【2話目】男の子3人の中でわたしひとり、ヤバくないですか?
「あ、ごめん」
顔を上げると、一樹が立っていた。
「ああ、亜梨花ちゃんだ」
「一樹くんだっけ。トイレ?」
「うん。あ、でもその前に良かったらLINE交換しねー?」
いきなりLINE交換を要求された。
「ダメ?」
顔の前に両手を合わせて、お願い。のポーズで一樹は粘る。
「別に……いいけど」
嫌だったらブロックすればいいんだし。
「サンキュ。今度誘うからデートしような」
一樹は言うと、トイレへ入って行った。
真面目そうなひとだと思っていたけれど、そうでもないかな?
第一印象なんて、当てにならないものだ。
でも、那絵の好きな人なんでしょ?
大丈夫かな、那絵。
一樹くんってちょっと軽そうだよ?
亜梨花が席に戻り、一樹も戻ってきたところで二次会へ行こうということになった。
提案したのは暁登。それに乗って紗夜も賛成している。
「あの……私、門限があるの」
言いにくそうに言ったのは那絵だ。
那絵の家は門限がある。しかも夜の9時。
高校のときは7時の門限だったから、多少は時間が伸びたものの、大学生になった今も門限は健在だ。
これからと言うときに帰らなきゃいけないなんて、可哀相だよねっていつも紗夜が言っていた。
「じゃあ、一樹くん、送って行きなさいよ」
店の外に出ると、紗夜が樹の背中を那絵に向かって押した。
「俺が?」
「そう、那絵は一樹くんを気に入ったんだって」
「やだ、紗夜ったら」
顔を赤くしながらも那絵は嬉しそうだ。
一樹は、少々困惑しているように見える。
「だけどさー、那絵を送って行ったところを見ると、一樹くんも満更ではないみたいだよねー」
2人を見送ったあと、紗夜が楽しそうに言ったが、誰も同意しなかった。
那絵の門限に遅れたらどうするのよっ!
と、紗夜が半ば強制的に一樹を脅したようにも見えたのだから。
昔から紗夜はそんな風だ。
とても強引に物事を押し付ける。
自分がこうだと思ったら、それを押し通すような感じだ。
那絵なんか、いつも紗夜の言いなりに踊らされている気がする。
「じゃーどこ行こうかー」
二次会のいい場所ないかな? と暁登が亜梨花に聞いてきた。
「そうね……」
そのとき透弥のスマホが鳴った。
「誰から?」
暁登が透弥のスマホをのぞきこむ。
透弥はそれを隠すと、ポツリとひとこと言った。
「……功至」
「功至?」
「来るって」
「あーー? 来る? ほっとけ、そんなもん。あいつおれが誘っても来なかったくせに。今頃何言ってんだ」
暁登があからさまに不機嫌な顔をした。
「ほっといたら怒るよな……」
ひとりごとのように言いながら、透弥は駅の方向へ歩き出した。
ほっとけ、と言った暁登はほっとけなかったらしく、透弥を追いかけていった。
しょうがないのでみんなで後を着いていくと、駅前に立っていた男がこっちに向かって歩いてきた。
どうやらあれが功至ってひとらしい。背が高くてわりといい男。
「なんだ、4人だったのか?」
功至の問いかけに紗夜が明るく答える。
「一樹くんは那絵を送って帰っちゃったのー」
功至はたいして興味を示さず、亜梨花に目をとめると近づいてきた。
「おまえ、誰?」
上から見下ろすようにして聞かれる。
亜梨花を見下ろす功至は、大きくてすごい迫力。
ちょっとびっくりしてしまって、答えに窮していると、代わりに紗夜が答えてくれた。
「私の友達。高浜理亜梨花ちゃんだよ」
そして功至を亜梨花に紹介した。
「彼は功至くん。同じ大学の……」
「余計なことは言うな!」
紗夜の言葉を遮るようにして、功至が大声を出した。
「やだー、こわいー」
肩をすくめて紗夜は亜梨花の陰に隠れる。
「あの、初めまして」
一応、功至に向かって挨拶をしたが、すぐに「ふん」とそらされた。
「あのね、亜梨花」
紗夜が亜梨花の耳元でささやく。
「功至くんって医学部なの。背も高いしカッコイイでしょ。けど、女嫌いなんだって。もったいないよねー」
紗夜がお節介に、余計なことを教えてくれた。
女嫌いって、どの程度の女嫌いなんだろう。
しゃべるのも嫌なんだろうか。
「じゃあー5人で二次会行くか」
暁登が言った。
けれど功至は暁登の言葉を無視して、透弥に向かって言っている。
「透弥。俺の部屋で飲み直さねーか?」
「うん……」
「そっか。じゃあ行こうぜ」
功至はうなずいた透弥を連れて行こうとしている。
「おいおい、2人で飲むのかよ。俺も混ぜろ」
暁登が追いかけた。その後を紗夜が追う。
「待ってよ。私も行く」
「女は来るな!」
功至が紗夜を追い払う。
「何よー。じゃあ暁登も行っちゃダメ!」
「えー、しょうがねーなー」
何だかもめている。
場に入りきれずに眺めていると、ふいに亜梨花のスマホが鳴った。
さっき教えたばかりの一樹からだった。
みんなに背を向けて電話に出る。
『いま、那絵ちゃんを送り届けて帰るとこ。俺、今からそっちに合流したいんだけどさ、いまどこ?』
「駅前。今から二次会に行くみたいなんだけど……」
『わかった駅前だな。すぐ近くにいるから、待ってて』
二次会に行く予定なんだけど、もめていることを伝える前に電話は切れた。
「ま、いいか。来ればわかることなんだし」
振り向くとすぐに功至と透弥の視線にぶつかる。
「あ、あれ? 紗夜と暁登くんは?」
ふたりの姿が見えない。辺りを見回してみても、影も形も見当たらない。
「おまえが電話なんかしてるスキに、2人で行っちゃったよ」
まるで亜梨花のせいみたいに功至が言った。
「しょーがねーから、おまえも来る?」
女嫌いだって言ってたはずの功至が、何故だか亜梨花を誘ってきた。




