土の精霊ノーム
「少しでも音に関する情報を提供しようと思ったのだが」
「いえ、全く情報が無いよりも音に関する情報を得られて良かったです。ありがとうございます」
「はは。良かった。長い年月を生きてみるものですな」
そしてお茶を飲み「……ただいま。変なの拾った!」それを喉に「もー! 助けてんじぇー!」流しこぶー!
「こらマオ! 魔獣だったらどうするの!」
「んじぇー! 魔獣じゃないんぼ!」
「……プニプニしてて可愛い。マオ気に入った! パムレットに劣るもこのプニプニを枕にしたら目覚め最高だと確信する!」
「目をキラキラさせないの! ほら、今にも逃げたそうにしているじゃない!」
「んじぇー! あ、エヴァ! 助けてんぼー!」
「ぶー! の、ノーム殿! な、何をして!」
え、ノーム?
「……む? 聞き覚えのある単語」
「そうんじぇ! というかお前には何度も言っているんぼー! オイラは原初の魔力から生まれた高位な精霊ノームんじぇー!」
何というか、全然威厳が感じません。
見た目はこう……丸めた柔らかい生地の食べ物を二つ並べて、小さい丸を四つつなげた物体……としか表現できません。
見方によっては『可愛い』のかもしれませんが、その口調から可愛さが抜けていますね。
「んぼ? 何やら面白い魔力が感じるんじぇ? ……って、鉱石っぽいんぼ!」
「あ、ボクです」
「んじぇー! まさか、あの有名な『ゴルド様』んじぇ!」
「……あ」
スポンとマオの腕から抜け出して、ノームはゴルドの前にひざま……いや、手足が短いので平らになったという表現しかできません。
「はあはあ、マオ様。おまちを……はあはあ」
遅れてネロが入って来ました。
「ネロ、どういう事か説明をしてくれぬか? ノーム殿がこの辺に来るなんて珍しいのだが」
「それはオイラが説明するんじぇ!」
ひょいとマオに再度捕まり頭に乗せられました。ノームの視線が高くなり、不服と思いつつも『あれ? これって状況的には会話しやすい位置じゃね?』と表情から伺えます。
「こ、こほん。ノームの集落にて『悪魔』が現れたんじぇ。どうか助けて欲しいんぼ!」
「悪魔?」
確か精霊と悪魔って相性は一方的に悪いとの事。つまりノームの集落……いや、この森に現れるのはとても都合が悪いのでは?
「今はどうしているのですか?」
「悪魔は一体。ノームは全勢力で立ち向かって耐えいるんじぇ。でも時間の問題ぼ!」
「これは急いで行った方が良いかも知れないわね」
「そうですね。エヴァ、一旦あっちに向かっても?」
「ええ。ゴルド殿一行は皆にも伝えておきます故、いつでも来てくだされ」
「ありがとうございます」
そして僕達は急いでノームの集落へ向かいました。
★
トスカ達が去った後、エヴァはエルフの集落の集団墓地へと向かっていた。
そこにはかつて共に生活をしていた妻の墓と、父親の墓があった。
「千年前。かつて一目惚れした相手の親が転生するとは……」
そう言って妻の墓に手を置くエヴァ。
「転生術はまだ研究段階に至っていないとフーリエ殿から聞いていたが、この世には存在するのだな」
そして立ち上がりぽつりと呟いた。
「あちゃー、少し遅かったか」
「む? これは『シグレット』殿」
「こんにちは。エヴァ」
「珍しいな。五年ぶりだろうか」
「ああ。こっちにトスカ達が来たって聞いたからな。ちょっと脅かそうと思って」
「ふふ、シグレット殿もいたずらが好きだな」
そして、エヴァは頭を下げた。
「おいおい、何の冗談だ?」
「私の願いを聞いて欲しい。シグレット殿が使ったとされる『不死の薬』を私にも欲しい」
「……理由は?」
「転生者が現れた。つまり、何かの術があることが事実として残った。もう百年……いや、千年待てば妻にも」
その強く念を込められた声に、シグレットはエヴァの肩に手を置き、残念な答えを出すしかなかった。
「悪い。この薬は渡せねえ。これが広まったら最後、『災厄の時代』がまた来るだろう」
「くうう。うううああ」
そう言って膝を地につくエヴァ。
「セリン……私は君を幸せにしたかっただけだったのだ……」
「過去を責めるなよ。今を生きてくれ。エヴァ」
「ああああ」
その悲痛な声はトスカ達の耳には聞こえず、ただその時その場で収束するモノだった。




