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1:アスブリシュヤ

こんな感じ、っていうお試しのようなものです。

どうぞお付き合いください。英語は適当です。

警告タグはガチです。ちょっと気持ち悪い描写とか出てきます。

 

 青白い明るすぎる光に色とりどりの星たちがかすむ。

 機体に乗り込んだ時のこの景色が、彼女は好きだった。


 "system, ALL GREEN"


 意識下で機動プログラムを立ち上げながら、システム異常がないか確認してマイクに吐き出す。

 直前のメンテナンスではクリーニングの成果もあって、関節部の動きが滑らかになっていた。感覚のすり合わせは出来ていたが、実戦では一瞬の迷いや戸惑いが命取りになることを彼女は経験則で知っている。再度のリンケージ確認とともに誤差を測りつつ、司令から出撃許可を待った。


 _right. license,ALL CLEAR.


 無機質な声が聞こえる。

 英語でのやりとりも、何も考えずに頭に入るようになった。


 _OK,count start.

 _5,4,3,2,1,take off!


 発射されたことによる負荷と風が身を叩く感覚が、彼女と機体の一体化をさらに促す。一度だけ手を握って、また開く。問題ない。


 "HAMSA,open"


 射出の勢いが落ちてきたあたりで、肩甲骨のあたりに羽を生やす感覚で翼を広げる。ブースターを開くと、速度が上がって姿勢が安定した。怖々と恐れながら飛ぶより、堂々とした方が上手く飛べることを、これも経験則で知っている。ハンサと呼ばれるそれは扱いにくいが、慣れると自由に空を飛ぶことができる。彼女お気に入りの装備だ。


 "attitude control,steady."

 _check,OK.Good luck,take care.

 "thanks,Sally. I'm off."


 釈千影しゃくちかげが日本を出たのは、彼女が12歳の時だった。

 その当時、日本で最新鋭だった対アスブリシュヤ戦闘用兵器、攻撃型可動装甲強化外骨殻『オーム・スヴァーハー』の『SM型』を乗りこなせる唯一のパイロットが千影だったのだ。

 最新鋭機体のテストパイロットだった彼女は、まだかろうじて戦線がカナダのユーコンのあたりだった頃、商談のためにかり出された。最初に足を踏み入れたのは、ほとんど使えない土地になった合衆国の中でも比較的落ち着いた状況だったカリフォルニア州のサンディエゴ。それから、テキサス州ヒューストンのメディカルセンターに移動し、バイタルチェックを行いつつ『SM型』の演習を行う予定だったのだ。そう、予定だった。

 千影は、移動途中ネバダ州ラスベガスで開かれた戦端に巻き込まれた。なし崩し的に実戦配備された彼女は、着実に戦績をあげ、英雄とまで呼ばれた。


 だかしかし、彼女はそこで初めて「人類の敵アスブリシュヤ」ではなく、守るべき同志であった「ヒト」を殺した。

 アレはやむを得ないことだったと、皆は千影を気遣う。機体はひどい損傷を受け、千影自身も傷ついた。

 そのせいで彼女は、三年経った今でも故郷の地を踏めない。




 アスブリシュヤは地を這う。主食である有機物が地上にあるからだ。空を飛ばないのは、きっと大してエサがないからだろう。


 2099年にワシントンで確認されて以降、恐るべき速度で合衆国を喰い尽くしたヤツらは、「触れないモノ」として「アスブリシュヤ」と名付けられた。英語圏では長ったらしい英文を略して「アスラ」と呼ばれている。日本でもアスラの方が一般的だ。アスブリシュヤと呼ぶのは、日本の上層部や軍事関連の人間だけだろう。もしかしたらそちらもアスラの方が通りがいいかもしれない。

 ヤツらのことでわかっているのは、飛来した隕石から発生したことと、確認されているだけで十数種の個体がいること、生殖することで個体が増えること、主食が金属を除いたほとんどのものであること、排泄物は炭化していること、硬い甲殻に覆われていること。



 おとなしく山の中でエサを漁っていればよかったものを。


 今回郊外に現れた13体のアスブリシュヤは、3種ほどの混成で山から這い出てきたらしい。前線とは別のところから入り込んだようで、どうやって来たのかは知らないが人に被害が出てしまった。確認されただけで既に一般人が7人ほど犠牲になっている。


 千影は両手に太めの槍を取り出し、両端に刃がくるようにくっつけた。少し変形して、六本の刃が球体のようになって槍の下に現れる。

 オーム・スヴァーハー専用打撃武器、ヴァジュラだ。

 たぶん形状的には槍の一種に含まれるのだろうが、千影はこれを打撃武器だと信じている。槍としてはあまりに使えないからだ。


 眼下に見えてきたショッピングモールの駐車場で、ワゴン車3台分くらいの大きさをしたフナムシのようなものがうぞうぞとしている。5体だ。あとの8体が気になるが、目に付いたものから片付ければいいだろうと判断して、とりあえずヴァジュラを片手で持った。空いた片手に鉾が三叉にわかれたフォークのようなものを取り出す。これもオーム・スヴァーハー専用武器の一つ、トリシューラ。昔なにかのアニメで見た海の神ポセイドンがもっていた三叉の槍にそっくりなので、千影は個人的にポセイドンさんと呼んでいた。


 ポセイドンさんよろしくね、あいつ一体だけでいいから縫いつけておいて。そのままヤツが絶命してくれたらラッキー。


 ちょっとだけ距離を取り、狙いやすい位置にいた一体に向かって勢い良く投げつける。まっすぐに飛んでいった槍は、硬い甲殻を突き破ってアスファルトまで届いたのだろう。

 紫色の体液があたりに飛び散った。

 刺さったところまで目視で確認していた千影は、そこから体勢を整えることなく団子状に3体ほど重なっているところへ頭から落下した。勢いを殺さずに少しだけ身体をずらし、一番上にいたフナムシの頭へ思いっきりヴァジュラを叩きつける。


 訂正、フナムシよりもダイオウグソクムシっぽい。池袋のビル内にある水族館で見たアイツに似てた。


 どうでもいい情報を更新しながら、紫色の体液が目の部分にかかったようなので簡単に拭う。涙の要領で洗浄液を少しだけ出す。

 てっぺんにいた一体目を引きはがし、腹が見えるようにひっくり返す。足の動きが止まっている。下にいた2体目も運良く頭のあたりが潰れて絶命してくれたようなので、同じように引きはがす。

 一番下にいた一体は、どうやらお食事中だったようだ。車に取り付くようにして多い被さり、ガラスを溶かして顔を突っ込んでいた。車の中にいた女性らしきものの足を見て、迷わずヴァジュラをダイオウグソクムシの背に叩きつける。まっぷたつ、と呼ぶにはいささか下品な仕上がりになったが、足と触手の動きがとまった。


 間に合わなくて、ごめんね。


 若干ひしゃげた車体を横目で見て、最後の一体を見据える。

 逃げるようにショッピングモールへ向かっていたアイツにも、死神の鎌は必要だろう。途中でポセイドンさんを回収し、飛び上がった。どうやら深いところまで刺さってしまったようで、少し振っても紫色の液体が飛び散るだけで串刺しにした一体が抜けない。仕方ないのでそのままもう一体串刺しにした。


 _thank you.

 "your welcome.where're the remnants?"


 友軍機から通信がはいり、千影は上を見上げた。話しかけられたらそちらを向いた方が通信の入りがいいのだ。どうなってるのかは知らないが、聞き取りやすい方が作戦に影響はないだろう。

 そこで、千影は驚きのあまり二度見した。あまり飛行機には詳しくないが、さすがに珍しいものだということはわかる。


 嘘でしょう。あんな骨董品、どこから持ち出してきたんだろう。っていうか、まだ使えるのね。


 まさか、一世紀も前に生産中止されたF-22にお目にかかると思わなかった千影は、思わず目を見開いてクローズアップした。

 友軍機マーカーは合衆国をきちんと示している。


 _it's.


 転送されてきたマップに示された位置は建物の裏手だった。

 我に帰った千影は、すぐにハンサを広げる。


 ポセイドンさんに刺さった2体を足で押して落とし、あとを頼んで裏手に飛んでまわった。

 土産話が一つできた、と思いながら。




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