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変化する世界を貴方と  作者: 黒煉
2・旅の始まり
21/93

風呂騒動

テンプレお風呂騒動回。

嫌いな人はごめんなさい。

早朝、夏でなければ日も登っていないような時間にファルの宿、『水のせせらぎ亭』の女浴場には二つの人影があった。


言わずもがな、セフィリアとイアである。



二人の朝は非常に速い。


セフィリアはともかく、イアは辺境の村の朝は早かったため、起きる時間は非常に速かった。

時系列的には、セフィリアが先に浴場で湯船につかっていたのだが、その後、セフィリアがいないことに気づいたイアがその後を追って浴場へ、という感じである。



ちなみにゴスペルはというと、昨晩貴族用の豪華な客室に気後れして眠れず、結局寝付いたのはかなりの時間がたった後で、今朝もまだ眠ったままである。



そういうわけでセフィリアとイアは、朝の静かな一番風呂を満喫していた。


「熱い水をためただけで、別に普通に水浴びをするだけでもいいんじゃないかと思っていたが、これは格別だな」

「そうですね‥‥‥‥‥ まさか私がこんな豪華な場所に来ることができるなんて‥‥‥‥ はふぅ~‥‥‥」


「んっ」っと色っぽい声をあげながら腕を伸ばして伸びをしながらセフィリアが言えば、初体験の気持ちよさに完全に力が抜けたイアが変な声を出しながら肯定を示す。


ちなみに二人は風呂に入るにあたって、何もつけていない。


一応店が用意したタオルは脱衣所にあったのだが、セフィリアはそもそもそういう事は気にしないし、イアはといえば風呂は初めてで作法など知っているわけでもない。


なので生まれたままの姿で二人はいたのだが、ここで疑問に思った方もいただろう。



そう。


セフィリアは性別不詳の体であり、どちらの”モノ”もそなえていない。


裸になればそのことがイアにばれて大騒ぎになりそうなものであったが、実はセフィリア、女神であるフォルセティにある頼みごとをしていたのである。


それは”自分を女にしてほしい”というもの。


‥‥‥‥決して百合百合しい意味ではない。そのままの意味である。



実はセフィリアもイアと旅をすると決めた時点で、”性別不詳”というのは不便に思っていたのである。


とはいえ、もうつくってしまった体のつくりを変えることは、今のセフィリアには残念ながらできない。そこでちょうどよく出会った都合のいい存在が女神フォルセティであった。


女神なのだからそのくらいできるだろうという言葉にフォルセティは煽られたのか、なんとわざわざ”性”を司る神まで呼んで事に当たる始末である。



結果からいえばうまくいった。


もっともその時の出来事はセフィリアでさえもう体験したくないと思わされた一件であったが‥‥‥‥‥




□□□




『フォルセティ、そいつは?』

『こちらはアフロディーテ。 美と性を司る女神です』


女神フォルセティが連れてきたのはアフロディーテと名乗るこれまた女神であった。


フォルセティと違うのは、フォルセティは容姿以外の情報、つまり体色などにこだわっていないため、色が曖昧にしか見えないのに対し、アフロディーテのそれはちゃんと人間を模しており、容姿にこだわっていることを思わせた。



『はじめましてセフィリア様~♪ ご紹介に預かったアフロディーテですわ。 それで、要件なのだけれど、”女の子になりたい”ってことでしたよね?』

『ああ。 この体には性別がなくてな』

『まあ!! そんなに美しいのになんてもったいないのかしら!! それにお胸だって‥‥‥‥真っ平じゃない!!!』

『戦いの邪魔だからな。 それに女だからと言って胸が平らだといけないわけではないだろう?』


『っ!?』



そうさらっと口にしたセフィリアの言葉にまるで雷でも打たれたかのようにアフロディーテは愕然とした表情を作る。それはまさに、意表を突かれた、そう物語っていた。


『そうね‥‥‥‥私が間違っていました‥‥‥‥女の価値は胸の大きさじゃない‥‥‥‥そんな大事なことに気付かせてくれるだなんて、さすがセフィリア様ね!!』

『ん? そうか?』

『ええ! わかりました。 お礼というわけじゃないけれど、セフィリア様を立派な”女”にして見せますわ!!』

『? ああ、よろしく?』


妙に気合の入ったアフロディーテに不思議そうにするセフィリア。

とそこでフォルセティが動く。



『セフィリア様、では、頑張ってください』


『は?』



フォルセティは不穏な言葉を残してその場を離れる。



『さあさあセフィリア様、まずはお召し物を脱いで!』

『なぜだ?』

『それは、今から女の子の”物”をつけるのでしたら、確認しないといけませんでしょう?』

『確かにな‥‥‥‥‥だが、その手の動きは何だ? 何故か怖気を感じるのだが‥‥‥‥』

『いいからいいから!!』

『あ、こら、自分でやるから!!‥‥‥って、なんだ。 もう終わってるじゃないか』



セフィリアは自身の下を確認してそういったが、アフロディーテは首を横に振った。


『何を言っているんです? ”女の子”になるんでしょう? でしたらまだ必要な物はありますよ~?』

『うん? なんだそれは』


『お・い・ろ・け♪』


近づいたアフロディーテは、そうセフィリアの耳元でささやいた。



『?なんだそれは‥‥‥‥‥ひゃんっ!? こら、なんで耳をなめるっ!? ‥‥‥‥ふぅ、く、くすぐったい‥‥‥‥』

『あらあら、初心な反応♪ 長い間人のことして生きてきたというのに、その手の経験はなかったのかしら?』


疑問を浮かべるセフィリアの耳を、アフロディーテはその舌でペロリと舐める。


旅の中で、そもそも人とは接しても、それほど深い関係になった者は一人もいないし、あくまで荒事の依頼しか受けてこなかったセフィリアにまさかそっちの経験があるわけもなく、初めての体感する甘い感覚にセフィリアは困惑と共に身を震わせた。


しかしアフロディーテは止まらず、その手をセフィリアの花園へと伸ばし、そのまま指を動かし始める。



『な、なにを言って‥‥‥‥‥ ひゃああ!? なんだ、そこは、だ、だめだあ!?』

『あらあらもうこんなにしちゃって‥‥‥‥‥そういえば、セフィリア様は感情には疎いのでいたっけ? でしたら、”快楽”も初めてなのかしら』

『ひゃあああああ!? い、言いながら手を動かすなあ!! し、知らない、こんなの知らない!!』



”快楽”と言われるその感覚に、セフィリアは混乱し、取り乱す。


その様子を、アフロディーテは実に楽しそうで、それでいてどこまでも妖艶な笑みを浮かべながら眺める。



『あらあら♪ でしたら女の悦びとは何たるか、しっかり教えてあげませんと‥‥‥‥‥♪』

『だ、だめええええええええ!!!!』



その日セフィリアは女になった‥‥‥‥というか、された。



そしてその後、アフロディーテはというと満足げに帰ってゆき、あんなことやそんなことをされたセフィリアはぐったりしていたが、なんとかフォルセティが復活させ、その後何事もなかったかのように帰っていったのである。


ただその記憶、そしてアフロディーテ曰く”女の悦び”はしっかりと刻み込まれたが‥‥‥‥‥




□□□




思い出してセフィリアは湯船につかっているというのに身震いする。


「?どうしたの?」

「ああいや‥‥‥‥ こっぴどくやられたときのことを思い出してついな‥‥‥‥」

「!? セフィリアさんが負けたの!?」

「ああ‥‥‥‥ あれだけは多分慣れることはないだろうな‥‥‥‥‥」

「セフィリアさんがそこまで言うなんて‥‥‥‥ それって一体‥‥‥」


遠い目をしてそんなことを言い始めたセフィリアに、イアは気の抜けた態度を一変。一体それは何なのだと身を乗り出す。


「‥‥‥‥”快楽”だ‥‥‥‥‥」



イアは黙って元の態勢に戻ると、ジト目を向けた。


「‥‥‥‥‥‥」

「な、なんだその目は! 本当に凄かったんだぞ!!」

「ソウダネー‥‥‥‥」

「む、むう‥‥‥」


イアの反応は当然である。


というか、女性が突然”快楽”とか言い出したらそうなるのが普通だろう。

しかもイアはセフィリアに対し憧れを持っているため、テンションもダダ下がりである。


だが少しだけ顔が赤くなっているあたり、イアもお年頃だ。



そしてイアがため息とともに湯船から上がろうとしたその時。


突然セフィリアがイアに後ろから抱き着いた!


「きゃっ!? な、なにするの!?」

「ふふふ‥‥‥‥ どうやら信じていないようだからな‥‥‥‥ 私が経験したものを、お前にも体験させてやろうと思ってな?」

「あ、あのね‥‥‥‥‥ 別に信じてないとかそういうわけじゃなくて‥‥‥」


イアはセフィリアが何か思い違いをしているのに気づき、口を開こうとしたが、それよりも先にセフィリアの手が14の少女にしては大きめのそれを掴んだ。


「ひゃん!?」


たまらず艶っぽい声をあげながら湯船にしりもちをつくイア。

そこへ妖艶な笑みを浮かべたセフィリアが覆いかぶさった。


「な、なにを!? んっ」

「言っただろう? 体験させてやろうと思ってな」

「ちょ、ちょっとやめ、あっ!?」

「ふふふ‥‥‥‥お前が降参するまで攻め続けてやる。 さあ、何分持つかな?」


本当ならそこで早々に「降参」とでもいえばセフィリアのことだからやめたであろうに、しかしその挑戦的な言葉にセフィリアに憧れと、そして同じくらいの対抗心を持つイアはつい反応してしまう。


「ふ、ふん。 案外セフィリアさんが諦めることになるんじゃない? 私はセフィリアさんみたいにエッチじゃないもん!」

「ほう‥‥‥‥ それは聞き捨てならないな‥‥‥ イア、覚悟しろっ!!」



それからおよそ3分の間。


少女の艶めかしい声が浴場に響き続け、見回りに来た受付嬢さんが二人の関係を邪推し、顔を真っ赤にしていた。


主に百合百合な方向で。




□□□




「ああ~‥‥‥‥気持ちよかった」

「とんでもない目にあった‥‥‥‥」


色々な意味でさっぱりしたセフィリアと風呂とは別の理由で顔を赤くし、ぐったりとした様子のイアは脱衣所を出て私服姿、まあセフィリアはいつもの一式だが、で食事処にいた。



そこは朝早いというのもあり、人気は少ない。


起きているものも、ちょうど入れ違うように浴場へ向かったのでその姿はない。


なので昨日の夜とは大違いで、静かなそこで料理が運ばれるのを会話しながら二人が待っていると、そこへ今しがた起きたらしいゴスペルがやってきた。


後ろに少年と、執事服を着た初老の男を連れて。



「ああ、おはようゴスペル」

「おはようございますゴスペルさん。 後ろのお二人は?」


その言葉にゴスペルは実に難しい表情を浮かべながら頭をかいた。


「ああ~‥‥‥この人たち、じゃねえ、えっと、この方々が俺たちに用がおありのようでな。 実はさっき風呂場であったんだが、そのまま二人と引き合わせてほしいと頼まれたんだよ」


ゴスペルがそういうと、後ろにいた少年がゴスペルに断りを入れ、前に出ると綺麗な礼を披露した後、口を開いた。


「初めましてセフィリアさん、イアさん。 突然で申し訳ないけれど、お二人に話を聞かせていただきたくてね。 朝食だけでも、相席させてもらっていいかな?」


その少年は黒髪で金の瞳を持ち、その目は少年とは思えないほど鋭く、鷹を思わせる。

そして服装もまた煌びやかだ。


まるで式典で着る服のように細かい装飾の施された赤地のコートを羽織っており、そのできは、少なくとも見た目で言えばセフィリアの着るものよりもはるかに出来がいい。

おそらくその手の職人に作らせた特注品であろう。


その少年の正体に察しがついたイアは答えた。

自分が知りえる中で最も丁寧な対応、すなわち貴族と接するとき(・・・・・・・・)の対応をもって。


「どうぞ。 そのようなお言葉、ありがたく存じます」

「ああ、そんなに畏まらないでくれイアさん。 別に文句を言おうだとか、そんなつもりで来たわけではないのだから。 もっと気楽にしてくれて構わないし、そちらの方がありがたい。 ‥‥‥‥‥セバス」

「はい坊ちゃま。 皆様申し訳ありませんが、優先席の方へと移動をお願いできますか? 少々、込み入った話になりますので‥‥‥‥ 代わりと言っては何ですが、朝食の代金の方は、こちらで持たせていただきますので」


それに対し、答えたのはセフィリアであった。

イアは内心、またとんでもないような事態になるのではあるまいかとヒヤヒヤしていたが、その心配は杞憂に終わる。


セフィリアは立ち上がり、片手を胸に当て、綺麗な礼をして頭を下げたまま口を開く。


「そのお心遣い、感謝いたします。 ところで大変失礼とは思うのですが、そのご尊名、お聞かせ願えないでしょうか?」


それに対し少年はいたずらっぽく笑って答えた。



「ああ、そうだね。 僕の名前はヘンゼル・ブルース。 お察しの通り、貴族さ」



私にかけるお色気回はこれが限界だったよ‥‥‥‥

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