お前はいらない― ひとりぼっちの船 ―
誰にも理解してもらえない。
誰にも愛してもらえない。
そんな時間を過ごしていた船がありました。
本編はこちらからどうぞ。
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それでも、その船は海に在り続けます。
白く美しい大型クルーズ船、ブルーリッジ・サガ。
ブルーリッジ・クルーズが鳴物入りで就航させた大型船だ。
しかし、既存のクルーでは扱い切れなかった
ドックに入れても異常は見つからない。
それでもシステムエラーが度々発生し、使いものにならなかった。
「この気性難め!何がそんなに気に入らないんだ!」
造船会社でさえも、原因を突き止められないまま、デビューから2年が経とうとしていた。
「お前がこのままだと、俺たちもどうなることやら…」
就航させたものの運用率を上げることが出来ない状態でも、多額の維持費は当然かかる。
痺れを切らした執行部は、遂にブルーリッジ・サガの売却を決定した。
「使いものにならないなら、我が社には不要だ。
手間賃が回収出来ればいい。売り払え!」
しかし、就航から2年ほどでの売却を不審に思い、どのクルーズ会社も手を挙げることはなかった。
その頃、旗艦レジェンディアの老朽化に伴い、新たな船の導入計画を進めていたBMMは、新造船として一から建造するか、ハイブリッド船を導入するかで悩んでいた。
東京晴海のBMM本社。
売却船リストをチェックする日々の中、クルーズ部門
「ねぇ、見て。ブルーリッジ・サガが売りに出されてる!何かあったのかなぁ。」
女性社員の1人がコーヒーを飲みながら、マウスを操作する。
「何なに?あ、ホントだ!まだデビューしたばかりなのにね。」
もう1人がモニターを覗き込む。
「異常はないって書いてあるんだけどなぁ…しかも4億ドルって……」
「ブルーリッジにはいらないってことか…。」
「私社長に報告行ってくるから、日向キャプテンに共有してくれる?」
「オッケーぃ。」
報告を受けた社長の富士崎は、ブルーリッジクルーズの社長ハリス・ブライトマンに、すぐ連絡を入れた。
「ハリス社長、あなたの白馬を、わたくしにお譲りいただけませんか?」
「富士崎社長、名馬とは言い難いですよ。あれはとんでもない気性難です。異常もないのにシステムエラーが頻発する。お陰で建造費も回収できない有様です。」
「まぁ。そんなことが。見せていただいてもよろしいかしら?」
「もちろんです。お気に召すとは思いませんがね。」
「嬉しいですわ。では、一月後にクルーたちを連れてニューヨークに向かいますわね。」
「分かりました。お会い出来るのを楽しみにしていますよ。」
「やれやれ。BMMがあの暴れ馬を欲しいと言ってきた。乗りこなせるはずがなかろうに、もの好きなことだ。売却手続きの準備を進めろ。」
ハリスはそう指示を出す。
ブルーリッジ・サガは、僚船たちが華々しく出港していく中、一隻だけ無人のまま係留されていた。
それを見た子供が、ぽつりと呟く。
「ママ、あの船、とっても寂しそうだよ。」
ブルーリッジ・サガのデッキに、一羽の鷲が舞い降りた。
「大丈夫。お友だちがいるわ。見てごらん。」
母親は、子供がよく見えるように抱き上げた。
「わぁ!スゴイや!大きな鳥が何羽もいる!」
ゲストを乗せるわけでもない。
誰かに賞賛されるわけでもない。
側にいるのは、クルーではなく鳥たちだけだった。
母親は、その船の様子を見つめながら
「あなたを愛してくれる人は、きっといるわ。だから諦めちゃダメよ。」
そっと呟いた。
すべての船には、出会うべき相手がいます。
理解されなかった過去も、
やがて意味を持つ日が来る。
いつもありがとうございます♡
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これは、クリスタニアになる前の、ひとつの記憶です。




