詩人は好色家?
俺はとある才能をもって生まれた。
その才能とはすなわち、音楽の才能。
俺は妖精族であり、その中でも古よりの伝承を語る一族の子として生まれた。
エルフには歌を歌う、楽器を弾くといった風習はなく、ただ語り、知識を探求し‥‥‥‥‥ともかく娯楽というものが存在しなかった。
俺もそんな環境の中で育つがゆえに娯楽を知らぬままに育つはずであったが、俺は気づいてしまったのだ。
森に響く鳥のさえずり。風が木の葉を揺らす音。清涼な水が流れゆく音。そのどれもが、自然の奏でる”音楽”であることに。
そして俺は、周囲が一切興味も持たぬ音楽を、たった一人の手で極めていくことにした。
幸いなことに俺の家には伝承というものは数多く残っており、唄にする内容に関しては事欠かなかった。
俺は人知れぬ場所へと足を運んでは唄を歌い、そして手作りではあった物の楽器を作っては演奏した。
そしてそんな俺が更なる音楽を、唄を求めて森の外、外界に興味を持ったのもまた、当然の流れであって。
俺はいくつもの英雄譚が生まれるであろう迷宮都市バビロンに行きついたのだ。
「‥‥‥‥‥で? それがどうアンタがここに来ることにつながるんだ?」
黒騎士姿のゴスペルが大剣を握ったまま、底冷えするような声で自身の経緯を語りだしたエルフの男に問う。
そう、このエルフの男、まだ女性陣が風呂に入っている時に突然ゴスペルとオーギュストの前に姿を現し、そのまま風呂へと入ろうとしていたところを2人に捕まっていたのだ。
ゴスペルに関しては妻であるサリィも中にいるのだから当然の怒りである。
エルフの男はオーギュストによって縛られたまま、若干涙目になりながらも自身の持っていた楽器を顎で指して言った。
「それが聞いてくれ! 実はこの楽器なのだが、とある妖精が宿っていてな。 様々な物を察知する能力を持っていて、俺も何度も助けられこそしたのだが‥‥‥‥‥ いかんせん女に目がないのだ。 そのせいで何度旅の途中の女の元に誘導されたかわからん‥‥‥‥‥‥ 今回もこのダメ妖精の誘導に従っていたらこうなったのだ!」
『おい! 俺のせいにする気かよ!』
エルフの男の言葉に、なんと男が持っていた弦楽器(今は傍の木にたてかけられている)から声が聞こえ、そして抗議した。
対するエルフの男はそれを鼻で笑うと一言だけ口にする。
「ふん‥‥‥‥ おいダメ妖精。 好きな物を言ってみろ」
『女だっ!』
「ほらな?」
エルフの男の呆れた声にゴスペルとオーギュストも頷くしかなかった。
結局エルフの男の縄はほどかれ、代わりに精霊の依り代になっているという楽器は罰としてジキの遊び道具にされた。だがエルフの男は怒るどころか、むしろやってくれと頼む始末であった。それは音楽家としてはどうなんだと思わなくもなかったが、相当エルフの男も我慢の限界が来ていたらしい。
現在精霊はジキにもみくちゃにされて悲鳴を上げていた。
「それでは2人、いや、今温泉に入っている女性も含めれば6人か‥‥‥‥ で、旅をしている最中で、次の目的地は丁度迷宮都市であったと」
「そうだ。 で、道中たまたま温泉を見つけたんで、リーダーの許可も出て一休みしようっていう話になったのさ」
「わしらも風呂には入りたいと思っていたからなぁ」
「なるほど。 ところでこのジキ達は‥‥‥‥‥」
「ああ、気にすんな。 悪さするような奴らじゃないからな」
『キキキッ!!』
『キキー!!』
『うわ、やめろ猿ども!! うおおおおおお!?』
ジキ達は相変わらず男3人の周囲にたむろしているのだが、今は喋る楽器に興味津々の様だ。
子供が遊んでいるようで微笑ましく見えなくもない光景にエルフの男も苦笑いだ。
しかし一通り話を聞き終えたエルフは表情を真剣なものにすると、2人に頭を下げる。
最もそれは2人も予想していたことだ。そもそも彼が妖精の言葉を信じ、ここを訪れたのはその為だったのだから。
「お願いがある。 迷宮都市まででいい。 その度に俺も同行させてはもらえないだろうか? 王都での”死”の王を打ち破った女性といい、若き銃士として名高いヘンゼルを下した少女と言い。 あなた方の旅に同行すれば、きっと素晴らしい音楽が作れるような気がするのだ‥‥‥‥‥‥!」
それは同じように、”最高の武具を作りたいという”夢を持つオーギュストの目から見ても、間違いないと断言できるほどの心からの願いであった。
しかしだからといってすぐに頷くことは、残念ながら2人にはできなかった。
ゴスペルはいたって真剣な口調でエルフの男に質問する。
「なあアンタ。 アンタは女好きか?」
その質問に一瞬だけエルフの男は憤ったが、しかしすぐに納得する。
そもそも旅のトラブルでも多いのが男女間の関係なのだ。しかも聞けばこの旅の一団の女性は皆、美女ばかりだという。そこはやはり、聞かずにはいられないことなのだ。
エルフの男は「自慢ではないが」と断った後に口を開いた。
「俺を含め、エルフは長命であるがゆえに基本的に性欲が無い‥‥‥‥‥とまではいわないが、ほぼ皆無だ。 美しい女性を見たとしても、婚期を過ぎた俺では最早性欲もわかない。 まあ美しい女性だ、と思うことはあっても発情することはないと断言しよう」
「それを証明する方法はあるか?」
『なら俺が証人になってやるよ! そいつはマジで枯れてやがるって! なんせ色街の美女に誘われたってすげなく断るような奴だからなあ!! 俺の真名、シャマの名に誓って証言してやるよ!!』
「ほう?」
横から入ってきた精霊の言葉にオーギュストが面白そうにこぼす。
精霊にとって自身の名前とはそれなりに重いものであるらしく、人で言う家名のようなものだとか。
その為精霊が自身の真名に誓った宣言は基本的に嘘偽りはないのだという。逆に疑われると怒るらしい。
予想外の所から援護射撃が入ったことによって、ゴスペルとオーギュストもエルフの男を疑う要素はなくなった。
であるならば。
ガシィッ!!
「!? ど、どうした? お二人共‥‥‥‥‥」
突然両肩を2人によって掴まれ、エルフの男はおそるおそる声をあげるが、顔をあげた2人の表情は(ゴスペルは鎧を着こんでいて見えないが)実にいい表情であった。
性欲がさほどない?最高ではないか!!
まさに彼こそ、2人が旅に求めていた人材である!!
「いやあ何、そういう事なら迷宮都市までと言わず最後まで旅に付き合ってはくれないかと思ってな」
「そうだそうだ。 なにせこの旅に男はゴスペルとわししかいなかったからな!!」
「は、はあ」
「後はセフィリアさんの判定次第だが、アンタならまぁ‥‥‥‥‥ 問題は無いだろう。 悪人ではなさそうだしな」
そんなことを話しているうちに、女性陣の声が近づいてきた。
どうやら温泉からあがったらしい。
「ま、まだ名前も聞いてないし、ちょうどいいことに今から俺たちは湯につかる。 そこでゆっくり話をしようじゃないか」
そして男達も温泉に浸かり、女性陣にエルフの歌い手のことを紹介するのは翌日のことになるのだった。




