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57話 言葉の意味…【杏視点】

音ちゃんから絶対に聞けないだろう単語が出てきたので、気づくまでに少し時間がかかった。

隣に座っている湊も驚いてたけど、たぶん彼はその言葉の持つ本当の意味を理解していないだろうし、これから先も理解する事はないだろう。

そう考えると、彼に対して怒りが込み上げてきた。よし、今度本気で頭を叩こう。いきなりだと怪しまれるから自然な形でうまくもっていこう。


「湊…ご飯食べるまでは一緒に居てあげるけどね、食べ終わったら今日はもう解散ね」


唐突に私は湊に告げた。付き合い始めた記念すべき日に食事だけしてすぐ解散は流石に可哀想かなとも思ったけど、私だって本当は一緒にいたいんだからお互い様だ。それより今優先すべきは音ちゃんだ。


「ああ、わかった…」


彼は渋々頷いてくれたけど、きっと本当は納得してないのだろう。それでも私の意見を優先してくれる彼。


「何?そんなに私と一緒に居たかったの?」


嬉しさのあまり、ついからかってしまう。

ほんと我ながら面倒な性格をしていると苦笑が漏れそうになるのを必死にこらえた。


「そうだよ。せっかく付き合い始めたのにこんないきなり解散とか言われても納得するわけないだろ…」


否定すると思っていたのに、まさかの肯定が返ってきたので私の方が照れてしまう。

むむ、なんか負けた感じで悔しいけど…やっぱり嬉しさが勝ってしまう。

彼は私をどれだけ喜ばせたら気がすむのだろう。


「杏…いきなりどうしたの?私達は食事が終わればすぐに帰るから…そうしたら2人でゆっくり過ごしたらいいわ」


音ちゃん…どうしてこんな流れになってるのか分からないのかな。きっと分かってないんだろうな。


「音ちゃん?あなたはすこ〜し私とお話をしようね。そうだ…今日は私の家に泊まったらいいよ。あ、これお願いじゃないから…」


「なんで、いきなりそんな話にな「音ちゃんは少し黙ろうか」ひっ」


やっぱり分かってなかったみたいなので、とりあえず黙らせてみた。


その後、食事も終わり湊とチワワが席を外した。店を出る間際の様子を伺えば、今まで頼んだ分の会計をしてくれているのが分かる。

本当に優良物件過ぎて将来が不安になる。でも、やっとお待ちかねの女子会を開催する事ができる。


「さて、2人も帰ったからこれからはゆっくり話せるね」


私はそう切り出して、音ちゃんをじっと見つめる。


「………な、なに?」


私の視線に耐えられなくなった音ちゃんが先に目を逸らした。

よし、この勝負は私の勝ちだ。ってそうじゃない。


「湊の事を名前じゃなくて『兄さん』って呼んでたけど…大丈夫?無理してない?」


私がそう質問した瞬間、彼女は今にも泣き出しそうな顔をした。


「その質問をするなんて杏は残酷ね。無理してるに決まってるでしょ。そんな風に簡単に割り切れるぐらいなら今までずっと『兄さん』の事を好きだったりしないわ」


そう言った彼女の瞳から一筋の涙が流れる。

ああ、私は何てデリカシーに欠ける人間なんだろう。

でも音ちゃんには包み隠さず想いの丈をぶつけて欲しかったから。これはきっと必要な痛みなんだと思う。


「無理に笑わなくていいから。私の事を嫌いになっても…いやだめだ…嫌いにはなって欲しくないや。どうしよう、困ったな…」


私が一人ツッコミしたせいだろうか…音ちゃんが泣きながら少しだけ笑ってくれた。

私は席を立ち、音ちゃんの隣に座る。


「本当にごめんね。音ちゃんの湊を取ってしまって。でも絶対に私が幸せにするから。彼も…そして音ちゃんも…」


その言葉を聞いた音ちゃんがキョトンとした顔になっている。私何かおかしな事を言っただろうか?人が真面目に話してるのに、まったく…なんて失礼な子なんだろう。


「私は湊と同じくらい音ちゃんも大切なんだ。私はあなたの姉に絶対なるのだから…これから覚悟してなさい」


自分で言っててとても恥ずかしい気持ちになったが、これは私の本心だからこのタイミングで伝えておきたいと思った。


「それ言葉に説得力ないわよ?兄さんにこれからもあの格好させるのに、よくそんな事が言えるわね」


「そ、それは…」


痛いところを突かれ言葉に詰まる。だって、まだ自信ないんだから仕方がないじゃん。そもそもだれのせいで自信を喪失したと思ってるんだ…。


「私はそんな軟弱な人を姉なんて認めないから」


そう言って小さく笑う彼女が儚く見え、つい抱きしめてしまった。


「ちょっと…やめ…」


彼女は私の腕の中で暴れようとするのだけど、その力は驚く程弱い。

私は強く抱きしめ、彼女の頭をそっと撫でた。

肩が小刻みに震えている…彼女の抱える痛みを私は共感する事は出来ない。

なぜなら、長年の想いに終止符を打つ辛さを私は知らないからだ。

でもそれはきっと…本当に身を切られる様な痛みなんだと思う。

今は誰にはばかる事もなくいっぱい泣いて、これからゆっくり傷を癒して欲しい。


そして、いつか新しい恋を見つけて欲しいと思う。

その時は私が絶対に協力するから…今までの恩をしっかり返すんだ。


そう心に誓う私だったが、その誓いをすぐ後悔する事となる。

まさか、今後の自分を苦しめる事になるなんて…。この時の私は知る由もなかった。

いつも読んでくださってありがとうございます。新しい作品を書き始めました。コメディ色を強めにしたいなと思っているのですが、とても難しいですね。

こちらの更新が止まらない様に気をつけます。

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