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変化する世界を貴方と  作者: 黒煉
4・王都、騒乱の一夜
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力ある者の責務

 



 「『月の嘆き(ルナ・グリーフ)』!!」




セフィリアが生み出したその魔法。


その1つ1つが極大魔法数発分の魔力を秘めた、淡い光が”死”の王へ襲い掛かる。



その数は数えるのもばかばかしくなるほど。



死を司るがゆえに、不死であるはずの”死”の王。


しかしセフィリアのこの魔法を前に、”死”の王はおそらく過去最高であろう攻撃をもって抵抗した。



”死”の王の胸部、肋骨部分が開き、そこによもやセフィリアの極大魔法を超えるのではないかというほどの膨大なエネルギーが集まっていく。



それは余りのエネルギー量に周囲に黒のスパークが走る程。





そして”死”の王のエネルギーの塊が放たれた。



放った際の衝撃によって”死”の王の巨体が地面を陥没させ、爆音を響かせる。





しかしその抵抗は無駄に終わる。



確かに極大魔法をも超える”死”の王の一撃は恐ろしい。


しかしセフィリアが生み出した魔法、もう魔法とも呼べないかもしれないそれは数にして数百を超え、そのうちの2発もあれば、たやすくその一撃を超える力を秘めるのだから。



”死”の王の一撃がセフィリアの放った光、その内の一粒を呑み込んだ。




キイィィィ―――――――――――――――――――――




しかし”死”の王の一撃はそれ以上の結果を齎すことはできなかった。



ただでさえ臨界寸前まで凝縮されたエネルギーが、衝撃を受けてあげたのは甲高い音。


もっともそれが聞こえたときにはもう遅い。



蛍のように小さく弱々しかった光が目も眩むほどの光を放ち、そして





ドッガァァァァァァァ―――――――――――――――ン!!!





爆発した。



その爆風は衝撃波だけでわずかばかり空に残っていた雲を吹き飛ばし、いとも簡単に”死”の王の一撃を逆に呑み込み、塗りつぶす。



しかし忘れてはいけない。



これは放たれた光の、その1つに過ぎないことを。



残りの数百の光の全てが”死”の王に直撃する。





ギャアアアアアアアアァァァァァァァ!!!???





”死”の王が断末魔の悲鳴を上げる。



無理もない。



1発で自身の渾身の一撃を上回る光が当たって爆発し、巨体の半分が消し飛ばされ、”死”の王が再生するのも待たずに、あるいは同時にまた大爆発が襲うのだ。


そしてそれが1発づつ弾けるたびに、地面がえぐられ、あまりの熱量に大地は焦土と化す。





やがて5分が経ち、ようやく轟音と光がおさまった。



残ったのはまるで隕石でも落ちてきたかのような有様になった大地と、そこに再生すら追いつかず、たった一つのすすけた黒い髑髏となって転がった”死”の王。



セフィリアがその前へと降り立つ。



逃げようとしているのだろう。


黒い髑髏から蔦が生えてきたかと思うと、それを足代わりに脱兎の如く走り出したのだ。



もっともそれで逃げられるはずもなく、あっという間に追いついたセフィリアが黒い髑髏を掴み上げる。




カタカタカタッ!!



「‥‥‥‥‥悪いが何を言っているのかわからないし、聞こえたとしても聞く義理はない」




セフィリアは必死に何かを訴えようとしているのか、顎の骨をせわしなく動かす”死”の王に非常に告げる。



そして一気に髑髏を握る手に力を込めた。


ミシミシと軋むような音を上げ始めた髑髏。



”死”の王は最後の抵抗とばかりに蔦を伸ばし、セフィリアの腕に絡みつかせてその茨を突き立てた。



しかし傷こそつくものの、血さえ流れずにそれは瞬く間に再生してしまう。





無駄と分かっているだろうに、なおも抵抗を続ける”死”の王にしかし、セフィリアは言った。




「ただ。 お前が背負っていたその力は、そして責務は、私が継ごう」




カタッ――――――




その言葉に、必死の抵抗を続けていた蔦がその動きを止め、髑髏の視線が心なしかセフィリアをじっと見つめた気がした。




「それが私の責務なんだろうから」




セフィリアは何となくではあるが、悟っていた。


自分は今のままでいることはできないだろうと。


力ある者としての責務からは、逃れられはしないのだと。




「だから、もうお前は消えるといい。 そんな仰々しい名前は捨てて」




その言葉を、”死”の王は待っていたのだろうか。



セフィリアの腕に絡みついていた蔦は力なく垂れ下がり、まるで委ねるかのように一切の抵抗をやめたのだ。



そしてセフィリアは、一息にその髑髏を握りつぶす。


砕かれた髑髏は、黒いガラス片となって散らばり、やがて消えた。



しかしセフィリアは己の中にかつての力の断片が再び宿ったのを感じ、そしてそれと同時に、セフィリアは一つのことを悟ったのだ。




「ああ、そうだよな」




力ある者の責務。



セフィリアに課せられたそれは、”世界創造の力”という、いわば一つの流れを巡らせるための歯車としてあることだった。


そしてかつての力の全てを取り戻すということは、再びその歯車になるということ。そして、歯車に”心”は要らないのだ。





「私の旅も、どうやら終わりはあるらしいな」





セフィリアは、セフィリアとして生き続けることは、できないのだと。






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