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第1話 最後の転生

長いようで短かった旅がもうすぐ終わる。

 悪逆の限りを尽くす魔王を打ち倒すため、俺は仲間と冒険に出た。そして今、俺達は魔王城の最深部にまでたどり着いた。

 もう引き返すことはできない。魔王に勝つか負けるか、2つに1つだ。


「フハハハハハハ、よくぞこの魔王の元まで辿り着いた、転生者よ!私が直々に滅ぼしてくれるわ!」


 荘厳な玉座の前に佇む魔王が高らかに名乗りを上げる。俺たちを前にして、余裕の表情だ。

 俺は両隣の仲間たちに目をやる。


「ようやくここまで来たな!さあ、魔王をはっ倒そうぜ!」


「転生者様!絶対に勝ちましょうね!」


 仲間の戦士させんと僧侶ちゃんが声を掛けてくれる。魔王と相対しても気丈に励ましてくれるのは、それだけ俺の勝利を信じてくれているからだろう。ならば、その信頼に応えなくては。

 俺は伝説の転生剣を掲げ、魔王に名乗り返す。


「魔王よ!転生者として俺がお前を倒す!」

 



 ──俺は異世界転生者だ。




 元々日本の高校生だった俺は、不運な交通事故で命を落とし、気が付くと異世界に赤子として転生していた。その異世界は邪神に支配されており、人類は滅亡寸前まで追い込まれていた。転生特典の異能を授かった俺は、成長して勇者となり邪神を打ち砕き、末永く幸せに暮らした。そして死後、気が付くとまた別の異世界に転生した。以来、おれは死ぬたびに転生を繰り返し数え切れないほど世界を救ってきた。


「そして今、この世界を救う!」


「転生者様!」


「俺達もついているからな!」


 仲間の僧侶ちゃんと戦士くんの応援が励みになる。

 確かにこの世界の魔王はとてつもなく強い。だけど、みんなのためにも、俺は絶対に負けられない!


「世界を救うだと?その粗末な剣でか?」


 俺の右手に持った剣を指し、魔王が不敵に笑う。


「この剣は転生剣。甘く見ないことだ。」


 この世界に生まれたとき、特別な力を授かった。それがこの転生剣だ。転生の力が宿っているらしく、ものすごく強い。

 俺は油断しない。様子を見ない。最初から最高火力で倒しに行く!

 転生剣を魔王に向けて構え、ありったけの魔力を込める。


「うおおおおお!シャイニングソード!!!」


 剣閃が奔る。

 この剣技は誰にも止められない。


「効かぬわ!」


 ガキンッ!という大きな音が響く。

 一瞬なにが起こったのか理解できなかった。

 シャイニングソードが当たる直前、魔王が振るった漆黒の腕が攻撃を弾いた。

 嘘だろ?今までどんな敵も一撃で葬ってきた最強の技だぞ?

 それに、なにか嫌な音が聞こえた気がする。ガキンという、硬い金属の折れる音が。

 見たくない、けど戦闘中に思考停止しているわけにはいかない。

 恐る恐る、俺は転生剣に目を下ろした。

 やはりだ。転生剣の剣身が半分以上砕け散っていた。


「フハハハ、やはり粗末な剣ではないか!」


 魔王が余裕の表情で笑う。


「転生者様ぁ!」


 僧侶ちゃんの悲痛な叫び声が木霊する。


「大丈夫だ!」


 僧侶ちゃんを心配させまいと咄嗟に叫んだが、実際には何も大丈夫ではない。俺は転生剣の力でこの世界で八面六臂の活躍をしてきたが、転生剣が無ければなんの力も持っていない一般人だ。

 このままじゃ……負ける。

 魔王は油断してるのか俺を舐めているのか、俺たちに攻撃してくる素振りを見せない。それどころか、俺たちの次の一手を待っているかのようだ。


「どうした?もう終わりか?」


 ケラケラと笑いながら、魔王は構えを解いた。

 魔王が隙を見せた、どうにかその隙を突きたい

 ……成功するのか?

 考えろ考えろ考えろ!

 絶対になにか策があるはずだ。俺たちには何ができるか。

 戦士くんや僧侶ちゃんの覚醒に期待する?それ酷だろう。

 他の援軍は?来るはずがない。

 俺の他の技は?転生剣が無くては何も出来ない。


 やはり、俺には転生剣しか無いのか……

 そう思いながら、手元の転生剣に目を落とす。

 剣は確かに砕けていたが、その折れた切っ先は、それでも輝きは失われていなかった。 


「そうか、どんな姿になってもお前は俺の側で輝いていてくれているんだな」


 まだ策が一つ残っていた。

 これは、おれが最後に残していた策だ。どの異世界でも、どうしようもなくなったときに救ってくれた策だ。


「みんなぁ!」


 僧侶ちゃんと戦士くんに声を掛ける。


 そして俺は、転生剣を構え直し、その折れた切っ先を勢いよく俺の喉元に突き刺した。


「みんなごめん、転生するわ」


「「転生者様あ!?」」


 喉から血がドクドクと流れ出るとともに、俺のなかの精気、生命力のようなものも溢れ出ていく。今までに何度も経験した、「死」の感覚。

 だんだんと意識が遠のいてきた。聖女ちゃんたちの悲痛な叫び声が聞こえる。

 ああ、今回は失敗しちゃったな。みんな、ごめん……、世界を救うことができなくて……。



 ━━━━━━━━


 肉体の枷から解き放たれ、一度途切れた意識が再び舞い戻る。

 詳しい仕組みは分かっていないが、死んでから次にまた転生するまで、毎回俺はこの意識だけの状態になる。

 さて、次はどんな異世界が待っているんだろうか。

 何回も経験しているけど、この瞬間はいつだってワクワクが止まらない。

次こそは、俺が絶対みんなを、幸せに……

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