エルフの知る原初の魔力
「なるほど。転生して現在こここここにいらいらいらしゃしゃるととと」
お茶が入ったコップがとてもカタカタと揺れて、口に触れていますが絶対に喉を通っていません。
「ゴルド、一体何があったのですか?」
「エヴァはシャムロエの娘の……シャルドネに求婚したのですよ」
「求婚!?」
「シャルドネは『私よりも強ければ良い』と言い、エヴァは挑みました」
「結果は……」
「秒でエヴァが負けました」
「秒だったのですね」
「……秒」
「ゴルド殿! せめてギリギリの戦闘だったと言って欲しい!」
シャルドネって強かったのですね。一体どんな人物だったのか気になりますね。
「……む」
そんな話をしていたらマオが苦い顔をしてシャムロエの服の裾をつまみました。
「どうしたの?」
「……お手洗い」
「おっと、ネロー。ちょっと来てくれー」
エヴァの少し大きめな声に遠くから足音が聞こえてきました。
「はい。どうしました?」
「お手洗いにご案内を」
「はい! こ、こちらになります!」
「……感謝。行ってくる」
そう言ってマオは席を外しました。
見えなくなった後、エヴァは顎に手を当てて疑問の表情を浮かべました。
「あのお嬢さんの魔力はなかなか不思議だと思うが、ゴルド殿は何も感じぬのか?」
「いえ、正直膨大過ぎて『魔力探知』も使うのを躊躇うほどです」
「うむ。『原初の魔力』が関係しているとも限らぬだろうし」
「あ」
ゴルドが何かを思い出したかのように僕を見ました。そういえばここへ来た理由はお茶を飲みに来た訳でもなく、ミルダ歴を知るためでもありません。
「エヴァ。その『原初の魔力』について何か知っていたら教えて欲しいのです」
「『原初の魔力』について? それはゴルド殿の方が当事者だから私よりも詳しいと思うのだが」
「ボクは『鉱石』の魔力を持っています。今知りたいのは『音』です」
そう言ってゴルドは僕を見ました。
「む? トスカ殿と言ったか? まさか『原初の魔力』を?」
「良くは解っていませんが、『音』の魔力を持っています。ミルダ歴設立の歴史同様に、『音』の魔力について何か知っていたら教えて欲しいと思いまして」
「うむ。何か……」
エヴァは少し考えました。
「知ってどうする?」
鋭い質問でした。
知って……どうする?
「え、あ、いや、その」
答えが出ませんでした。確かに知ってどうするかと言われると困ります。
もちろん理由が無いわけではありません。僕が一体何者なのかを知るためだけです。
ですが、その為に皆を巻き込んでいるわけで、本当にそれで良いのかも考えてしまいます。
「うむ。別に良いと思うがの」
そして当然の流れで『心情読破』を使いましたね。本当に魔術師は信用できません!
「はは、すまんすまん。だが、『心情読破』こそ相手が信用できるかどうかを調べる為の術なんだよ。トスカ殿がこの先何をするかを見極めるのも、長年生きた私の役目でもあるからな」
そう言って、エヴァは右手から風を生成して棚に向けて放ち、その風を自在に操って一つの小さな本を取り出しました。
「その本は?」
「日記。もしくは歴史を刻んだエルフの宝というべきかな」
パラパラとめくり、その内容を読むエヴァ。
「『原初の魔力。異の世界から来たれし魔力にして、異の世界を含む全てが作られた時、同時に存在したと言われている魔力。種類がいくつかは知らされていないが、『光・鉱石・時間・音・神』がこの世界に知らされた原初の魔力であり、それらに最も関連する存在かつこの世界に存在する者として『ノーム』が挙げられる』」
確かノームってこの精霊の森の近くに存在するのですよね。
「『光は目に見えぬ速さで動く物体。しかし触れることが不可能と言われている。だが特殊な鉱石により動きを変える事が可能である。その鉱石をたやすく砕くことが可能かつ目に見えぬ存在が『音』であり、地を揺らすことも理論上可能である』」
まあ、それに関しては僕も知っています。高音の口笛を吹けば石を飛ばすくらいはできますね。
「『目に見えぬ音を避けるには『時』を操る事で難を逃れることができる。だが『時』を止める前に『光』が迫っていればそれもまた無力となるだろう』」
そう言ってパタンと日記を閉じました。
え、閉じた?
「すまぬ。それしか書いてない」
「凄く長く話した割にはあまり有益な情報は無かったような気がしますよ!」
「え、そうかしら?」
「シャムロエは何か掴んだのですか?」
「ええ。つまりこういうことよね?」
そう言ってシャムロエは真剣な顔で答えました。
「時は光に弱く、光は鉱石に弱く、鉱石は音に弱く、音は時に弱いのよね?」
忘れていました。シャムロエは好戦的でしたね。




