マーク6
「あ、足が! 俺の足がーー!」
「大げさね。たかが足がちぎれたぐらいで叫ばないでよ」
「お、大げさじゃないだろ! これじゃあ、俺は逃げられない・・・。君だけでも逃げるんだ」
俺は失血しないように足の太い血管を押さえる。逃げることが出来なければ、俺は遠からずここで死ぬだろう。
エミリーは優秀なヒーラーなのだろうけど、敵に捕まっていたことも考えると恐らく前線に居た新人に近い兵士だろう。だとしたら、自分で使っていた分とリサ先輩にかけた分ですでに2回ヒールを使っていることになる。例え3回目が使えるとしても、自分の命を優先にするはずだ。俺に使う分をリサ先輩に使ってもらえたと考えるなら、ここでヒールをお願いすることはしたくない。
リサ先輩の遺体のそばで死ねるなら、それもいいかもしれない。いや、ここで死にたいとすら思っている。
「はい、君の足を持ってきてあげたわよ。これであなたの負担がかなり減るはずよ。ヒール」
「嘘みたいだ・・・俺の足が繋がるなんて・・・。それよりも、エミリーの魔力量は大丈夫なのか?」
「私の事は気にしなくてもいいわよ。それよりも、流れ弾が来るならシールドを張るわ。私はヒールが使えるから、シールドの事なんてすっかり忘れていたわ。シールド」
エミリーは俺たちの周りにシールドを張った。シールドの使用魔力は一定で、形は自由に変化させられるけど、面積を大きくすれば大きくするほど弱くなる。こんなに広い範囲に広げたのなら、全く役に立たないだろう。
「ちょっ、こんな薄いシールドに魔力を無駄に使うなよ!」
「失礼ね。これから強化するわよ。シールド、シールド、シールド、シールド、シールド」
エミリーは強化すると言ってシールドを重ね掛けし始めた。確かに、シールドを重ね掛けする技術はあるけど、重ねるために必要な魔力は一度目に使った魔力分が再び必要になるので、実質必要魔力が2倍になっていく。彼女は、6回使っているので通常の32倍もの魔力を使用したことになる。
「そんなに魔力を使っても大丈夫なのか?! ヒールも使えなくなるぞ!」
「私の事は気にしないでって言ったでしょ。ほら、彼女を連れて帰りたいんでしょ? 私は力が無いから運んではあげられないわ」
「あ、ああ・・・。ありがとう」
彼女のシールドは丈夫になった。飛んでくる味方のストーンバレットも、敵の炎弾も割れることなく防いでくれている。
「くっ・・・」
俺は貧血気味なのか、少し頭がクラッとしてよろめいた。
「大丈夫? ヒールじゃ血液は再生しないからね。だから、私は応援しか出来ないから。頑張れ、頑張れっ」
エミリーの軽い声の応援に、力が抜けそうになるが、俺は一歩一歩踏ん張って自分の陣地へと歩いていく。
魔族もさすがに追撃する余裕が無いのか、味方の陣地に近づくに従って居なくなっていった。大砲が退却したときにできたわだちがあるから、道に迷わないのも助かる。
「ここまでくれば、もうシールドを維持する必要もないわね」
シールドは自分の意志で消すことが出来る。消しても使った魔力は戻ってこない。自分が意識している間は消えないが、意識し続けるのも大変だから、必要が無くなれば消すのが普通だ。
「ありがとう。俺はリサ先輩の遺体を遺族の元へ届けてもらえるよう依頼してくる。君はどうする?」
「あのね。私がわざわざ君と一緒に帰ってきたのは、君に私の身分を証明してもらうためよ。このまま私が一人で戻っても疑われるだけじゃない。どうして長い間魔族と一緒に居て生きていられたのか。敵のスパイになったんじゃないかって」
「それは・・・。分かった、俺も一緒に行くと約束するよ」
「それじゃあ、私は誰にも見つからないようにその辺に隠れているから、用事が終わったら迎えに来てよね」
「分かった。必ず迎えに来るから」
俺は、リサ先輩の遺体を預けるため、再び味方の基地へと急いだ。




