忍び寄る者、其れは冷ややかな”死”
グロ系な話になります。また、短めです。
ドワーフの鍛冶師であるオーギュストが旅に加わり、一行は王都ナルメア目指してケトルーアの街を旅立った、のだが‥‥‥‥
「う~ん‥‥‥‥」
「どうしたのセフィリアさん?」
「いや。 何か忘れてる気がしてなあ。 何だったか?」
何かを忘れている気がしないでもないセフィリアだった。
□□□
「おいっ!! あの女はまだ見つからないのかっ!!!」
「ひっ!? も、申し訳ありません!! 調べようにも、ギルドや冒険者たちがあの女に関する情報を隠すので調べようがないのです!!」
「この役立たずがあぁ!!!!」
側近らしき男を怒鳴りつけるのはギルドでセフィリアを捕まえろと叫んだ商人、モロ・ポーだ。
実はこの男、大商人などと言っているが、それは自称でしかない。
実際は王都でとある商会の下で働く商人だったのだが、上がモロ・ポーを首にしたのである。
それも当然でこの男、商人としても人としても最低な人物だからだ。
着服するわ、不正は繰り返すわ、手に入れた給金のさほどはギャンブルや娼館につぎ込んでいた。
挙句にはそこでのつながりで裏の者達と関りを持つほどだ。そんな人物を自身の下に置いておこうと思うものの方が少ないだろう。
そんなものがいると知れれば商会の信用すら地に落ちかねないのだから。
なのでこの男は現在ただの最低男に過ぎないのだが、何故未だ商人としてケトルーアの街にいることができるのか。
それは裏の繋がりのおかげであった。
モロ・ポーは裏組織の売人としての顔も持っていた。
その為、仮に商人ではなくなったとしても、裏の売人として商売を続けることはこの男にとって容易だったのだ。
実際ばれなければ、商人も売人も変わりはしないのだから。
そうしてケトルーアに腰を据えて根を張ったモロ・ポーという害悪は徐々にこの街を腐らせていき、その張本人にとっては実に居心地のいい、何でもやりたい放題な場所に変わっていたのだが‥‥‥
「クソッ!! ギルドめぇ‥‥‥‥ 弱みを握られておとなしくしていたというのにいぃ‥‥‥!!」
モロ・ポーがこうも好き勝手ができる理由。
それはギルドの弱み、不正などの情報を握っていたからであった。
ケトルーアの街には騎士団がない。
そういった街ではギルドが治安維持の役回りになるのだが、そのギルドが機能しなくなっていたがために、モロ・ポーが思うがままにできていたのである。
だが不正を暴露されることより、セフィリアからの報復を恐れたギルドは、モロ・ポーに対して様々な攻撃を仕掛けてきたのだ。
腐っているとはいえ、住んでいる人々の全てが悪人というわけではない。
モロ・ポーの名は完全に地に落ちてしまっていた。
「ふんっ、まあいい。 まだ手がないわけではない。 ケトルーアもなかなか居心地がよかったが、次はもう一度王都で返り咲くのも‥‥‥」
そうして次の行動の算段を考え、ぼそぼそと呟いていた時だった。
「あら‥‥‥‥ 遅かったかしら」
「!? だ、誰だっ!?」
モロ・ポーは突然聞こえた聞き覚えのない声に驚き、叫ぶ。
しかしあたりを見回しても、モロ・ポーの居座る商会の一室には誰もいなかった。
「‥‥‥っ糞が!! 俺を驚かせようッてか!? どこのどいつだか知らねえがさっさと出てきやがれ!!」
苛立ったモロ・ポーの声。
そしてそれに応じて、1つの影がよたよたと、いつの間にか空いていたドアから現れた。
「あ、ああ、モロ、様、タたしけ、助け‥‥‥‥‥」
「なんなん、だ‥‥‥‥‥‥」
そこにあったのは変わり果てた姿の側近であった。
だがそう判断できたのはその服装からであり、外見は最早人とすら判別がしがたいありさまになっていた。
肌はミイラのように干からびており、何故か歩いた後には白い粉のようなものが落ちている。
その粉の正体はよく見ればわかった。
側近だったものの背が徐々に縮んできているのだ。足の肉が崩れ、それが白い粉となって通り道に残っているのである。
「ひ、ひいいいいいいいいいい!? よ、寄るなあ、来るなぁぁ!!!」
モロ・ポーは余りにも恐ろしく変わり果てた側近だったものに手元にあった陶器を投げつけた。
陶器は頭部に直撃したものの砕けることはなく、どころか乾いた音をあげて頭の方が弾け、陶器は床に落ちて割れた。
「あら。 これは貴方の付き人ではなかったの? まあ、もう死んじゃったけど」
「ひい!?」
呆然とへたり込んでいたモロ・ポーの耳に、背後からの囁きが聞こえる。
それは透き通るように綺麗な音であったというのにまるで心に響かず、どころか恐ろしい怪物の吐息のようにしか思えず、1秒ごとに体の芯から熱が奪われていくようですらあった。
「せっかく私が焦がれてやまない人の訪れを感じたというのに‥‥‥‥ そうやって来てみれば誰もそんな人物には心当たりがないなんて見え透いた嘘をつく始末。 吐かせるのに苦労したけど、成程。 やっぱりその人がここにいないのは貴方のせいなのね?」
「な、なんのことだ、誰だそいつは、誰なんだ? そいつのことを知りたいっていうんだったら、教える、何でも教えるから‥‥‥‥い、命だけは‥‥‥‥!!」
ここでしゃべらなければ、間違いなく殺される!
そう直感で悟り、背後の人物に懇願するモロ。だがそれに対する反応は、ひどく冷たい笑いであった。
「あら? それは無理だと思うわよ。 だって‥‥‥貴方もさっきまでその人を探そうと必死だったそうじゃない?」
浮かぶのは白い長髪の女性の姿。
モロは必死に記憶を手繰り寄せ、できる限りの情報を得ようとするも、思い出せたのは名前だけ。
「あ、あのセフィリアとかいう、女の事か‥‥‥‥?」
「セフィリアっていうの? そう。 その人のことよ」
「あ、ああ、そ、それは」
最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ最悪だ!!
よりにもよって姿をくらませた相手のことを聞かれるだなんて!!
モロの中でその言葉だけが繰り返される。
黙り込んだモロに、背後の人物はため息をついて「やっぱり何も知らないのね」とこぼした。
「ま、待ってくれ!! 何か、そうだ、俺を生かしてくれれば裏の奴らとつながりが持てるぞ! 悪い話じゃない、なんなら金だって、なんでも、だから、だから‥‥‥‥‥!」
興味を失ってはならない、なんとかして自分が生かす価値のある人物であると思わせなければ!!
その一心で語り掛けるモロ。
だがそのどれも、背後の人物の気を惹くには至らなかった。
「そのどれも興味無いわ。 私が求めるのは静かな死。 ただそれだけなの」
「あ、ひょが、そなあああああああああああああ!?阿嗚呼ああああァァァァァァァア!!!」
背後から伸びた手がモロの腹に爪を突き立てた。
途端、そこを内から引き裂いて伸びたのは鮮血に濡れた植物のツタ。
「卑しい人間は、悲鳴も醜いわね。 もっと綺麗な悲鳴をあげられないのかしら?」
「ヴォアアエエエエエエエエエエイイイオアオアオオイギイイイイイイイイイイイイイイイイ」
最早言葉になっていない悲鳴をモロは上げるも、誰も駆けつけはしない。駆けつけるべき側近はただの粉になり果てたのだから。
ツタはなおも伸び続け、次第にモロの体へと巻き付いていく。
腕に、足に、首に、頭に。
何重にも絡みつき、戒めるかのようにその体を締め上げる。
「ああ、もう聞こえてないかしら。 まあせめて、今まで自分が重ねてきたことのつけと、私を煩わせたことへの償いの為に苦しみながら死に絶えるがいい」
「―――――――――――――――!!!!!」
ケトルーアの街。
そこで自身のやりたい放題にしていた悪人、モロ・ポーを処罰すべくギルドより派遣された冒険者たちは、自身の店の一室で腹から植物が生えた異様な姿になって絶命したモロ・ポーの姿を発見した。
その顔は苦痛からかひどく歪んでおり、あまりの異様さに発見した冒険者の中には病んでしまった者さえいた。
また、街のあちこちで同じように体から植物を生やした死体が発見され、その犠牲者の誰もがセフィリアによからぬことをしようとしていた者達であった為、事情を知る者は全員これがセフィリアの報復だと思い、その後一切そのことについて口を開く者はいなくなったという。
その植物とは鮮血に濡れて美しく花を咲かせた薔薇であった。




