ドライブ。
僕の名前は吉川京平。
吉川美帆の兄だ。
今日は妹の旅行の運転手に抜擢されたのでここにいる。
もう10年も前に高校を卒業した僕からしたら、高校生ってこんなに子どもだったのかなと感じられる。
今もコンビニに妹の友達を迎えにきたのだが、女子高生4人のキャットファイトを目の当たりにしてしまった。
当人たちは必死なのだろうが、大人がみるとこそばゆい気持ちに襲われる。
幼いころから世話を焼いている妹と同い年というのも子どもに見える所以だろうか。
僕が11歳の時、両親が離婚した。
妹はまだ1歳の赤ん坊だった。
なぜ離婚したのか、父さんがどこにいるのか未だに僕は知らない。
そのころから僕は新聞配達の仕事を始めた。
母さんには仕事に専念してもらうため家のことは全て僕が引き受けた。
友達と遊びたいとか、ゲームしたいとかそういうことを考えたことはほとんどない。
頑張れば頑張るだけ母さんが褒めてくれる。
僕はそれだけで充分だった。
しかし僕が高校に上がってすぐ、夏休みの前。
母さんは不慮の事故で亡くなってしまった。
もう一番褒めてくれる人がいない。
僕は何のために頑張ればいいのか分からなくなった。
結局僕は母さんや妹のためではなく自分の為にしか頑張れない人間だったのだ。
母さんの両親はすでに他界し、兄弟のいなかった。
僕はそれをいいことに母さんの葬式すらあげなかった。
これから、僕の人生には金がかかる。
母さんの保険金を僕の高校の学費にあてた。
母さんには小さなお墓と仏壇だけを与えて。
僕は高校生活をバイトに費やし、高卒で地元の大手企業の工場に入社した。
妹の成りを見るに僕は良い兄ではなかったと思う。
ろくに遊び相手になってやれず、寂しい思いをさせたに違いない。
30を目前にして最近自分の育児を振り返り反省ばかりしている。
せめて美帆を大学に行かせてやりたいとは思っている。
まあそんな感じで妹を育て上げた僕からしたら、その同級生がみんな子どもに見えるのは無理のない話かもしれない。
そんなこんなで僕の回想に付き合ってもらっていたら僕のミニバンは7人の子ども達でギュウギュウになっていた。
みんな女子高生に囲まれると思っていたら野郎が3人をいやがった。
陰キャ君と爽やか君と幼児。
女子はみんなギャルっぽいのに釣り合わない組み合わせだ。
昔と違ってそういった隔たりはないんだろうか。
せっかくの女子高生とのドライブに少なからず心弾ませていたのだが僕のとなりは陰キャ君だ。
おおかた爽やか君の友達枠で連れてこられたのだろう。
かわいそうに。
僕の横である助手席に本来くるべきだった我が妹は最後列の爽やか君の隣を陣取っている。
妹の女の顔はあんまり見たくない。
この旅行の狙いはおそらく爽やか君でこの旅行中に落としたいのであろう。
表情に出さずに爽やか君をからかいながら楽しそうに談笑しているところ悪いが耳が真っ赤である。
しかし、残念だな妹よ。
その子はどうやら同じく爽やか君の隣を陣取っているポニーテールのもののようだ。
退屈そうにスマホをいじっているが正妻の余裕とでもいうべきか。
「そんなに退屈な来なければよかったのに。感じ悪っ」
「別に。ただ頭わるそうな会話だなーて思ってただけ。話が通じる同志で楽しんでて?」
ふたりとも似た者同士なのだから仲良くすればいいのに。
不機嫌そうな子どもがもう一人いる。
今回の旅の最年少である安原大樹少年。
中列、僕の真後ろに設置したジュニアシートにちんまりと座っている。
幼児にみえていたが小学1年生らしい。
まあ1か月前まで園児やってたんだから当たり前か。
大好きなお姉ちゃんとのゴールデンウィークを独占できなかったの不服ってところかな。
その隣にチマっとすわっているお団子女子が姉かな?
「大樹?チョコ食べる?」
「いらない」
「そっ」
お団子女子がチョコをポリポリ食べ始めた。
ふたりとも声にも表情にも感情がない。
そっくりな兄弟だ。
お団子女子はこの中で一番大人だな。
きっと大人にならざるを得なかったんだろう。
この旅行に弟を連れてきたことで彼女の事情も少しわかってしまう。
僕も同じだったから。
お団子女子の横はショートカットのギャルだ。
さっきから車内全ての人間と仲良く話している。
いつの時代もコミュニケーションお化けというのはいるものだ。
この車内だと群を抜いたかわいさではある。
さっきコンビニでのいざこざを見たがきっとこの子にもいろいろあってこのコミュ力を手に入れたんだろう。
この子と付き合える子は鼻が高いだろうな。
このドライブで僕が察した情報はこんなもんだ。
我が妹が爽やか君を落とすためにグループみんなを巻き込んで今回の旅行を企画。
許さんとするポニテ。
巻き込まれたお団子姉弟。
付き合ってあげるギャル。
そして、棚ぼたラッキーで今回の旅行についてこられたこの旅行がおそらく一生の思い出になるであろう
陰キャの…
「良太ー?」
いたづらっぽく後ろから声がした。
「温泉にプールあるらしいよ?一緒に泳ごうよ!」
オマエカ




