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キリがトカゲに連絡を取り、ライカのことは翌日の放課後にカグラの家に連れて行くことになった。
その夜。ウタハは夕飯のあとに話があると言ってカグラをテーブルに残らせた。
「何?話って」
カグラは向かいに座るウタハに優しい笑みを浮かべている。少しの間があってウタハが話を切り出した。
「カグラ。お前さ。トカゲが自由になったら一緒に暮らしたいか?」
思いもしなかった内容にカグラは驚いてる。だが気を取り直すと、落ち着いた声で返事をした。
「うん。僕の気持ちは一緒に暮らしたいよ」
幸せそうに微笑む姿を見て、ウタハは少しだけズキリと心がいたんだ。でも同時に幸福も感じたのだ。大切な人の幸せな姿を見て。
「なら、一緒に住めよ。今回の件がうまくいったらトカゲ達は自由になるんだろ?ここに呼べばいいじゃねぇか」
「……いいの?」
カグラが驚きで目を丸くしている。ウタハは安心させるように大きな声で答えた。
「もちろんだ。ちょうど俺の志望校は遠いし、高校の近くに家を探すよ」
「?ここにトカゲを呼ぶんじゃないの?引っ越すの?」
「?ああ」
「ウタハとトカゲと3人で暮らす家を探すの?」
自分が家を出て2人を一緒に暮らさせようとしていたウタハは、カグラの言葉に思考が止まる。
「は⁉︎いや、俺は一人暮らしするって。そのほうがいいだろ?」
「何言ってるの!ウタハと一緒に暮らせないならトカゲとは住まないよ!ウタハのほうが大事!」
いつものようにブーと頬を膨らませるカグラにウタハは呆れてしまう。
「あのなぁ。仮にも恋人なんだから俺を優先するなよ」
「だってウタハのほうが大事だもん」
「……俺も一緒に住んでいいのか?」
「当たり前だよ!3人で暮らせるのが一番幸せ!」
キラキラと輝く瞳が向けられる。今までの緊張がとけてウタハはどっと疲れがでてきた。
その時思い出したのはキリのことだった。
「……4人かもしんねぇけどな」
「そうか。キリ君のことがあるもんね」
「わかんねぇけどな。まあ、そうなっても楽しいんじゃねぇか」
「そうだね。それに僕はウタハが幸せなら何人でもいいよ」
テーブル越しにヨシヨシと頭を撫でられる。「トカゲと暮らしだしたらこれはやめろよ」と言いながら、ウタハは幸せそうにしていた。
一方キリはトカゲの思いを聞くためにミーティングルームへ向かっていた。すると、仕事に埋もれたトカゲがダダと話している声が聞こえる。
「少し仕事を詰め込みすぎじゃないか」
「う〜ん。でももう少しで自由が手に入ると思うと止まってられなくてね」
最近のトカゲはとにかく忙しそうに仕事をこなしている。それがカグラと暮らすためだと思うとキリは心が苦しくなった。
しかし、その苦しさはすぐ消えることになる。
「私のせいでみんなの人生を奪ってしまったんだから。せめて少しでも多くの自由を与えてあげたいんだよ」
「お前の責任じゃないだろう。みんな自分で望んで協力したんだ。今の状況にも納得してる」
「そう思ってもらえたら救われるけどね。でも若い子達はね。キリなんてまだ15歳なのに。もっと子供の時にしか感じられないことをたくさん経験させてあげたいよ」
「そういえば、公安を出ることになったらキリと暮らすのか?カグラのことはいいのか?」
「うん。キリがいいと言ってくれたらね。カグラとは話をしたから大丈夫。向こうもウタハ君がいるしね」
てっきりカグラが全てで自分達のことなどどうでもいいと思っていたのに。トカゲの本音にキリは思わずミーティングルームに駆け込んでいた。
「トカゲ!」
「キリ?……あー。今の聞いてたかい?」
ダダしかいないと思って溢した本音にトカゲは少し恥ずかしそうにする。でもキリは安心した様子で涙を流しだした。
「俺……いてもいいのか?邪魔じゃねぇ?」
手で涙を拭いながら聞いてくる姿にトカゲは驚いたあと、キリのところまで歩いて優しく抱きしめた。
「邪魔だなんて思ったことないよ。君は私の大切な仲間だ。みんなには内緒だけどね、一番年少の君が私は可愛くて仕方ないんだよ」
「いや。結構バレてるぞ。お前がキリに甘いことは」
ダダが呆れたように言うのでキリは少し笑ってしまった。
「なあ。俺と一緒に暮らしてくれるのは嬉しいけどさ。カグラも一緒住むのはダメなのか?」
気持ちが落ち着いたところで、キリは気になったことをトカゲに聞いた。
「え?それは…そうなれば嬉しいけど。いいのかい?」
「ああ。そしたらウタハも一緒だろうし。楽しそうだから俺はいいぜ」
最初は護衛の任務を嫌がっていたのに。ここまでキリの心を変えたウタハにトカゲはいたく感心していた。
「今度カグラの家に行ってみんなで話そうか。多分あの2人なら喜んで賛成してくれるだろう」
「そうだな。なら、早く事件を解決しねぇとな。明日はライカと話をしないといけねぇし、俺はとっとと寝るぜ。おやすみ」
「うん。おやすみ」
ダダにもおやすみを言われて幸せそうに部屋に戻っていくキリ。それを見送って嬉しそうな顔をしているトカゲは、「やっぱりキリに甘いじゃないか」とダダに笑われた。
翌日。ライカを連れてキリとウタハがカグラの家に帰ってきた。
「おかえり」
3人をトカゲが出迎える。
一緒に住むかの話し合いもまだなのに、その姿を見てウタハは何となく嬉しくなってしまった。
「ただいま。って、俺の家じゃねぇけど」
キリも嬉しそうに笑っている。昨日のトカゲとのことを幸せそうに報告されていたので、ウタハもつられて笑顔になった。
「ライカ。紹介するよ。俺の保護者のマシロだ」
「いらっしゃい。よろしくね」
トカゲだと偽名丸わかりなのでキリの保護者としてはマシロを名乗っている。
保護者にしては若いトカゲにライカは驚きの声をあげた。
「お若いですね。キリのおじさんなんですか?」
「ん?ん〜。まあ、そんなものだ。さあ、とりあえずは中へ入ろう」
さらりとごまかしてみんなを中へと案内する。リビングではカグラが待っていた。
「いらっしゃい。いつもウタハがお世話になってます」
フワリと笑ってお辞儀をするカグラにライカが不思議な顔をする。
「ライカ。俺の保護者のカグラだ」
「えっ⁉︎若すぎない⁉︎お兄さんか何か⁉︎」
見た目だけは若いカグラにライカが混乱している。それを見てカグラが首を傾げた。
「僕はウタハのおじさんだよ。それに35歳だし」
「35⁉︎えっ⁉︎なんか若さの研究でもしてるんですか⁉︎」
さらにパニックになるライカをウタハが宥める。すると、ライカは心を温かい何かで包まれたような不思議な感覚を感じた。
「今、少しだけ君の気持ちを落ち着かせたよ。僕も人とは違った力があるからね」
ヨシヨシと頭を撫でられてライカが唖然としている。ウタハが慌ててフォローした。
「そう!会わせたいって言ってたのはカグラのことなんだ。いきなりで驚いたと思うけど、怖がらせる気とかねぇから!」
「うん。ウタハの友達は大切なお客様。怪しかったら僕の感情を読んでもいいよ?」
ニコニコ笑っているカグラに戸惑いつつもライカがその感情を読み取る。
「……不思議な人ですね。奥底に深い後悔があるのに子供みたいに真っ白。……悪い人ではなさそうだけど」
「君、よくわかっているね。それがカグラの魅力だ」
人目も憚らずカグラに抱きつくトカゲの頭をキリが叩く。カグラは気にせずライカをじっと見つめた。
「やっぱり糸の能力者だね。記憶ではなく感情を読むとは珍しい。でも常に微量の粒子が出てるから負担なんじゃない?体弱かったりしない?」
「え?あ、はい。昔から体調を崩しやすいし、激しい運動もあまりできませんね」
「やっぱり。能力のコントロールを覚えたら改善すると思うよ。時々うちに来て訓練してみる?」
「へ?え〜っと……」
訓練と言われても自分と同じような人に会ったことすら初めてのライカには、展開が早すぎてついていけない。
「カグラ。ライカ君が戸惑っているよ。まずは君のことや今の状況を説明しないと」
「あ。そうだね。君の能力はね、糸が変化して起こったもので、僕はそういった力の専門家なんだ。一応医師免許も持ってるし安心してくれていいよ」
「私は記憶を書き換える能力者だよ。それと…」
トカゲがウタハとキリを見る。不安そうにしているキリに気づいて、ウタハから力の告白を始めた。
「俺は……糸から毒がだせるんだ。今は麻痺する程度のものだけど」
「えっ⁉︎」
驚くライカにウタハの手が震える。だが、その手を思いっきり掴まれて顔を覗き込まれた。
「それって、ウタハは危険じゃないの?自分の毒で苦しんだりしない?」
「え?ああ。俺には毒は効かないから」
「そっかぁ。良かったぁ」
ホッとして手を離すライカにウタハは目を丸くしたままだ。その光景に今度はキリが能力について説明しだした。
「俺は糸から溶解液が出せるんだ。何でも溶かせるぜ。俺のは自分も溶かしちまうけど、そんなヘマはしねぇよ」
「え〜。でも危ないじゃないか。気をつけなよ」
キリの軽い感じにつられてライカもそこまで重くは受け止めていないが、それでも友人のことを心配していた。
「ライカ君、いい子だね。ウタハにいい友達ができて良かった」
フワリと笑うカグラに、「うん」と少し照れながら答えるウタハはとても嬉しそうだった。




