自慢の妻ですが何か?ー海運本部長は思い出した
最強の女性社員は、たぶん夏海姐さんです。
商船統括の陽司は、フロアに戻った後、海運統括本部長の葛城とコーヒーを飲んでいた。
葛城は眼鏡を外し、レンズを拭きながら言う。
「そんなに大馬鹿野郎がいるんですか?」
陽司は鼻で笑った。
「そうですねぇ。兄貴に楯突くなんて、頭のいいヤツならしませんよね。」
葛城は眼鏡を掛け直し、わずかに口元を緩める。
「規程違反どころか、僚船の航行妨害。僚船を危険に晒した。――船長権限剥奪は妥当です。いつも通り、後追いでいいでしょう。」
「船が動かせれば、船長二人消えたとしても問題ないですからね。」
「概ね、ですがね。……それにしても、君の気の短さはなんとかならないんですか?」
「これでも兄貴よりマシだと思ってるんですけどね。」
そこに一人の社員が入ってくる。
「お話中失礼します。本部長、カナダのLNG輸入について、Webミーティングの時間変更の件です。先方はこの後15時がよろしいと言うてはりますが、いかがなさいますか?」
「夏海さん、15時で設定してくれますか。それから、社長が頼み事があると言っていましたから、後で聞いてみてください。」
「ほんなら、これから社長室行ってみますわ。おおきに。」
はんなりとした様子に、場の空気がわずかに緩む。
葛城は小さく息をついて言った。
「何で君が夏海さんとくっついたのか、不思議で仕方ないですよ。」
陽司はカップを傾けたまま、視線を上げない。
「まぁ……ずっと謎でいいんじゃないですか。夏海は俺のですから。」
葛城は思い出していた。
あのはんなり京美人が、極妻に豹変した夜を。
『あんたら……天下のBMM社員やのに、ちぃともお利口やないねぇ……。……ノシたるわ!!顔貸さんかい!!』
(あれを見ると、陽司くんの奥さんというのも納得なんですけどねぇ。)
目をカッと見開き、巻き舌気味に男性社員の胸ぐらを掴んでぶん投げる。
女性社員たちが「夏海姉さん!カッコいい!」「サイコーです!」などと言うものだから、特に咎めはなかった。
(あのセクハラ社員が全面的に悪いですけど。…ぶん投げましたからねぇ…。)
葛城本部長が妻の武勇伝を思い出しているとは知らず、陽司は、今度は妻とどこへ行こうか、そんなことしか考えていなかった。
目の前には、裁決書。
思い出したように、陽司は判を押した。
BMMでは、昭和並みのセクハラが度を超えると、夏海姐さんにしばかれます。
夏海姐さんは、普段ははんなりしているので、怒るととても恐ろしく抑制効果はテキメンなのです。




