神なんてそこら中にいる
「はあ、まさか本当に攻略、しかも1日で済まされるなんて‥‥‥‥ あなた達何者? それでなんで金級じゃないのかが不思議なんですけど‥‥‥‥‥」
そう言いながら、けだるげな職員は自身の眼前に置かれた紫色の結晶をまじまじと眺める。
それは迷宮には必ず存在する物、コアであり、今置かれているそれは”試練”の迷宮のコアだ。
迷宮のコアは最深部に隠されている場合と、主に最下層にいる番人と同化している場合があり、”試練”の迷宮の場合は後者だった。
”試練”の迷宮のコアは”試練”の王であるあの翁の心臓だったのだ。
なぜ迷宮の核が番人と同化するのか。
これにはいくつかの説があるが、最も有力なのは、ほとんどの場合が強力な魔物であったりする為、それを縛り付けるためではないかと言われている。自身の核を楔として埋め込んでいるのだと。その代わりに、核は己を守るための力を与えるとかなんとか‥‥‥‥‥
人類を進化させるための壁となる為、強くなることに狂的なまでに固執していた翁なら、迷宮の核を取り込むくらいやりかねない。
ともあれ、それがこの場にあるということはつまり、その”試練”の王を倒したという事であり‥‥‥‥。
「いえ、けれどギリギリの戦いでした。 おかげで確実に強くなれた、そう思います」
「‥‥‥‥‥見ればわかりますよ。 あなた、随分雰囲気変わりましたね」
「そうですか? ‥‥‥そうかもしれないですね」
「確かに、迷宮はその厳しさ故に、探索を終えた冒険者にはこう、一皮むけたようになる人もいますけど。 あなたほどわかりやすく変わった人はいませんね」
職員の言葉にイアはあいまいな笑みを浮かべた。
まさか過去の自分に力を授かったなどと言えるはずもなく、どう答えればいいのかいまいちわからなかったからだ。
そんなイアに後ろから歩み寄り、その華奢な肩に自身の顎を乗せたのは、意外にもセフィリアではなく、カレラだった。その体には所々傷が残っており、傍から見ればただのかすり傷程度にしか見えないそれだが、吸血鬼である彼女が未だ再生しきれていないということが、迷宮での戦いのすさまじさを物語っていた。
それが迷宮に本来いた魔物でもなくれば罠でもなく、仲間であるセフィリアにつけられたというのは少々おかしな話だが‥‥‥‥‥
しかしカレラよりも酷い見た目なのはサリィとリカンだ。
何せ激しい戦闘に加え、彼女はカレラのように再生能力などは持ってはいない。おそらく癒えたとしても跡が残るのは目に見えていた。
実はセフィリアはこの傷を完全に消そうと、どころか、戦いの記憶さえも消して自身が刻んでしまった恐怖心を消そうとしたのだが、サリィ自身がそれを拒んだのだ。それはリカン、ゴスペル、オーギュストも同様だ。
ゴスペルなど、内臓にもろに衝撃を受けたことになるのでそのダメージは計り知れないが、それでも最後には自身の足でここまで戻ってきたのだから、凄まじい精神力である。
もっとも黒騎士が大剣を杖代わりに重い体を引きずる姿は不気味でしかなかったが、警備隊などにつかまることはなかったのは、ここがそういった容姿の者が多く出回る迷宮都市だったからこそであろう。
話はそれたが、4人が傷を癒すことを拒んだのは、それではあの戦いで得るものがなくなってしまうからだ。
極限の恐怖。それを乗り越えることで得るものがあることは間違いない。ある意味では、それは他のいかなる訓練であろうと得ることのできない力かもしれない。
この反応に驚かされたのはセフィリアだ。
彼女からすれば、人は恐怖を消したがるものだというイメージが強かった為、まさかこのままでいいと言われるなどとは思っていなかったのだ。どころか、ひょっとすればこの4人はここで別れることを選ぶのではないかとさえ思っていた。何せ、セフィリアは最終的に手加減を加えたりすることで生かすとしても、戦う時は本当に殺す気で襲い掛かる。今回もそうであった。
殺されそうになった相手とは、どんな理由があっても一緒にはいたくないものだ、そう思っていたのだが。それを口にしたとき帰ってきたのは呆れ顔と笑いであった。
「それを言ったら、カレラさんだって元は敵だったし、多分多くの人を殺してるよ? 今更じゃない」
とはサリィの言葉だ。
もっともである。
そもそも結局は本人がどう思うかなのだし、セフィリアがどう思ったところであまり意味はないのだろう。
しかしそれは決してセフィリアにとって問題あることでもなく、むしろ喜ばしい事であった。
確かにセフィリアが特別関心を向けているのはイアだが、何もそれ以外の誰もがどうでもいいというわけではない。仲間たちに成長の兆しが見えたことは素直に嬉しい事であったのだ。
迷宮では”まさか”の”連続であったが、それで仲間との関係がぎくしゃくするということはなく、むしろイアは確かな成長をし、仲間たちにも変化を促すいいきっかけになったようだ。思いがけない収穫である。
だがそれだけではない。
何故一行がこの地を訪れる必要があったのか。それはこの地で、イアに金級冒険者となる為の資格を得てもらうためだったのだから。
「はい。 これで更新は完了。 これであなたは晴れて金級冒険者です。 ハイ、拍手拍手~」
「「「「‥‥‥‥‥‥」」」」
職員がイアに金色に輝くギルドカードを手渡すと、なんとも適当な祝福を送った。
余りと言えば余りの反応に、イアだけでなく、他の者達もなんとも言えない表情を浮かべた。しかし職員はと言えばそれに呆れたような表情を浮かべると、面倒くさそうにそのわけを話した。
「あのですね。 周りを見てください。 今は貴方たちが来た時と違って、大勢の人がいるんですよ? 私がばかみたいに叫んだら、どうなりますか? そう。 大騒ぎになります。 しかも今回金級に昇格したのは女性、しかもまだ成人して間もない少女と来た。 馬鹿に絡まれるのが目に見えているでしょう」
そう言いながらも職員が視線を向けた先には、何やらひそひそと話す冒険者の一団があった。
恐らく話を聞いていたのだろう。その視線はちらちらとこちらを向いていた。
「厄介事に巻き込まれないうちに、さっさとここを離れた方がいいですよ? それを抜きにしても、今からは宿争奪戦の時間帯ですし。 いい宿をお探しならお早めに~」
結局職員の態度は出会った時からまるで変わらない淡白な物で、確かに今晩は宿に泊まって体を休めるべきだと、セフィリア達はギルドを去ったのだった。
その後ろ姿を見送った職員は、受付を他の職員に任せると、自身はギルドに設けられている職員の休憩所で先ほど密かにまとめていた数枚の紙を眺めていた。
その目は相変わらずけだるげだが、先ほどまでと違い、何かを警戒するような色が宿っている。
「はあ。 ‥‥‥‥これはこれから面倒なことになりそうですねぇ。 自分に関係ない事なら無視する主義ですが、世界を巻き込んでの争いじゃあ無視なんてできないですし」
本当に嫌そうに呟いた職員は懐からある物を取り出した。
「あーあ。 ガイア様? 私です。 例の方々、時期にアスタリスクに向かいます。 ‥‥‥‥‥ええ、大戦はもう近いですよ」




