例え人外だろうと
無事宿を確保し、一夜を過ごした一行。
部屋分けはセフィリア、イア、カレラで1室。ゴスペル、サリィで1室。オーギュスト、リカンで1室だ。
セフィリアとイアは1セットの様なものだし、ゴスペルとサリィは夫婦であることを考えれば同質なのはおかしい事ではない。オーギュストとリカンは言い方は悪いが余り組ということだ。
カレラは猫の姿をとってさえいればどの部屋でもいいのだが、女性であることを考えれば男2人の部屋にというのも悩みものだし、夫婦の空間に入り込むというのも忍びない。なので必然的にセフィリアとイアと同室になったのだった。
最もそうなったことに何ら不満を言う者もなかったから問題は無いだろう。
そして一夜が明け、いよいよ迷宮攻略の為動こうという時‥‥‥‥‥‥それはおきた。
恐らく一行の中では最も朝が早いイアが目を覚ます。
そしていつものようにとなりに眠るセフィリアを起こそうと寝返りをうとうとした時。その耳に甘い声が入ってきたのだ。
「ふふふ、セフィリア‥‥‥‥‥ 貴方誘ってたの? こんな扇情的な寝姿‥‥‥‥‥」
「動きやすいからこれにしただけだ。 それよりも、やるなら早くしろ。 イアもいるんだ‥‥‥‥‥」
ギシリとベットが軋む。
困ったようなセフィリアの言葉に、しかし吸血鬼は面白そうに笑いながら答えた。
「あら、いいじゃない? 私には必要なことだし‥‥‥‥‥ 私はイアちゃんに見られても何も問題ないわよ?」
「‥‥‥‥‥いいから」
「ふふふ、それじゃ‥‥‥‥‥ イタダキマス」
「何やってるの!!」
そしていよいよナニかが行われようとしたその時、いよいよイアは我慢できずに振り返った!
「む」
「あら、起きてたの。 おはよう、イアちゃん」
「‥‥‥‥あれ?」
そこに広がっていたのは目をそむけたくなるような桃色空間、ではなく。
仰向けになったセフィリア、その首元からたった今顔を離した、上にまたがる吸血鬼のカレラの姿であった。決していかがわしいことをしていたわけではないことは、セフィリアの服があまり乱れていないことからも明らかだ(カレラは猫の姿になるときに裸になっているため何も着ていない)。
では何をしていたのか。
カレラの口から覗く長い犬歯からは、見覚えある紅い液体が滴っていた。
吸血をしていたのだ。
カレラはベッドに血がつかないよう舌でそれを舐めとりながら、試すようにイアを見やった。
「どう? 私は吸血鬼だから血を吸わずにはいられないの。 もちろん人の血でなくても生きてはいける。 けれど人の生き血の味は忘れられない。 ‥‥‥‥気持ち悪いと、思うかしら?」
カレラがイアに見られてもかまわないといったのはこのためであった。
カレラはイアとの距離が近づいてきた今、改めて自身が吸血鬼であることを認識しているか、そのことについてどんな感情を抱いているか、確認しようと思ったのだ。
それに対し、イアは顔を赤らめさせたまま「何をいまさら」と呟いた。
「別に何とも。 それで私たちを襲おうっていうんだったらまあ‥‥‥‥‥ でもカレラさんはそんなことはしないでしょ? ならいいんじゃないかな。 しかも私から吸っているならまだしも、セフィリアさんからだし。 セフィリアさんがいいっていうんだったら、いいんじゃない? 吸っちゃっても」
元よりメンタル面ではパーティー内随一の強さを持つイアである。
そもそもカレラが吸血鬼と聞いた時点で「血、やっぱり吸うのかな」などとしれっと思っていた。
だから今更血を吸う光景を見たところで何とも思わないのである。
その答えにカレラは目を丸くし、セフィリアはそのイアの答えにどこか誇らしげだ。
しかしやはり嬉しかったのだろう。
カレラはニッコリとほほ笑むと、そのまま上体を起こしていたイアへと抱き着いた。
「!?」
「ふふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃない。 さすが、セフィリアの弟子ね」
「あ、あの?」
「いいことを教えてあげる。 吸血鬼にとって吸血は相手に感謝、そして愛情を示す行為でもあるのよ」
「ま、まさか‥‥‥‥」
「吸血鬼の吸血は相手に苦痛を与えない代わりに快楽を与えるの。 大丈夫、ちょっとちくっとするだけよ?」
「ちょ、ちょっとまっ‥‥‥‥‥‥」
「ダ~メ♪」
その後すでに起きていたゴスペル、サリィ、そしてオーギュスト、リカンがリーダーであるセフィリアの元へと訪れ、中から漏れる甘い声にいらぬ邪推をしてしまったを責めることはできないだろう。
さて、セフィリアもいつもの服装へと着替え、いよいよ迷宮都市バビロンの冒険者ギルドへと向かう一行であるが、今回はいつもとは違うことがある。それは6人と1匹ではなく、7人になっていることだ。
「うーん、やっぱり猫の姿より人の姿でいる方が断然気持ちがいいわね~」
そう、カレラが猫の姿ではなく、人の姿、つまり吸血鬼としての姿をさらしているのである。
もちろん直射日光は吸血鬼にとっては天敵であるため、黒いフード付きのコートを着ていたが。なぜ白ではなく、熱を集めやすい黒色を選んだのかは単にファッションだというが。
「カレラ、お前の装備は本当に必要ないのか? 武器は魔法で攻めるお前には不要だとしても」
「いらないわよ。 そもそもこの体に致命傷を与えられるのなんて、言っておくけど貴方ぐらいだからね?」
カレラの体は驚異的な再生能力を持つがために傷を負うことはあれど致命傷を負うことなどさほどない。
カレラに致命傷を負わせるには、再生が追い付かないレベルの過剰攻撃を打ち込まねばならないのだ。
現状それができるのはセフィリアだけである。
そんな話をしながら、改めて2人が如何にぶっ飛んだ存在であるかをパーティーの仲間たちに認識させつつもいよいよ迷宮都市バビロンのギルドへと辿り着いたのであった。
迷宮都市バビロンのギルドは王都にある物と同等以上の大きさを誇る石造りの建物であった。
しかし今は珍しいことにその中にある人影はごく少数だ。
それもそのはず、このギルドの役割はもっぱら迷宮関係。
そして迷宮には定員が設けられており、早い者勝ちだ。
うまみの多い迷宮はそれだけ早く埋まってしまうし、であれば、必然的に早朝に冒険者たちが集まるのは当然の事で、ちょうど迷宮に冒険者たちが移動してしまっている朝と昼の間の微妙な時間帯に人がいないことも必然である。
ではセフィリア達も迷宮に潜ることができないのではないのか?と思うかもしれない。
だが安心してほしい。
一行が目的とする金級冒険者に上がる為の条件に用いられる迷宮が、うまみの多い迷宮、言ってしまえば”ぬるい迷宮”に入るわけがないのだ。
そしてそれは”試練”の王がいるとされる「試練の迷宮」も同じことである。
「げえ‥‥‥‥ いらっしゃませ~、ご用件は何でしょう?」
明らかに面倒くさそうに顔をあげ、嫌々言葉を発したのはまだ年若い女性職員だ。
激務に追われたせいだろう。酷く眠たそうである。
そのおかげでセフィリア達の姿を見ても驚くことすら忘れた様であったが。
「それで‥‥‥‥ どういったご用件でしょう?」
「ああ、”試練の迷宮”に行きたいんだ」
「ハア~~~~~? 試練の迷宮~~~~? なんであんなトチ狂った場所に?」
「金級冒険者に上がる為だ。 迷宮攻略をしないといけないだろう?」
セフィリアの言葉に女性職員は何を言ってるんだとばかりに眉をひそめたが、言っても無駄だと思ったのだろう。大きくため息をつくとテーブルの下をガサゴソとあさり、魔導具を取り出した。あの能力を確認するための魔導具だ。
「ではこの魔道具で皆さんの能力を確認させていただきます。 試練の迷宮は確かに金級冒険者に上がる為の条件である”迷宮攻略”の対象ではありますが、その難易度ゆえに一定値以上の能力がなければ許可は出せません」
「そうか」
と、セフィリアはそこで思い出す。
そういえば自分は過去にこの魔道具を破壊してしまっているということを。
このままでは前回の二の舞、また神殿に行く羽目になってしまう。
余り神に対して好印象を持っているわけではないセフィリアとしては、それはさけたいところであった。
しかも今回はそれだけではない、カレラがいるのだ。
カレラにこのまま魔道具を使わせてはそれこそ騒ぎどころではない、すぐにでも襲い掛かられてしまう可能性すらある。
そんなことを考えながらも、ひとまずイアに”審査”を受けるよう促す。
イアならば現時点でこの審査を受けることに何ら問題は無いからだ。
「はい、やり方はわかりますよね? じゃあさっさとやっちゃってください」
やる気のない声にせかされて、イアはやや緊張した面持ちで魔導具へと手を伸ばす。
なぜならば初めて、今までの訓練の成果が文字として、数値として現れるからだ。
そして血を出していた指を魔道具を押し付けると、血はイアの能力値を、称号を示し始める。
それを見ていた職員の目から、眠気が飛んだ。




