第48話 大陸到着、そして進撃開始
オデュッセイア号で明け方頃に無人島を出発した俺たちは、昼前に、大陸に着いた。
「見えたぞ」
俺の声に、艦橋にいる全員が前方を見つめる。
河口に設けられた簡易の桟橋には、留守を守っていたアルテミス三体が直立している。果樹園の苗木も異常はなさそうだ。居住棟の屋根が朝日を反射していた。
「ただいま、もうひとつのわたしたちの拠点、分星村」
陽奈がそっとつぶやく。
オデュッセイア号は静かに桟橋へと滑り込み、係留ロープが投げられた。
「まずは荷を降ろそう」
俺は艦橋を出ると、貨物区画のハッチを開けた。その奥で、タロスが静かに待機している。改良された装甲は鈍く輝き、背部のジャンプユニットには充電完了を示す青いインジケーターが灯っていた。
「ついに、出番ね」
葉月が隣に立ち、感慨深げに息を吐く。
「ああ。できれば、交渉したいところだが・・・・・・そうならない可能性は高い」
「リヒトさん。アルゴスが、現在エインダたちの支配領域を探索しています。リアルタイム映像をメインディスプレイに転送します」
ヨルの声が響き、コンソールの大画面に映像が映し出された。
上空から見下ろした食糧庫モジュール。丘の中腹にめり込んだ巨体の周囲には、バリケードと見張り台が築かれている。映像が拡大され、より細かな様子が映し出された。
「これが、今の食糧庫の状況です」
画面の中で、数人の男女が木箱を運んでいる。その横で、ある男が別の一人を地面に引きずり倒し、蹴り上げた。倒れた男は動かない。周囲の者は、見て見ぬふりをしている。
「ひどい・・・・・・!」
楓が声を詰まらせる。
「倒れている男性は、食料の分配に不満を口にしたため、見せしめにされているようです。ここ数日、定期的に観測してきましたが、一日に数回は、こういう見せしめのための暴力が行われているようです」
映像が移動する。今度は倉庫の前だ。長い銀髪の女が、数人の男たちを従えて立っている。背は高く、姿勢はまっすぐで、口元には歪んだ笑みが浮かんでいる。
「この女がエインダです。現在、彼女は、別のグループを探して、襲撃する準備を進めています」
「別のグループ? ひょっとして、それは私たちのこと?」
「恐らく。分星村を、遠くから見つけたのかもしれません」
なんと・・・・・・そうなると、俺たちは結構ギリギリなタイミングで来たというわけか。
俺は貨物区画に戻り、タロスの胸部ハッチを開いた。コクピットは一人乗り。マスタースレイブ方式の操縦桿が、両手の位置に配置されている。
「俺がタロスで行こう。アルテミス五機を連れて行く」
「アルゴスで、情報支援を続けます」
ヨルが言う。
「リヒトくん、もしかして一人で行くつもり?」
「ああ」
「それは危ないよ!・・・・・・そりゃあ、わたしたちが行っても、足手まといにしかならないかもだけどさ」
陽奈が、俺のもとに駆け寄ってくる。その様子を見ていると、俺のことを本気で心配しているのが伝わってきた。
「・・・・・・わかった。それじゃ、武器が使える葉月を連れていこう。いいか?」
「ええ、いいわよ」
葉月はすぐさま、クロスボウの準備を始める。
「陽奈は分星村の指揮をお願いする。美玖たちを頼む」
「了解」
陽奈がしっかりとうなずく。
「アルテミス五機、全機を戦闘モードに移行します」
ヨルの声とともに、オデュッセイア号の貨物ハッチからアルテミスが次々と飛び出してくる。五機のアルテミスが整列し、光学センサーを一斉に赤く光らせた。
「全機、スタンロッドを装填。ネットガンも使用可能。殺傷は最小限に抑えます」
「よし・・・・・・行くか」
俺はタロスのコクピットに身を沈め、操縦桿を握った。ハッチが閉じ、全方位モニターが起動する。タロスの巨体が、ゆっくりと立ち上がった。
足音が響く。一歩、また一歩。格納区画を抜け、貨物ハッチから陽光の下へ。全高三メートルの巨人は、大地を踏みしめ、ゆっくりと動き出す。
「すごい・・・・・・」
その光景を見て、萌奈が声を漏らす。
「タロス、本当に動いてる・・・・・・!」
美玖も目を輝かせた。
「これより、食糧庫モジュールへ進軍します」
ヨルの声が、タロスのコクピットに響く。
「タロス、発進」
タロスが歩き出す。アルテミス五機がそれを取り囲むように続き、葉月がクロスボウを肩に担いでその後ろを歩く。
いよいよ、エインダたちとの対峙だ。気を引き締めていこう。




