嫌なことを思い出しました……」

「さくらもドーラを抱きしめるか?」

「はい……」


 今度はさくらがドーラを抱きしめる。

 俺は手が空いたのでマリアの耳と尻尾をモフモフして癒やされる。


「……ふう、癒やされた。それじゃあ、空中要塞ネメシスに行こうか」


 マリアの顔が真っ赤になるくらいに耳と尻尾を弄んだ後、次の目的地を口にした。


「え、空中要塞への正規ルートが分かったの?さっきの話、どこかにヒントがあったかしら?」

「いや、正規ルートを探すのは止めて、亜空間を無理矢理開いて入る」

「……ああ、嫌になっちゃったのね」


 ミオがズバリ正解したので頷く。


「この世界の住人はアレで、Dリーパーは無反応だから、まともな情報収集は無理だろ。そもそも、空中要塞への正規ルートが存在する可能性は低いんじゃないか?」

「どゆこと?」

「話を聞いた限り、勇者……いや、被召喚者はこの世界の連中を嫌っている。俺なら、自分の拠点に嫌いなヤツが来る可能性は欠片でも残したくない。行き来できるのは関係者に絞る」

「……言われてみれば、自分の家に無関係な他人が入る方法なんて、存在する方が困るわね」


 空中要塞は出入り自由な施設ではなく、鍵の掛かった自宅と考えた方が正しい気がする。

 俺の想像ではあるが、あの亜空間はこの世界に対する拒絶なのではないだろうか?


「もちろん、亜空間への侵入方法が存在する可能性は0じゃない。だけど、俺はもうこの世界に余計な手間と時間を掛けたくない。だから、簡単で確実な方法を選ぼうと思う」

「ご主人様がそこまで言うのは相当ですわね」

「本っ当に嫌になっちゃったみたいね……」


 普段の俺なら途中経過も大事にするのだが、今回は本当にやる気が出ない。

 異能でも何でも使って、さっさと次の世界に行こうと思う。


「じゃあ行くぞー」


 やる気なく宣言して空中要塞に向けて飛んで行く。

 割と遠慮なく速度を出したため、5分も経たずに亜空間との境界に到着した。


「えいっ!」


 手を伸ばして亜空間に触れる。

 <多重存在アバター>のLV8効果を使い、亜空間に干渉して人が通れる穴を空けた。


「よし、入るぞ」


 そのまま亜空間に入り、中の様子をマップで確認する。


「ご主人様が効率を優先したらマジで早いわね」

「いやいや、最高効率を目指すなら、ここから空中要塞を破壊してるって」


 そうすれば、②の『空中要塞ネメシスを排除する』を達成できるはずだ。


『それは困る』


 どこからともなく聞こえてきたのは男性の声だった。

 音の響き方からして、少し前に流れた放送と同じ仕組みのようだ。


「見つかるのが早かったな。もしかして、警戒していたのか?」

『4度も私の邪魔をした相手を警戒しない方がおかしいだろう?』

「やっぱり、見ていたか……」


 Dリーパー同士で情報共有する手段があるなら、親玉と情報共有していても不思議ではない。


『君達のことは、P-172.256.163.75の時から見ていた』

「なんて?」

『マザーと名乗るプログラムが管理している世界のIDだ。アドレスと言っても良い。日本人なら、それくらいは分かるだろう?』

「……アンタ、日本人なのか?」

『元、日本人だ。日本で生まれ、日本で死に、異世界に転生し、更にこの世界に召喚された』

「わーお……」


 男の言うことが本当なら、波乱万丈と呼ぶに相応しい経歴だ。


『私の名はゼット、日本人としての名は円道一えんどうはじめだ。君達の名を聞かせてほしい』


 ステータスが見えないから漢字は分からないけど、とりあえず知り合いではなさそうだ。

 ただ、何処かで聞いたような名前の気がする……。


「俺の名前は進堂仁、向かって右から木ノ下さくら、ミオ、ドーラ、セラ、マリアだ」

『……ああ、懐かしい響きの名前だ。君達は何故、この亜空間の中に入ってきた?まさか、この世界の連中の話を信じて、正義のために私を殺す、などと言うのか?』

「誘拐犯のどこに正義がある?誘拐した相手にやり返されたってだけの話だろ」

『ああ、その通り。この世界の連中は誘拐犯。それは揺るがない事実だ』

「俺達が亜空間に入ったのは、転移条件を達成するためだよ」

『……転移条件を聞かせてほしい』

「『空中要塞ネメシスの排除』と『魔王ディーの殺害』だ。亜空間に入らず、達成できるのか?」


 厳密に言うと、『魔王ディーの殺害』を亜空間の中で達成できる確証はない。

 先程、マップを見たのだが、空中要塞の中の部屋は全てが亜空間として区切られており、別のエリアとしてマップから詳細が確認できなくなっていた。

 状況的に空中要塞にいるとしか思えないが、まだその居場所は把握できていないのである。

 同じ理屈で、ゼットのステータスもまだ確認できていない。

 いやぁ、マップが完全に封殺されるなんて、初めての経験だよ。


『厄介な条件だな。どちらも亜空間の中でしか達成できない。しかし、私の目的を考えれば、どちらを達成されても困る。……時間経過による転移は選べないほどに長いのか?』

「いや、たったの4日間だ。だけど、俺はこの不快な世界から一刻も早く出たい」

『……気持ちが分かるのが悲しいところだな』


 この世界を1番不快に思っているのはゼットだろうよ。


『それならば、ここからは交渉の時間だ。不快な思いを我慢してこの世界で4日を過ごしてもらえるならば、それに相応しい対価を払おう』

「殲滅部隊けしかけておいて今更交渉を始めようってのか?」


 前にも述べたが、先制攻撃とは対話の意思がないという何よりの証明だ。

 自分に都合が悪くなったからといって、簡単に撤回できるものではない。


『その件は申し訳なかった』

「普通に謝るのか……」


 簡単には撤回できないけど、撤回するなら最初に謝るのは道理である。


『私とて、同郷の者を殺すような真似はしたくない。君達が来た時は少々立て込んでいて、緊急事態でない限り連絡が入らないように設定していたのだ。100体の殲滅部隊が倒され、緊急度の上方修正が入るまで君達の来訪に気付けなかった。本意ではない攻撃なのだから謝るしかないだろう』

「同郷じゃなければ殺しても構わないのか?」

『異世界人が来るということは、異世界のルールに干渉されるということだ。この世界が滅ぶ可能性がある以上、真っ先に排除するのは当然だ』

「なるほど……」


 少々物騒ではあるが、納得のいく説明ではある。


『それで、私と交渉を行う意思はあるのか?』

「交渉しても良いけど、その前に色々と事情を聞かせてくれ」

『良いだろう。殲滅部隊をけしかけた慰謝料代わりだ。私に答えられることなら何でも答えよう』


 まさか、敵の親玉的存在から慰謝料という言葉を聞くとは思わなかった。


「それじゃあ、最初に1番重要な質問だが、アンタの目的は何だ?」

『無論、私が元いた世界……ああ、地球じゃないぞ。転生後の世界を救うことだ。』

「世界を救う?その世界に帰ることが目的じゃないのか?」

『それは手段であって目的ではない』


 ゼットはハッキリと断言した。


『私のいた世界は『深淵アビス』の例に漏れず、滅びの危機に瀕していた。私は、元々その滅びに抗う研究をしていたのだよ。しかし、その途中でこの世界に召喚されてしまった』

「……もう、召喚されてから500年経っているけど大丈夫なのか?」


 元国王は約500年前に召喚したと言っていた。

 連中の話は信憑性に欠けるが、流石にそんな箇所に嘘はないだろう。


『分からない。私の世界の危機は簡単に言えば少子化だ。しかし、私の種族は1000年以上の時を生きる長命種なので、何事も起きていなければ、まだ滅んではいないだろう』


 子供が生まれなくなって滅びるのは、『深淵アビス』世界のあるあるなのかもしれない。


『滅びが確定していない以上、私が元の世界に戻ることを諦めることはない。何より、あの世界には我が子を宿した妻がいるのだ』

「少子化の世界に妊婦の奥さんを残して召喚されたのかよ……」

『最悪だろう?』

「本当に最悪だよ」


 正真正銘、最悪と呼べる状況の1つだ。

 せめて、元の世界に未練のない人だけを召喚する、とかならフォローもできるのだが……。


『私のいない間に全ての問題が解決し、滅びの危機を脱した可能性もある。あの世界には、私と同じく世界を救う研究をしていた同志がいたからな。しかし、救われている確証がない以上、私は世界を救う術を持って元の世界に帰らなければならない。そのためにも、空中要塞ネメシスと魔王ディーを失う訳にはいかないのだよ』

「空中要塞ネメシスは何となく分かるけど、どうして魔王ディーが必要になるんだ?」

『Dリーパーが魔王ディーのクローン体だからだ。純粋なクローンではなく、色々と調整した特殊なクローンだがな』


 名前から何かしらの関係があると思っていたけどクローンか……。


《ごしゅじんさまー、クローンってなーに?》

《ミオ、答えてくれ》

《オッケー。クローンって言うのはね……》


 ドーラが念話で質問をしてきたが、少々立て込んでいるのでミオに丸投げした。


「クローン……。それが、アンタの世界を救うための研究なんだな」


 魔王のクローンで異世界を侵略すると聞けば、それは邪悪なマッドサイエンティストの所業だが、少子化対策にクローンの研究をしていると聞けば、少しマシなマッドサイエンティストになる。

 まあ、マッドサイエンティストであることに変わりはないだろう。


『正確に言えば、それは計画プロジェクトの1つだな。物事の解決を1つの手段に頼り切ると、その手段が頓挫した時に取り返しがつかなくなるから、最低でも3つは用意するようにしている。1つ目の計画プロジェクトの名は『模造イミテーション』。今言った通り、クローン技術だな。クローンにより人口を増やし、時間を稼ぐことだ』

「時間稼ぎにしかならないのか?」

『世界の滅びはリソースの枯渇が原因だ。人口だけを維持しても解決にはならない。故に、2つ目の計画プロジェクト、『再誕リバース』はリソースの維持による世界の保護だ。元の世界では遅々として進まなかった研究だが、この世界に来て状況が変わった。滅びかけの異世界からリソースを奪えば良いと気付いたのだよ』

「それがDリーパーによる侵略か……」

『その通り。既にしばらく世界を維持できるだけのリソースは確保した。後は私が元の世界に戻り、稼いだ時間で根本的な解決に向けた研究を進めれば良いだけだ』


 その目的のために、一体どれだけの世界が犠牲になったのやら……。

 まあ、それをこの場で責めても何に意味もないか。


「元の世界に戻る当てはあるのか?」

『この世界の秘宝である『界の門』を使う。この秘宝を使えば、異世界への扉を開くことができる。しかし、この秘宝で繋げるのは、『この世界から近い順に100の世界まで』なのだよ』


 以前も話したとおり、『深淵アビス』の世界間には距離と方向の概念がある。

 元の世界が近くにあれば、簡単に戻ることができるだろうが、もし、遠い世界だったら?


「まさか、Dリーパーに世界を滅ぼさせているのは……」

『近くの世界がなくなれば、いずれ『界の門』は私の世界と繋がるだろう?リソースを集めつつ、私の世界に一歩ずつ近付いていく。一石二鳥の完璧なプランだ』

「…………」


 本当に完璧なプランすぎて思わず黙ってしまった。

 この男、行動が全て目的に一直線になっている。


『故に、『界の門』を搭載した空中要塞ネメシスと、侵略の先兵であるDリーパーのオリジナルたる魔王ディーは、私の目的に不可欠な存在なのだよ』

「その様子じゃ、まだ元の世界には繋がっていないみたいだな。……つまり、これからも他の世界を滅ぼし続けるってことか?」

『当然だ。私は私の世界に戻るまで、幾千、幾万の世界であろうと滅ぼし続けると決めている』


 他の世界にとっては迷惑極まりない話だが、ゼットにとっては唯一の道なのだ。

 どう考えても、説得の余地はないだろう。


『他者の理解を得ようとは思っていない。私の行いが『外道』であることは私自身が1番理解している。ただ、今の私に止まるという選択肢はない。どうする?交渉を決裂として私と戦うか?』

「…………」


 正直、ここで倒しておくのも悪くはない。

 見ず知らずの世界を守りたいとは思わないが、リュリュ、ヘル、ヘブンのいる世界は今もDリーパーに狙われている。

 少なくとも、ここでゼットを倒せば、あの世界の安全はより確かなものになる。


「いや、ここからが交渉の始まりだろ?最初の要求だ。異世界への侵略を止めろとは言わない。けど、アンタの言うマザーの世界への侵略は止めろ。これは最低限、譲れない」

『P-172.256.163.75か……。あの世界は是非とも掌握したいところだったのだがな』

「何故だ?あの世界は……そうか、世界の収縮を防いだ技術があったな」


 マザーのいる世界は、『深淵アビス』の世界が共通で抱える収縮の問題を結界によって防いだ。

 あの世界も実質的に滅んでいるが、収縮の問題を解決したのはある種の偉業である。


『その通り。私の知る限り、あの世界だけが明確に消滅を回避している。『再誕リバース』を強化するためにも、あの世界の技術は得ておきたい。君達も知っていると思うが、あの世界だけ、異常に送り込まれたDリーパーの数が多かっただろう?それだけ、本気だったのだよ』


 言われてみれば、他の世界に比べても大量のDリーパーが侵略に来ていたな。

 それだけ、あの世界の技術を重要視していたのだろう。

 しかし、それであの世界を狙い続けるというのなら、それは俺の敵と言って差し支えない。


『しかし、君達と敵対してまで望むような物でもない。一応、技術の一端は回収できているので、これ以上はDリーパーを送り込まないと約束しよう』


 口約束ではあるが、何となくゼットは無駄な嘘を吐く男には思えない。

 無論、状況が変わり、どうしても侵略しなければならない理由ができた場合、簡単に約束を反故にするような男であるようにも感じる。


「随分と物わかりが良いんだな」

『それだけ、君達のことを危険視しているということだよ。それに、私の目的は私の世界に辿り着くことであり、全ての世界を破壊することではない。実際、脅威度が高すぎて、Dリーパーを送り込むことすら諦めた世界もある。大事なのは、私の世界に届くまで滅ぼし続けることだ』

「アンタの目的に協力する気はないから、道中に目障りなDリーパーがいたら潰すぞ」


 これはしっかりと宣言しておく必要がある。

 ゼットの事情を聴いたからと言って、同情してDリーパーに手心を加える気はない。


『それで構わない。必要ならまた送り込めば良いし、無理そうなら諦めれば良い。1つ2つの世界に固執する理由はないからな。補足しておくと、Dリーパーはすべからく目障りだから、君達と遭遇した者は必ず消されるだろう』

「まあ、今までに会ったDリーパーは全員目障りだったな。何か、理由があるのか?」

『大したことではない。最初から思考パターンを『外道』と設定しているだけだ』

「えぇ……」


 Dリーパー、最初から外道として生み出された存在だったのか……。


『世界を滅ぼす役目を持った尖兵だぞ。真っ当な精神を与えられる訳がないだろう?』

「そりゃそうか……」


 下手に善性なんて物を与えたら、目標達成の妨げになりかねない。

 俺としては、Dリーパーが100%純粋な外道だったから、躊躇なく倒せたのは楽で良かったよ。


「はいはーい!ゼットさんに質問がありまーす!」


 ここで、クローンの説明をし終わったミオが手を挙げた。


『ミオと言ったな。質問とは何だ?』

「どうして、ゼットさんは自分のクローンを作らなかったの?ゼットさんは魔王より強いのよね?話を聞いただけで頭が良いのも分かるわ。強くて頭の良いゼットさんの方が、クローンとして増やすのに適しているんじゃないかしら?天才が自分のコピーを作るのってお約束だし……」


 言われてみれば、それも疑問ではあるよな。

 自分達のクローンを作る技術だったけど、魔王の方がクローンを作るのに適していたとか?


『ほう、良い着眼点だ。君が私の生徒なら、それだけで評点をプラスにしていたところだよ』

「残念だけど、最終学歴中卒だから、あんまり関係ないのよね……」


 ミオは高校生で亡くなったので、高校は事実上の中退、つまり最終学歴は中学校卒業だ。

 ……いや、俺も異世界転移しているから、高校を卒業できるか怪しいぞ?

 学歴が全てとは言わないが、高校中退という響きはなんか嫌だ。

 妹の凛に至っては、最終学歴が小学校卒業になってしまう。か、帰らなきゃ……。


『……先程の紹介では名字がなかったが、ミオ君も日本人なのか?』

「貴方と同じ、日本人の転生者よ。高校生で死んだから、中卒ってワケ」

『ふっ、面白いこともあるものだな。こんな滅びかけの異世界で、似た境遇の者と出会うとは……』

「アナタの境遇ほど、酷いものじゃないけどね……」


 転生者で異世界転移中と言えば同じだが、勇者召喚で拉致された分ゼットの方が境遇は悪い。


『さて、ミオ君の質問に答えるには、先に3つ目の計画プロジェクトについて説明するのが早いだろう』


 計画プロジェクトの説明は『模造イミテーション』と『再誕リバース』の2つで止まっていた。

 最低3つは用意すると言っていたから、少なくとも後1つ以上は存在するはずだ。

 一体、どんなシロモノが出てくるのやら……。


『3つ目の計画プロジェクトの名は『昇華アセンション』。人をより上位の生命体に変質させる研究だ』

「その名前、『進化エボリューション』の方が相応しくない?」

『それを言うのなら、世代を経ない変質なので『変態メタモルフォーゼ』の方が近い。ただ、変態のような段階的な変化ではないため、私が『昇華アセンション』と名付けたのだよ』


 ここで、計画プロジェクトの命名がゼットだということが判明した。

 相当、重要なポジションに居たっぽいな。そんな人が、勇者召喚により抜けた……。


『この計画プロジェクトは幾つかの計画プロジェクトを纏めた総称で、それぞれ方向性が異なっていた。例えば、極限まで遺伝子を弄り、出生率を高めた肉体に変質させるもの。例えば、有機的な肉体を捨て、無機生命体となることで永遠の寿命を得ようとするもの。例えば、肉体自体を捨て、半霊的存在となることで寿命の縛りから抜け出そうとするもの。……後者2つは、大きな欠陥が見つかったことと、子孫を残せなければ生物として存在する意味がないということで、廃案寄りの凍結となったがな』


 本当に色々と考えているなぁ……。


『ここからが本題だ。私はこの世界に来てから、『昇華アセンション』で得た成果を利用して自らの肉体を大きく変質させた。……そうでもしなければ、2度の生を合わせて、武器の1つも握ったことのない人間が、魔王を倒すことなど不可能だと判断した』


 話を聞いている限り、元のゼットは頭脳労働専門で、肉体労働は得意じゃなさそうだ。

 そして、『昇華アセンション』により優れた頭脳と超人的な肉体を持った完全な存在に……。


『その過程で、私の肉体は相当不安定な存在となり、『模造イミテーション』によるクローンに適さない物へと変質してしまったのだよ。クローンを作っても5分と保たずに死亡するくらいだ』


 なった代わりにクローンは作れなくなったと。


『魔王の肉体はクローン化しても能力が劣化するだけで、致命的な欠陥は有していなかった。そこで、『昇華アセンション』の技術を組み合わせ、世界を滅ぼす尖兵として量産した訳だ。これで、ミオ君の質問の答えになったかな?』

「納得はできたけど、まさしく悪の科学者の所業ね」

『悪の科学者か。今の私には相応しい呼び名だな。……これでも、地球では『三賢人』と呼ばれ、称賛されていた側だったのだがな』

「『三賢人』?何それ?」


 『三賢人』。聞いたことあるような……。


『地球で最も優れた頭脳を持つ3人に与えられる称号のことだ。一般には知られていないが、学術界の深みに入っていけば、いずれは知ることになるだろう。その称号のせいで、家族を人質に取られ、悪の組織への協力を余儀なくされたのだがな』

「……地球ってそんな世界観だっけ?」


 ミオは知らないかもしれないけど、地球って意外と愉快な裏の世界多いんだよなぁ……。

 時々、東や浅井が話しているのを……。


「ああ!ジ・エンドウさんか!」


 頭の中にあった違和感がようやく繋がった。俺、この人ゼットを知っている!


『急に何を言っている?』

「思い出したんだよ。アンタのいた悪の組織って『偉人会』ってヤツじゃないか?」

『……何故、それを知っている?』

「親友から話を聞いたんだよ。一応、関係者だから顛末だけ。優秀な科学者が浚われ、悪行に協力させられているって話だったよな。具体的には、過去の遺物から偉人のクローンを作って、世界を変えてやろうみたいな頭の悪い目的だった気がする」

「何その漫画みたいな悪の組織。ホントにそんなのが地球にあったの?」

『あった』


 流石のミオも半信半疑のようだが、俺が答える前にゼットが答えた。


『私は遺伝子工学も専攻していたために目を付けられ、その悪行に関わることになってしまった』

「確か、最後は反抗する治安維持組織の強襲によって制圧されたんだよな?」

『ああ、その通りだ。アジトは絶対に見つからないと断言できるほど、巧妙に隠されていたのにな』

「それ、多分の俺の仕業だ。東に頼まれて、世界地図にダーツを投げたから」


 東に『悪の組織のアジトですよ』と連呼された状態でダーツを投げるというシュールな絵だった。

 そして、ダーツの当たった孤島に全戦力を総動員したとかどうとか……。


『一体、何の話だ?それに東とは……東明君のことか?』

「ああ、やっぱり知ってるか。俺の親友だ。尊敬する優秀な科学者が行方不明だって慌ててたよ。その名前が円道だってのは、少し前まで完全に忘れていたけど……」

『彼ほどの人間に尊敬してもらえたのは誇らしいな。いや、それよりもダーツとは……』

「アジトの場所が分からないから、俺がダーツを投げて当たった場所に行ったそうだ」

「ご主人様、元の世界でもそんなことやっていたのね……」

『……正気か? いや、1度だけ聞いた気がするな。確率論の特異点について論文を出そうか考えていると……。なるほど、君がその確率論の特異点ということか』


 東がそこまで話をしていたとなると、本当に親しい間柄だったのだろう。

 そして、それだけで俺のこともある程度は理解できたと……。

 本当は敵になる可能性も十分にあるし、情報は秘匿しておくべきなんだけど、親友に関する思い出話となると、どうしても口が軽くなっちまうよなぁ……。


「色々と協力させられたよ……。まあ、それは置いておいて、アンタ、最期は自殺したんだってな」

『強襲があった時、私は既に手を汚しすぎていた。守るべき家族も組織に殺されていたことを知った後だったから、生き残る意味が見出せなかったのだよ』


 この男、本当に前世も今世も波乱万丈な人生だ。

 しかし、俺が覚えていたのはそれが理由ではない。


「毒薬を飲んで死ぬ前に『これで終わりジ・エンドか』と言ったらしいな?円道エンドウさんの最期エンドのセリフが『終わりジ・エンド』だったと聞いて、不謹慎ながら笑っちまったよ。だから、覚えていた」

『……改めて言われると少々恥ずかしいな。実際には、来世に続いた辺りが更に恥ずかしい』

「その時、ブラックジョークで『ジ・エンドウさん』って呼び名が出てきたんだが、まさか、再び使う日が来るとは思ってもいなかったよ」

『本当に止めてくれ……』


 ゼットの心底嫌そうな声が聞こえてくる。


「それにしても、不思議な縁だな。まさか、異世界で親友の知人に会うとは思わなかった」

『私も同じ感想だよ。それで、東君は今、どうしている?』

「地球じゃない異世界で死んだらしい。それなりに満足して逝ったみたいだぞ」

『そうか、残念だ。そして、羨ましいな』


 前世は失意の内に死を選び、今世は元の世界に戻るために非道な手段を選び続ける。

 満足して死ぬのは、ゼットにとって悲願に近いだろう。


『さて、思い出話はこれくらいにして、これからのことを話そうではないか』

「交渉の続きだな」

『P-172.256.163.75への侵攻は止める。これは良いだろう。他に要求はあるか?』

「欲しい物は特にないけど……そうだな。強いて言えば、空中要塞の中に入りたい」

「仁様!?」


 マリアが驚いて声を上げる。

 護衛対象おれが敵の本拠地に入りたいと言い出したのだから当然か。


「ここまで立派な空中要塞だぞ。破壊目的じゃなくても、入ってみたいと思うのは自然だろ?」

『まさか、我が空中要塞を観光名所のように言われるとは思わなかったな……』

「観光は趣味なんだよ。……控えるつもりだったけど、待ち時間があるなら仕方がないよな?」


 浅井の元に早く向かうため、観光は控えると決めた直後ではあるが、時間経過の転移条件を選ぶのなら、空いた時間でちょっと観光っぽいことをするのはセーフとしたい。


『申し訳ないが、その要求は却下させて欲しい』

「……まあ、そりゃそうか。今まで敵対していたんだからな」


 自分の本拠地に敵を招き入れるなんて、普通に考えて無茶な要求だよな。


『それもなくはないが、どちらかと言えば、中で行われている研究を見て欲しくない方が大きい。少々……いや、相当に非人道的な研究が行われているため、見たら前言を翻して私を倒すと言い出しかねない。絶対に敵対せず、この世界を去ると誓うなら、見せても構わないが……』


 本人がそこまで言うってことは、本当にシャレにならないくらいなんだろうな。

 正直、興味がないこともないが……さくらとミオの方を見るとブンブンと首を横に振った。

 グロそうだし、そこまでして見るものでもないよな。


「分かった。止めておく。ちょっと要求を考えさせてくれ」

『良いだろう。大した物はないが、この世界の宝物を渡すことも可能だぞ』

「いらんよ。縁起悪いから」


 この世界は色々とケチが付いているので、この世界由来の宝物を欲しいとは思えない。


「……いや、1つだけあった。『界の門』を使わせて貰えないか?」

『何が目的だ?』

「俺達にも行きたい世界がある。光の柱から行っても良いけど、狙って行けるならその方が確実で早いからな。アンタも俺達が早く居なくなるから安心だろ?」


 浅井の居る世界がこの世界から近いなら、『界の門』で行くことができるかもしれない。

 その場合、Dリーパーの脅威に晒されているかもしれないが、さしたる問題ではない。


『それならば構わない。ただ、『界の門』は世界の座標が100並ぶだけで、その世界がどうなっているかは分からない。故に私はDリーパーを尖兵として送り込み、その情報を共有したのだ』

「俺の行きたい世界と合致する世界があるか教えてくれ。まず、その世界には世界樹の若木が……」


 俺は咲に聞いた限りの情報をゼットに伝えた。


『残念だが、私の知る限り該当する世界は存在しない。既に滅ぼした世界の中にもないはずだ』

「……そうか。それじゃあ、この世界から結構遠くにあるのかもしれないな」


 本当に残念ながら、ゼットの知る100以上の世界に浅井は居ないようだ。

 次の世界で浅井に会うとか言っていたが、少々厳しいかもしれないな。


『……今の話で気付いたことがあるので、1つ質問させて欲しい』

「何だ?」

『君達はどうやってP-172.256.163.75に来たのだ?周辺の世界にも侵攻しているはずだが、君達の存在は確認できていないはずだ。私が何か見逃しているのか?』

「えっと、何だっけ……」


 急に言われても通った世界の順番はすぐには出てこない。


「確か、世界が崩壊して光の柱を通らなかった時じゃない?」

「ああ、そうだった!」


 ミオに言われて思い出したが、マザーの世界の前の世界は、織原が準備していた結晶の世界だ。

 織原の思惑を打ち砕くためには、世界を破壊する必要があった。

 そのため、光の柱を通らずに世界を移動している。


「世界が滅んで消えた時は、距離の離れた世界に飛ぶこともあるみたいだな」

『そうだったのか。Dリーパーは世界が滅ぶとこの世界に戻る設定のため、気付けなかったようだな。上手く利用すれば、元の世界に戻るのを早められるか?リソースの回収を諦めれば、100の世界を超えてDリーパーの拡散を……』


 俺の回答が何かのヒントになったようで、ゼットはブツブツと呟き始めた。


「とりあえず、『界の門』を使って浅井の世界を探すのは諦めた方が良さそうだな」

「まだワンチャンあるんじゃない?『界の門』なら、結晶の世界みたいな滅びかけの世界にも行けるんでしょ?世界の崩壊を利用して大ジャンプするってのはどう?」

「随分と大胆な方法ですわね」

「……いや、意外と悪くないんじゃないか?」


 少なくとも、近隣100の世界に浅井がいる可能性は低い。

 それなら、『界の門』で壊しても良い世界に行き、破壊して遠距離移動を狙うのは悪くない。

 勿論、完全に滅んでいて、生物が一切存在しない世界に限定するつもりだ。

 そういう意味では、1つ前の空洞の世界がチャンスと言えばチャンスだった訳だが……。


『……今、結晶の世界と言ったか?』


 急にゼットの声のトーンが低くなった。

 どうやら、ミオが呟いた『結晶の世界』という単語に反応したようだ。


『……いや、流石にその可能性は……しかし、まさか……』


 ゼットの声からは、信じられない、信じたくないという感情が伝わってくる。

 何となく、嫌な予感がしてきた。


「……も、もしかして、ゼットさんの故郷って結晶に包まれた世界だったの?」

『違う。私の世界は都市部以外は緑豊かな美しい世界だ。世界が結晶に包まれるなど……凍結した『昇華アセンション』のでもしない限り起こりようがない!』


 ……それ、答え合わせみたいなものじゃん。


『先に述べた通り、無機生命体になる研究には欠陥があった。新たな肉体として作成した結晶体が、我々の制御を受け付けないという致命的な欠陥だ。当時は小規模な実験だったため事なきを得たが、あの研究を再開し、暴走したとすれば……』


 世界が滅ぶことも有り得ると……。


『その世界は、どうなっていた?』

「結晶に覆われた世界で、生きている人間は誰もいなかった。そこには、近付くと人を襲う結晶の魔物がいた。一応、その世界の結晶は持っているが……」


 俺は<無限収納インベントリ>から妹尾に貰った魂結晶を取り出した。


『その結晶、貸して貰えないだろうか?』

「元よりそのつもりだ」


 俺がそう答えると、俺の近くに魔法陣が現れた。

 魔法陣に魂結晶を置くと、すぐに魔法陣と魂結晶が消えた。


『この波長、ああ、間違いなくこれは私の研究成果だ』


 やっぱり、あの結晶の世界がゼットの故郷だったのか。


『先程は説明を省略したが、『界の門』には強い縁のある物を標として用いることで、対象の世界を探し出す機能があるのだ。この結晶を使用して……』

「そんな機能があるなら、アンタ自身を標にすれば良かったんじゃないか?」

『勇者として召喚された者は、元の世界との縁を絶ち切られるのだよ』

「ホント、勇者召喚ってヤツは……」


 この世界、タチの悪さが底知れない。


『目標発見できず……。そうか、私の世界は、私の残した研究によって滅んでしまったのか……』


 ゼットはそう言うと、しばらく……具体的には3分程無言だった。


『……私の世界はどう終わった?』

「訳あって、転移条件を満たせない状況になったから、転移するために俺の手で世界を破壊した」


 ゼットの質問に正直に答える。

 そう、俺はゼットの故郷である世界を破壊した。

 既に人は滅んでいたとはいえ、世界にトドメを刺したのは間違いなく俺だ。


『人は……残っていなかったのだな?』

「ああ、1人も残っていなかった。それは断言できる」

『そうか……』


 ゼットの呟きと共に俺の前に魔法陣が現れ、中からある物が飛び出してきた。

 反応して切り捨てようとするマリアを手で制する。


『君に決闘を申し込む。全力で、私と戦って欲しい』

「良いだろう。受けて立つ」


 俺は投げられた白い手袋を掴み、そう答えた。

執筆できない期間があったことに加え、

ゼットさんに設定を盛りすぎたのも公開が遅れた原因の1つです。

まあ、次話で退場する予定なんですけど。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
昔巨人の島くらいまでは読んだ記憶が薄っすらあったのをタイトルを見て思い出して最初から一気見したのですがとても良かったです 途中でやめてしまう方も多々いますので完結まで行くと凄く嬉しいです応援してます …
連載再開2度目の1日の12時なのに、早速更新されてない……。
星新一ショートを思い出す世界線だなー
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