プログラム1番・大規模サバイバルバトル
『さて、ではここからは引き継ぎまして実況解説を行っていきます。 第一兵団副隊長サベージです。 そして大会最初に行われるのはもはやおなじみの、本戦出場者を決めるグループごとのバトルロワイヤルだぁ!!』
「「「「オオオオオォ―――――!!!」」」」
『今回は過去最多、1000人の参加者!! 1グループ50人、つまり計20回の生き残り戦を行い、本戦に参加することが叶うのはたったの20人だけ!! では早速、大会を始めていきましょう!!』
魔族の闘技大会の恐ろしい点の1つとして、そのハードなスケジュールがあげられる。
その代表ともいえるのがこの1、2日目のサバイバルバトルで、グループに分けられているといえども50人を同時に戦わせるというもの。参加者はそれこそ、互いが腕を伸ばせば触れ合うほどに狭い空間で戦わなければならないのだ。
『第一戦での注目選手は、やはり優勝候補の一角。 怪力自慢のオーガ、ゴライアス選手でしょうかねえ。 その膨れ上がった筋肉の鎧はまさに鉄壁!! 力任せの戦い方も、手を伸ばせば敵をつかめるこのフィールドにおいては有効的でしょう。 では、選手の皆さんは準備を』
所狭しと並んだ選手たちが皆、臨戦態勢になる。
その気迫にあてられて観客席が静まり返ったとき、開始を知らせる鐘の音が響いた。
そして戦いは始める。
「オラアアアア!!」
「ちっ・・・・・・!」
叫び声をあげながら襲い掛かってきた豚魔人のこん棒の一撃を、黒騎士・ゴスペルは大剣で受け止める。
2m近い身長を持つゴスペルよりも少しばかり大きいオークの攻撃は振り下ろされるように繰り出されるため、結構な重圧がゴスペルを襲った。
「ブフゥゥゥ!! これを受け止めただとおぅ!?」
「お返しだ、豚野郎!!」
「ピギィィィィ!!?」
ゴスペルは驚き、動きを止めたオークの大きく出た腹に蹴りを食らわせた。
攻撃的なフォルムの鎧に包まれた足での蹴りの威力は言うまでもなく、オークの体は吹き飛びこそしないものの物理的にへこみ、結果としてオークは白目をむいてその場に崩れ落ちた。
しかし一戦終わったからと言って休憩できないところがこの闘技大会の恐ろしいところ。
その倒れたオークの体を、文字通り足場にしてカエルの足を持つ魔族が襲い掛かってきた。
どうやら高所からの落下攻撃で仕留めるつもりらしい。
だがそれはあまりにお粗末だ。
何せ落下してくるとわかっているならば迎撃するのは容易だ。しかもこの大会に集まるのはかなりの猛者。少なくともこの魔人の攻撃はこの大会の基準でいえば遅いため、ゴスペルも難なくそれをさばいて見せた。
「ナニッ!! グフウッ・・・・・・!!」
「次だ、次々!!」
「おおっ、威勢がいいじゃねえかオマエッ!! イイゼ、今度は俺が相手だ!!」
「ああんっ!? ふざけろ、ああいうやつは俺と戦うのがふさわしい!!」
「「「ならばまとめて相手してやるっ!!」」」
そして始まる3人の乱闘。
人であるゴスペルは剣を振り回し、魔族である他2人はそれぞれ肉体を用いて相手を攻撃する。鎧をまとうゴスペルはさることながら、魔族の鍛えられた肉体もそうやすやすと傷つくものではなく、戦いはあっという間に泥沼化した。
そんな光景が広いが、しかし狭く感じる舞台のあちこちで広がる。
「よし、いいぞやれっ!!」
「馬鹿野郎!! そこはカウンターするところだろうがっ!!」
「いいぞ!! さすがの一撃だなあ、痺れるぜっ!!」
ワアアアアアアアッ―――――!!
予選の乱闘は、本戦の一対一の戦いとはまた違う盛り上がりがあり、観客はますますヒートアップしていく。何しろ戦闘民族である魔族だ。中には観客席から飛び入り参加をしようとしているものまでいる。
一方で戦いを続けているゴスペルの内心は荒んでいた。
ゴスペルは扱う武器が大きく、一撃必殺が基本的な立ち回りだ。なので本来、連戦には不向きなのである。大きな理由としてはその武装だ。
鎧に大剣、それはすべてが金属でできているわけではないが、それでも総重量はかなりの物。寧ろただの一般人がそれをまとい戦ったならば、ものの数分で力尽きることだろう。
『クッソ、こりゃあ結果がどうあれ、試合後は筋肉痛は確定だな・・・・・・』
だというのに、この予選ではどれだけ避けようとしても乱戦・連戦は必至だ。しかもこのどう考えても不利な状況下で縦横無尽に暴れまわるゴスペルはまさに「俺はデキる男だ」と主張しているようなもので、戦いたい魔族が後を絶たずゴスペルに襲い掛かってくるのである。
結果、いつの間にかこの試合は『ゴスペルvs他参加者』という構図になっていた。
中央に君臨する黒騎士に襲い掛かる魔族たち。
堂々と正面からくるものもあれば背後から忍び寄ってくるもの。特性を活かし空から、はたまた地中から襲い掛かってくるもの。
それを剣で、時には素手で、足で、息つぐ間もなく迎撃していく。
それを見ている観客たちには、まるで中央に巨大な一本の柱がそびえ、挑戦者はなすすべなくそれに内カエラているかのように思えた。
『これはなんということでしょう? 力自慢の選手たちが、たった1人の戦士に次々と挑み、そしてなすすべなく敗北していくー!? 魔族ですら困難なこの芸当、決して大会参加者のレベルが低いわけではないということをここに明言しておきます!!』
オオオオオオオッ!!
「なんだあの戦士は!? 一体どれ程の体力があればあんな芸当ができる!」
「いや、それもそうだがあの力・・・・・・凄まじい、あれほど巨大な剣を片手で扱っていたあ時すらあったぞ!」
「正体はなんだろうね? 力自慢ならオーガだけど、あの背丈じゃあそうじゃないだろうし」
「なんでもいいだろう! 重要なのは・・・・・・」
「「「この戦い、最高すぎるッ!!」」」
試合開始から10分以上が経過した。
会場はまさしく死屍累々という有様。
この大会は意識を失ったとしても、試合が終わるまで・・・・・・すなわちただ1人を除いて戦闘不能になるまでは、戦闘意思がある限り何度でも立ち上がり、戦うことが許されている。つまり、倒れたからと言って場外に運び出されるような事はないのだ。
戦闘不能になった参加者は他の選手を妨害するオブジェとなる。
足の踏み場もないその中央で、ゴスペルは剣を杖に立ち、肩で息をしていた。しかし試合終了の合図は響かない。
何故なら彼と同じようにこの競技場で立つものが1人だけいたのだ。
いや、全く同じではない。その違いはゴスペルが疲労困憊であるのに対し、その者は未だ体力に余裕があるように見えること。
「グルゥ、おい黒騎士!! あと一戦交える気力はあるか?」
それは最初に名の上がっていた屈強なオーガの戦士、ゴライアスだ。
この戦いは、ある意味で弱者が強者を蹴落とすのにもっと適したものだ。
なぜなら最初から強いとわかっている相手であれば、ほかの参加者と一時共闘することによって物量で押しつぶすことができるからだ。仮にそれで倒せなかったとしても、それで消耗した者であればまだ勝機はある。
そして本来であれば今回その標的となるのはゴライアスであった。
何せ最初のアナウンスでその強さを語られているうえ、彼がこの大会に参加したのはそれこそ一度や二度ではない。だから誰しもが、最初はゴライアスの無双がみられると予想していた。
ところがそれを上回るインパクトを参加者のみならず、観客にも与えたものがいた。言わずもがなゴスペルだ。
結果として本来であればゴライアスに向かっていたはずの人数がゴスペルに殺到。その分相手にする量が減ったゴライアスは体力をさして削ることなくゴスペルとの一対一に持ち越したのだ。
そんなことを踏まえたうえで告げられた彼なりの気遣いの言葉にしかし、ゴスペルは不満そうに、そして挑戦的に返した。
「ハッ! 上から目線の気遣い、痛み入る。 だが気にすることは無いさ。 ちょうどいいハンデだ」
「!! ガハハハッ!! その意気や良し、だッ!!」
そして2人は同時に駆け出し、そして衝突する。
ゴスペルの大剣と、ゴライアスの身の丈以上の大きさのこん棒が互いを削りあう。
恐るべきはその2人がたった一度獲物を交えただけで、とてつもない衝撃波が発生したことだ。
中央にまばらに転がっていた参加者を端に飛ばしてしまうほどの。
「グっ・・・!! 重すぎるだろう!!」
「貴様こそ・・・まさか疲弊した状態で、渾身の一撃を受けるか!?」
「あいにく、そんなやわな鍛え方はされてねえ!」
にらみ合っていた2人、先に動いたのはゴスペルだ。
その体格差を活かし3mはあるゴライアスが放ったのは勢いの乗った巨大なこん棒の叩きつけ。その質量、さらには重力までもが味方した必殺の一撃を、しかしゴスペルは受け止めた。
そして突然それを受けていた己の剣を突然傾けたのだ。
すると力の込められていたこん棒は簡単にいなされてしまい、闘技場の地面に深くのめりこんでしまう。
「グォオオオオ!?」
「チッ! そこはおとなしく食らうところだろうが・・・」
そこから間を開けず放たれた胴体を狙った返しの一撃。それをゴライアスはこん棒を放棄し、自らの両の腕で受け止めた。
もちろん無傷というわけにはいかず、その腕には浅くない傷が刻まれている。
だがゴスペルは悪態をつきながらもその手を止めることは無い。
返す一撃で仕留められなかったのであれば、さらに追い打ちをかければいいだけの事。さらに言うなら、幾ら人並外れた体力と力を持つゴスペルであっても、この連戦により追い詰められていた。ゆえに彼の頭には”戦いを楽しむ”という魔族のガス抜きの場でもあるこの大会本来の趣旨を忘れ、ただ”早く勝負を終わらせる”という考えしかなかった。
手負いの獣ほど恐ろしいとはいうが、その獣が今はゴスペルをさすことは間違いない。
「オラオラオラァッ!!」
「オオオオオオオオッ、おのれえっ!!」
何度も何度もゴライアスを斬りつけるゴスペル。一方のゴライアスは反撃に出ようにもその動きを見せた瞬間、即座にそれをつぶされてしまうので動くこともできない。
結果、ゴスペルは疲労こそ募れど鎧には目立った外傷もなく、ゴライアスは体中にいくつも傷ができてしまう。
どちらが優勢か。それは最早解説がなくとも明白であった。
だがここでやられっぱなしのゴライアスではない。
彼だって優勝候補の一角として名が上がるほどには強い。この場で手も足も出ず敗退するなどということは、仮に観客が許しても、彼のプライドが許さなかった。
「ガアっ!!」
「何っ!?」
ゴライアスが一つ吠えると、今までの比ではないレベルの力をもってゴスペルの剣を押し返したのだ。
そのあまりにも重い一撃はこん棒で最初に打ち込まれたそれに勝るとも劣らない。
突然の攻勢に対応できず、ゴスペルはたまらず距離をとった。
そこへ、なんとオーガの巨体が突貫してきたではないか。
まともに食らえば間違いなく全身の骨が砕けることになることは容易に想像がつく。だが回避をするには2人の距離はあまりにも近すぎた。
結局ゴスペルは剣を地面に突きたて、盾のように構えた。巨大な剣は十分に盾としての役割を果たす。
そこに、オーガが激突した。
剣は折れることこそないものの、その勢いを殺すことはできず、後ろのゴスペルごと地面をえぐりながら後ろへと後退してゆく。
それはたった一瞬の出来事ではあった。
しかし当人からすればそれはあまりにも長い競り合い。
「・・・完敗だ」
文字通り捨て身の一撃を完璧に受け止められ、力を失い膝をついたオーガ。
戦士としての矜恃ゆえか。決して倒れることは無かったが、その意識はすでにない。
「ぐ、おおっ・・・、まったく、最後の最後でとんでもない真似を・・・」
ゴポッ、と、悪態をついたゴスペルの口から漏れたのは大量の血液。
ゴライアスの捨て身の一撃はゴスペルを殺すことこそなかったが、そのあまりの衝撃は剣をも貫通し、それを支えていたゴスペルの体内を蹂躙したのだ。だがそれでも、それこそ死に体であるが2本の足で立っている。
『勝ち残ったのは、今回初参戦の、黒騎士・ゴスペル!!』
ワアアアアッ!!
初戦からすさまじい激闘を繰り広げたその男への惜しみない拍手がやむことは、ゴスペルが力尽きて倒れるまでやむことは無かったのだった。




