迷惑を齎す魔王
※2018/3/18 部分的に修正
片翼と何本かの爪を根元から失った黒竜の前に並ぶのは正座した3人。チビドラゴンは黒竜の顔に寄り添っている。しばし見つめあう3人と2匹。
「「「申し訳ありませんでしたっ!!!」」」
そして3人は示し合わせていたかのようにぴったりなタイミングで頭を地につけ、謝罪した。
『まあ、いいだろう。 わしにも誤解があったようだし、主らもわしも我が子も殺さずに生かしてくれたのだからな』
そんな3人に語りかける黒竜。
竜と呼ばれる生き物は常、特別な存在であり、永きを生きる竜は人のみならず、知識ある者の言葉を介することができるというのは有名な話だ。
つまりは眼前の黒竜はそれだけ長く生きているという事であり、イアとゴスペルは喋ったことはもちろん、それだけ長命な竜に出会ったことに驚いた。
セフィリアはといえば自分たちが負わせた傷を癒そうと竜のあちこちに自身の血を塗りたくっているところであった。
『むぅ、竜であるわしの傷を一瞬で癒すほどの力を秘めた血とは‥‥‥‥ わしを蹴り飛ばす脚力といい、やはりただ者では無い様だな、そちらの御仁は』
「まあな!」
ゴスペルの腕の欠損の再生、その再現のように竜の失われた爪、翼は瞬く間に元の姿形を取り戻した。
ゴスペルは2度目ということもありそこまで驚くこともなかったが、初めてであるイアはそういうわけにもいかずものの数秒でたった数滴の血から肉体が再生されていく様に言葉もないといった様子。
竜はといえば血の数滴だけでそれだけの結果をもたらしたセフィリアの力に唸っていた。
そのセフィリアはといえばいい気になってない胸を張って、イラっときたイアに蹴りを入れられていたが。
ようやく互いの憂いがなくなり、竜は倒れていた体をおこし、改めて名乗りをあげた。
『まずはわしの勘違いで襲い掛かったことを謝罪し、そして殺さず手を引いてくれたこと、我が子を無事なまま返してくれたことに感謝を。 わしは古龍、ニーヴィルぞ』
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ニーヴィルが語った内容を伝える前に、竜について少し説明しよう。
竜には位階が存在する。これは人間などが勝手に決めたものなどではなく、竜の生態として定まっているものだ。
下から順に新竜、古龍、祖龍。
新竜と古龍はそのまま、生きた年月によって分けられる。
生きた年月が100年を過ぎれば古龍だ。
そんな古龍はそれぞれ独自の成長をするため、古龍に同じ姿形のものは存在しない。ニーヴィルという竜のことを3人が知らなかったのは世間一般に知られているのは新竜の種類のみだからである。
そして古龍は総じて強い。
これは長く生きる中で力を蓄えるからだ。
そんな生物がごろごろいてはこの世界全て竜に支配されていそうなものだが、それはない。
なぜかというと古龍に至るまでに自滅する竜が大半だからである。その原因は他でもない竜の”力を蓄える”特性にある。
竜は半ば本能的に強い生物、魔力を含む結晶、果ては漂う魔力そのものなどを取り込み、力を蓄える性質がある。しかし貯め込んだはいいものの、その力に逆に耐え切れずある現象を引き起こすことがあるのだ。
そう、”魔力暴走”による心臓の破壊である。
なので古龍と呼ばれるまでに成長することができる竜はその蓄えた力をすべて受け入れるだけの器を備えた竜のみであり、その数は図らずと少数に抑えられているのだ。
そしてそんな竜の中には竜という枠組みを超えている存在もいる。
それが祖龍だ。
この祖龍、位階として定められてこそいるものの、その領域に到達した竜はたったの2匹しかいない。
至天龍・ヴァルヘイム、地獄竜・ゾアン。
この2匹だけである。
そしてこの2匹は一体いつから存在するのか、それすら定かではない程悠久の時を生きており、ため込んだ力も果たしてどれほどか想像もつかないという存在だ。
この2匹のどちらかが現れたことがあるのは過去に一度ずつ。そしてそのどちらも、現れた、たったそれだけでこの大陸に壊滅的な災害をもたらしたという。
とはいえ、今や伝わるのはその名ばかりで、姿形を知るものなどいないだろうが。
脱線してしまったが、竜とはかくも恐ろしい力を持つ生物なのだ。
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『わしもそれなりの力を持つ竜である。 とはいえ人という生物は強欲なうえに愚かでな。 わしは何もしておらぬというのにやれ竜の子は高値で売れるだの、竜から作った武具は強力だからだのと言って懲りず寝床を探し当てては襲ってくるのでな。 しばらく安住の地を求め、彷徨っておったのよ』
そうして訪れたのが魔族の国、アスタリクにある山岳地帯だったという。
なんでも古龍仲間(竜にもそういったつながりはあるらしい)に魔族の国の住み心地の良さを聞いたからだという。
『魔族とは強きを尊重する種族。 故に魔物であろうと何であろうと、強いものであれば住み着くことを容認すると聞いてな。 わしも即座に移ったのよ。 そうしてわしを見に来た魔族の者どもと戦い、山の一角に巣をつくることを認められたのだ』
するとどうだろうか。
魔族の者たちは竜を認めているため巣を襲うこともなく、更に人間も全くと言っていいほど来ない。
ようやく落ち着いて暮らせる場所を見つけたと喜んだニーヴィルは先にアスタリクに住み着いており、自身にそこへと移り住むことを勧めた古龍と子をなし、育てていたという。
ちなみにニーヴィルは雄だ。
『そうして生まれた子も、巣に押し込めておいてはかわいそうと、近頃では巣に人も寄り付かぬので、山の中であればと子を自由にしておったのだ。 そしてわしは餌を求めて狩りにおもむき、番が巣から子を見て追ったのだが‥‥‥‥‥』
そこでニーヴィルはちらりとセフィリアを見る。
セフィリアは明後日の方向を向く。イアとゴスペルはジト目を向けた。
『わしが狩りより戻ってみれば番が魔王によって組み伏せられた後。 何事かと問えば子を連れ去られ、激怒し周囲を無差別に焼き尽くしたという。 詳しく聞けば子が何かに気を惹かれたようなので番が様子を見ていたところ、あっという間につかまり、そして持ち去られたというではないか。 番は魔王によって動けなくされていたためにわしが子を取り戻そうと動いた、というわけよ』
何故食糧調達で人間の国であるルーヴェン王国すらも離れて魔族の国アスタリクまで行っているのかといろいろと突っ込みたいところであるが、そこはセフィリアの規格外さをしる2人だ。
口にすることはなく、特大のため息をつくだけに落ち着いた。
チビドラゴンは現在、イアの膝の上で丸まって寝てしまっている。
ニーヴィルの話を聞き申し訳なく思ったイアがなんとか起こしてニーヴィルの元へ帰そうとするもくすぐったそうに身じろぎするばかりで起きる気配はない。ニーヴィルはそんな我が子の様子に目を細めながら、イアに起こさなくてもいいと首を横に振った。
『しかし、子がそちらの御仁、セフィリア殿に惹かれたのはその強さ故か』
「? どういうことだ」
『竜は力を蓄える種。 わしはすでにそれなりの力を蓄えたため衰えたが、竜には力あるものを嗅ぎつける鼻がある。 おそらく御仁の力の強大さに惹かれたのであろう』
「ほ~、つまりなにか? 私がうまそうに見えたってことか?」
『人に合わせるのであればそうなるのかのう?』
もっとも到底食えるようなものではなかったようだがのう、と内心ニーヴィルはこぼしたのだが、決して声にすることはなかったのだった。
「しかしそれはいいとして、このままだとニーヴィルだけじゃなくて他にも来るんじゃないか? ほら、時間がかかりすぎだとかって例えばお前の奥さんとかまお「「それ以上言うなっ!!」」
『うむ。 確かに否定はできんな』
「「そんなっ!?」」
必死にセフィリアによって新たなフラグが建設されるのを防いだイアとゴスペルだが、無情にも竜によってそれを認められてしまった。
そして既視感。
「なんか飛んできたな」
『どうやら魔王が来たようだな』
「そっちが来たか」
「ニーーーーーーーーーヴィーーーーーーーール!! お前がてこずる強者はそいつらかああああああああ!!!!」
魔王様、降臨。
□□□
「そしてなぜこうなるっ!?」
「はっはっは!! 強者と戦わずしていつ戦う!?」
「知らん!!」
風吹く草原に、全く似合わない爆音と衝撃波が吹き荒れていた。
それをまき散らすのは白の超越者と赤の魔王。
突然現れたジャミルがセフィリアに襲い掛かり、それをセフィリアが迎撃したところから始まった戦いだ。
セフィリアは剣を抜き、コートも長いマフラーへと変化させた戦闘モード。
ジャミルもまた、女性には似合わないような仰々しい鎧に身を包み、血に染まったかのように赤い剣を握り、振るっていた。
「そういえば自己紹介してなかったな!! 私は魔王兼”悪魔”の王ジャミルだっ!! よろしくな!!」
「”悪魔”の王!? どこかで聞いたような‥‥‥‥」
「隙ありっ!!!」
「うわっ!?」
ジャミルの”悪魔”の王という言葉に反応して若干動きが鈍ったセフィリアの隙を的確についてくるジャミルの一撃にセフィリアは生物離れした反射神経をもって対応する。
それを見たジャミルの金の瞳が嬉しそうに細められた。
「いいね!! やっぱり強者との戦いは心躍る!!」
「こっちは大迷惑だっ!!」
セフィリアは憎まれ口を叩くも内心ではその強さに驚愕していた。
『こいつ、想像以上に強いっ‥‥‥‥!!』
今回は別に慢心していたわけではない。
だがそれでも、ジャミルはその予想をはるかに上回る強さを持っていたのだ。
それは魔王だからか、”悪魔”の王だからか、あるいはその両方か。
ともかく今のままではじり貧であった。
『しかしだからといってやりすぎればイアにまで被害が及びかねない』
アグリー・クイーン戦のように、戦闘のギアをあげればジャミルを押し切ることはできるだろう。しかし残念ながらあの時とは徹底的に違うことがある。
それは周囲の状況だ。
アグリー・クイーン戦では場所が巣であったために遠慮なく暴れることができたが、今回は場所はともかくイアやゴスペル、チビドラやニーヴィルがいる。
最も戦いが始まったことで全員ニーヴィルの背に乗り上空に退避しているが、これ以上戦いが激化すればそこも安全ではない。
そんなもろもろを考えているうちに‥‥‥‥‥セフィリアはだんだんイライラしてきた。
そもそもニーヴィルはともかくなんでこいつはいきなり戦闘を挑んでくるのか。
しかも楽しそうにしているのが余計に腹立つ。
そんなイライラが意図せず表に出てしまったのだろうか。
徐々にセフィリアの深紅の瞳が据わっていき、染み出すようにしてドス黒い殺気が漏れ始めた。
更には剣筋までもが速く、荒々しくなりはじめる。
その突然の変化に慌てるのは当然ながら対峙するジャミルだ。
「な、なんだ!? っ!!?」
バキィン!!
セフィリアの剣がジャミルの鎧の肩をかすめ、派手な音を立てて砕け散った。
それに気づいているのかいないのか。
セフィリアは手を緩めることなく、更に剣を振るう。
次第にジャミルも対応できなくなってきたのか、頑丈そうな鎧のあちこちが次々に破壊されていく。
やがて鎧が鎧としての機能を果たさなくなってきたとき。セフィリアはその剣をかつて女神にしたように首元へ突き付けた。
膨大な魔力を供給され、どくどくと不気味に脈打つ魔剣にジャミルの動きも止まる。
そしてあの時以上にドスのきいた声で、セフィリアは提案をした。
「魔王。 いいか? お前の要望通り戦ってやっても、別にいい。 いいぞ。 だがな? 突然襲い掛かるのはやめろ、おーけい?」
「まだ戦いは終わっ」
セフィリアの殺気が増す。剣とジャミルの首の距離は近づく。
「YesかNoだ」
「Yes!!」
その返答を聞いてようやくセフィリアは剣を鞘へと戻した。
「はあ‥‥‥‥ お前がまだ本気じゃないのはわかっている。 だがこれ以上お互い力を出してみろ。 あたり一帯お前が見に来たニーヴィルも巻き込んで吹き飛ぶぞ?」
「あ」
今気づいたとばかりに呆けた声をあげる魔王。
本気で殴り倒すべきじゃなかろうかと割と真面目に考え始めるセフィリアであった。




