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ミツキとつきあいたい!  作者: 石戸谷紅陽
第1章 始まりのイースターエッグ。
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1人にして。

お昼休み、ミツキはいつも教室で吉川さんと安原さんの3人でお弁当を食べている。

私はこの2人が苦手だ。

何かされたわけではないけれど中学の倉本さんを彷彿とさせる雰囲気があるからだ。

「でさーそれがちょーつまんなくてー」

「それはよっしーが悪い」

「ひどー!きゃははは!」

私は吉川さんの笑い声を聞くたびに頭が真っ白になる。

笑い声が一番怖い。

教室で一番大きな声で笑っている吉川さんを私は直視することができない。

息がしづらい。

ご飯が飲み込めない。

「ちょっとミツキ?大丈夫?顔色悪いよ?」

安原さんが声をかけてくれたおかげで糸口が見えた。

保健室に逃げよう。

保健室で少し寝ればすぐにミツキがでて来てくれる。

「ちょっと具合わるいかも。保健室行ってくるね。」

「大丈夫?ついていこっか?」

「大丈夫。1人で大丈夫。」

安原さんの心配は嬉しいけれど1人にしてほしい。

私はもともと1人が好きなんだ。


保健室には誰もいなかった。

先生の不在を表す立て札が机の上に置いてあった。

ちょうどよかった。

寝て切り替わるだけでいいから心配されるだけ面倒だった。

私はベッドに潜り込んだ。

保健室には私1人なのにまだ視線を感じる。

私はベッドのカーテンを閉めた。

私は視線が怖くて、誰も私が見えなければいいのにと思う。

きっと誰も私なんて見てないんだろうけれど、ミツキしか見てないんだろうけれど。

呼吸が落ち着いてきた。

静かな保険室が私を守ってくれている気がする。

視線が怖い。

声が怖い。

視界が怖い。

吉川さんが怖い。

安原さんが怖い。

泉野さんが怖い。

女子が怖い。

男子が怖い。

怖い怖い恐いこわい。

「っんぐ……こわっ……いよぉ……こわいっ……よぉ……」

涙が止まらなかった。

恐怖だけじゃない。

自分でもわからない矛盾に絶望して。

これからの私の未来を悲観して。

保健室で泣いている私はいらないのだ。

みんなが好いてくれるのは教室で笑っているミツキなんだ。

早くミツキに代わってしまおう。

私は目をつむった。


その時、誰かが保健室に入ってきた。

先生が戻って来たのかもしれない。

扉を閉めたその足音はだんだん私に近づいてきてカーテンの前で足を止めた。

「…高岡さん?」

この声は今井君だ。

お願い1人にして。

早く寝ないとあなたが会いたいミツキが出てこられないの。

無視して人違いのふりをしよう。

「ごめんね。俺のせいだよね。俺が昨日フラれたのに2度も呼び出したりしたから」

確かにこの状況は今井君のせいではあるけれどね。

「今日の放課後話したかったのはお礼がいいたかったんだ。昨日のお礼。」

この男はカーテンの中が私だとなんで決めつけているの?

「俺、空気読めなくてさ。いつも脈絡のないこと話しちゃうし俺が話すと空気が変になるんだ。」

自覚あるのね。

今もそうよ。

「俺はそんな空気も自分も嫌いでどんどん人と話せなくなっちゃって、中学生になったころには完全にクラスで孤立してたんだ。」

私は掛け布団を少し強く握った。

「でも気づくのが少し遅かったんだ。みんなに嫌われる前に孤立しちゃえばよかったのに。俺のイジメが始まっちゃって。それから周りの視線が怖くなったんだ。」

私と一緒だ。

「自分も自分が嫌いだから当然だと思ってたし納得もした。みんなに好かれようとしても自分にはできないのがわかったからね。皆の視界に入らないように、皆を怒らせないように生活してたんだ。高校生になってそのままの生活をしていたらイジメられることもなくてさ。」

私も知ってる。

「余計悲しかった。この生活が正解だって知って。居場所がないのが正解だってわかって。だから」

私も同じだ。

「だから高岡さんに挨拶されたのが嬉しかった。」

それは私じゃない。

「昨日高岡さんに美容院に連れていってもらって嬉しかった。好きな人におしゃれしていいんだよっていってもらえたみたいで。」

それも私じゃない。

ミツキが私の正解なんだ。

泣いちゃだめだ。

他人のふりしなきゃいけないのに。

「昨日はありがとう。今日のメモは気にしないで。今全部伝えられたから。体に気をつけて。」

立ち去る影に私は手を伸ばし、今井君をカーテンの中に引っ張りこんだ。

「…待ってよ。1人で全部決めないでよ。空気読めないくせに。」

返事をするのは私じゃないの。

あなたが好きなのはミツキだから、これじゃあ私がフったみたいになるし。

でも伝えたいことがあるの。

今井くんに。

「今井君の気持ち…わかるの。クラスが…みんなが怖いの。1人が怖いの。」

一言、一言。

これ以上言ったらいけないのに。

これ以上はミツキに迷惑がかかるのに。

言葉が止められない。

今井くんの制服の裾を強く握った。

「今井くんは教えて?」

もうダメ。

これ以上はダメなのに。

「どうしたら…この震えは止まるの?」

涙が堪えきれなかった。

裾じゃ足りない。

この不安は消えない。

今井くんは驚いた様子で私の顔見下ろした。

長い沈黙のあと今井くんはベッドに腰掛け、静かに答えた。。

「辛いって伝えればいいんだと思う。自分が思っている以上に、人って自分を出して良いんだと思う。俺は昨日、それを高岡さんに教わった。」

今井くんの目は私を見つめていた。

今井くんはポケットからイースターエッグを取り出した。

「高岡さんにこれあげる。高岡さんのエッグと一緒に飾ってほしい。」

私は少し笑ってしまった。

昨日はミツキに、今日は私に告白するなんてとんだナンパ野郎だオタクの癖に。

「本当これを渡したくて呼びだしたんだ。」

今井くんのイースターエッグは薄い緑と黄色の細かい点描でふんわりと色づけされていた。

話したこともない、未知の今井くんが少し表現されている気がする。

エッグの後ろにQRコードが掛かれていた。

「これは?」

今井くんはびくっと肩をすくめ恥ずかしそうに答えた。

「……おっ俺のラインのID」

「手書きで?!」

「…うん。ちゃんと読み取れるよ?松本でテスト済み」

どこまでもかっこつかない男。

私は起き上がりベッドに腰かけた。

私のうちにやらなきゃ。

ミツキじゃなく私が……

「ありがと。今井くん。」





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