刺殺の夜5
7
後日談である。
無論、死体を放置する事は出来ないから、さながら人殺しの後処理でもするように男の死体を燃やす。間違えている表現ではないが、間違えている表現である。
供養という言葉にしているのは、ここら辺の後処理をやっている事に起因する。どんな人間で合っても弔ってあげるというのはイエラさんの思いの所であるから、私も否定する事はない。
イエラさんは言った。私たちがする事は人の死の道筋を知ってあげる事だけなんだ、彼らの胸中の所は私たちが知るべきではなく、それを知ろうとするのは彼らをあまりに愚弄している、と。
間違った理由で骨になるのはいけない。それだけは、とイエラは付け加える。
「ぷはー、つっかれましたー」私は風呂でしっかりと体を洗い流した後、東洲斎イエラ宅の冷蔵庫から勝手にフルーツ牛乳を取り出して飲む。
「お疲れ様」イエラは笑いかける。その顔は改めて美しい。宝塚系の顔だ、堀が深くて男装が似合いそうな感じ。ぼーっと彼女の顔をまじまじと見つめる。
「何かついてるかな?」
「いえ、別に」
時間は23時を指す。睡魔が瞼を押し下げようとする。
「眠そうだね」
「なんだかんだ、昨日は働きずくめでしたから」
「ありがとう」
「辞めてください」とは言わなかった。フルーツ牛乳の甘さだけに集中する。ずっとずっと甘い味が口腔内を占領して、頭を悪くさせていく。もっともっと悪くなればいい、そして何も考えられなくなればいい。
ズズズっと音が上がる。紙パックにストローと水分が暴れて音を出す。無くなってしまった、甘い味が。
「ではもう帰りますね」
「あぁ」
そそくさと私は帰る準備をまとめて、玄関まで向かう。そして、振り返る。そこには東洲斎イエラがいる。
「では、おやすみなさい。イエラさん」
「おやすみ、カエラ」ゆったりと東洲斎イエラは手を振った。私はその顔とそこに浮かぶ数字を確認してから、外へと出た。
私は超能力者である。この様な街に住んでいるのだから普通ではないのである。こんな風なことを言った。
東洲斎イエラは私よりもずっと長い間、ここに暮らしている。普通の人は寄りつかない、この周辺は住宅街であるのにさえ定住しているのは私たち2人だけである。
彼女は名探偵である。これは彼女を示すのに極めて的をいた答えだ。探偵は謎解きが出来るから探偵なのではない。探偵は事件に巡り会うから探偵なのだ。
24時、東洲斎イエラは1人になる。彼女は呪われている。その報いの供養なのだ。
私は彼女にのみ浮かぶ数字を見る。今日の数は9111だった。これは彼女が殺人事件を解決した数。そして、その全ては彼女が建物で夜を明かした時に起きている。
彼女は名探偵である。事件に巡り会うのである。死体と巡り会うのである。故に彼女は呪われているのである。
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