頂点の会談
※2018/2/20 誤字修正
セフィリア達がちょうどケトルーアの街を発つ頃のこと。
以前セフィリアが女神フォルセティによって招かれた空間。厳密には別なのだが、今は置いておくとして。
そこで2つの存在が向かい合っていた。
1つは人型、それも幼女の姿を。
もう1つは黒い靄のような、不定形の存在であった。
「それで、今回はどんな要件なの?」
幼女が不機嫌そうな声音で尋ねる。
すると、機械的といえばいいのか、不気味な音声で返答が返された。
『”悪魔”の王の契約者が”母”と接触した』
「なんですって!?」
幼女が叫ぶ。
「まさか何もしていないでしょうね?」
『してない、とは言えない。 ”悪魔”の王の契約者が母に戦いを挑んだ。 もっとも軽くあしらわれていたが』
「ま、当然でしょう」
幼女はその”悪魔”の王の契約者とやらの行動に頭を抱えたくなった。
たかだか一つの星の生命での強者であるというだけで、母と対等に戦えるわけがないのに、と。
それは、”悪魔”の王の力を借りたとしてもだ。
そもそも幼女含む”神”や、目の前に漂よう黒い霧のような存在を含む”アーカルム22王”は、その力の強大さ故に世界への干渉には必ず”縛り”がかかる。
まして人の子に力を与えるなど、本来の力の半分も扱えればいい方だろう。
もっとも神の場合、存在定義が”世界の調停”であるため、力を与えることすらできないが。
「全く。 そもそもなんで私以外の神や、あなた以外のアーカルムの王達は母さんのことを知らないのかしら? 一応他の神には私達の起源を話したからある程度の理解は得られたけど」
『生憎、俺達は神のようにまとまりなどない』
「面倒な話ね」
『全くだ』
神と、22の王達。
それぞれが”世界の調停”、”新世界の創造”という相反するような存在理由の元、世界が正しく巡る為の存在として君臨している。
そして違いはそれだけでなく、神がこの幼女を中心として統率を持った動きをしているのに対し、王達は各々が自身の考えの元で行動している。
今も3つもの派閥に分かれ、対立しているのがいい例だ。
『俺の一声でまとまるような、そんな者達であればよかったんだがな‥‥‥‥‥』
「ご立派な”世界”の王の名が泣くわね」
『力では間違いなく俺が頂点に座すだろう。 だが自身より上の存在の言葉よりも、アーカルムの王達は各々の本能にも似たそれに従うんだよ。 最も、俺は例外であるが』
「それだけ聞いたら、まるで獣ね」
『否定はしないな』
幼女の皮肉に、”世界”の王は相変わらずの感情の読み取れない不気味な音で返答する。
それに思うところがあったのか、幼女はガシガシと頭を掻いた後、ビシッと黒い霧改め”世界”の王を指さして言い放つ。
『なんだ?』
「貴方の声、聴いてて不快なの! 貴方も何かの形をとることはできるでしょう? ちゃんと実体を持って聞き取りやすい声で話しなさいよ!」
『実体‥‥‥‥ そもそもとる意味がない気がするんだが』
「あら、そうでもないわよ? この空間でも、世界に干渉さえしないのであればある程度の自由はあるわ。 例えば‥‥‥‥‥」
疑問に思ったのかぼやく”世界”の王の前で、幼女はぱちんと指を鳴らす。
するとあいまいな空間が明確な形を持ち、やがて豪華な部屋の一室が作り出された。
中央には食事の置かれたテーブルが、そしてそれを挟んで2つの椅子が置かれている。
幼女は自身の傍の椅子に腰かけると、テーブルの上に置かれた食事、巨大なステーキを切り分け、自身の口に含んだ。
美味だったのか、その表情は満足げだ。
「こうして人の子の暮らしを模して、娯楽に興じることもできるわ。 これに最初に気付いたのは他の神なのだけど、これが悪くないのよね。 私たちが人の子に影響された存在であるのも影響しているのかもしれないけれど。 最近では人の子の形を取らない、ひいては実体を持たない神の方が珍しいくらいだわ」
『ほう‥‥‥‥ それは何とも。 じゃあ』
思い立ったがなんとやら。途端黒い霧が収束して、一人の男の姿を創り出す。
そして現れたのは、黒髪黒目の青年であった。
”世界”の王は自身の肉体を見て満足げだが、しかし幼女は顔をしかめて一言。
「服も着なさいよね」
「要望が多いな」
ところが”世界”の王は服についての知識があまりにも乏しく、決まる気配が無かった為、結局、”世界”の王が纏ったのは幼女が与えたローブであった。
そんな”世界”の王は現在、幼女の生みだした食事に舌鼓を打っている。
「これはうまいな。 今までこんなことを知らず過ごしてきたことがとても惜しく思える」
「でしょう? 人の子の娯楽はいいものだわ」
幼女は”世界”の王の言葉に肯定を示すと、改めて”世界”の王に要件を確認する。
「それはいいのだけれど、私に会いに来た要件はさっきの話だけじゃないでしょう? 確かに重要な話ではあったけれど、結果的に問題がなかったのだから、貴方がここにわざわざ伝えに来るほどの話ではないわよね」
幼女の推察に、”世界”の王は頷く。
「ああ、実はアーカルムの王達が何故人の子に力を与えたのか。 その理由が分かったから伝えに‥‥」
「そっちを早く言いなさいよ!!」
「悪かったよ。 まあ聞け」
そんな重要なことを先に言わなかったことに憤慨する幼女をなだめつつ、”世界”の王はそれを話した。
「全ては”教皇”、”女教皇”の王の差し金だ。 奴らが他の王をそそのかしたらしい」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」
「え?」
「ん?」
沈黙の後、それ以上何も話そうとしない”世界”の王に対し、噓でしょ?といわんばかりの幼女の反応に”世界”の王は首をかしげる。
「いやいやいやそれだけなの!?」
「それだけとは?」
「じゃあ聞くけど。 どうやって他の王をそそのかしたの?」
「さあ?」
「‥‥‥‥なんで他の王をそそのかしてまで人の子に力を与えていたの?」
「わからん」
「そこが知りたいんだけどっ!?」
幼女の叫びに青年は目を丸くした。その反応に幼女は表情を引きつらせる。
力みすぎたのか、幼女の握っていた陶器のコップの持ち手が砕け、テーブルに転がって中の飲み物をぶちまけた。
「いや、でもちゃんと理由は調べただろう?」
「だからって理由だけ調べて『はい、終わり』ってなる? 普通!?」
「そうは言われてもなあ。 知りようがないだろう」
「‥‥‥‥ハァ~」
幼女は大きいため息をついて呆れ顔。
”世界”の王はといえば話は済んだとまだ途中であった食事を再開し始めた。
「もう‥‥‥‥ こんな奴らの集団が世界に何かを企んでいると考えるだけで頭が痛いわ‥‥‥‥」
幼女、神の頂点であるガイアは憂鬱な気分にならざるを得なかった。




