夜の宿にて。『水のせせらぎ亭』
女神フォルセティと出会い、神、そしてアーカルム22王について知ったセフィリアは不思議空間から神殿の祭壇の上へと戻されていた。
そしてセフィリアが後ろを振り返ると、そこにはニコニコと愛層のいい笑みを浮かべた司祭の姿と、不安そうな顔を浮かべたイア、そしてゴスペルの姿があった。
そこにはセフィリアが突然消えたことに対しての驚きといったものは一切見えず、今から”審査”が行われるといった雰囲気だ。
―――――――――――――間違いなくあの光が何かしたな
時間とは不変であり、過ぎた時間は決して戻ることはない。
もっともセフィリアは神の力というものを完全に把握しているわけではないのだから、もしかすると神の中には時間を司る者がいて、操ることができる者もいたのかもしれないが、少なくともフォルセティは自身のことを”真実を見定める”神だといっていたし、それはないだろう。
であるならば、この場にいた全員に影響を与えた可能性のあるものといえばあの大水晶の放った光以外に覚えはない。
大方、記憶を都合のいいように消したとかそんなところだろうか。
しかしそれがセフィリアにとって都合がいいことであるのは間違いないので、セフィリアは流れに合わせて本来の”審査”を受ける姿勢をとった。つまり、大水晶の前で跪いた。
そして祈りを捧げる―――――――――――――
イアは跪き、祈りを捧げるセフィリアの後姿に、強い感動を感じていた。
夕日が差し、赤く幻想的に染まったこの空間。
その奥にたたずむどこか神聖な大水晶を前に跪き祈りを捧げる美女の姿は、さながら絵画のようであった。
”私は、強くなりたいです”
それは自分の願い。
セフィリアにはその願いの理由として、故郷での一件を引き合いに出したが、もちろん、それも理由の一つなのに間違いはない。
しかしイアにはもう一つ、それを目指す理由があった。
私も、セフィリアさんみたいになりたい―――――――――――――
それは強さだけの話ではない。
イアは理想の人物像を、セフィリアの中に見出したのだ。
イアはセフィリアが戦っている姿を直接見たことがあるわけではない。
それにセフィリアは普段何もないときなどは実にお気楽であり、後先を考えないので何をしでかすかわかったものではない。
だが時折見せる、どこか遠い存在であることを認識させられるその佇まい。
普段はまるで自分と変わらない、容姿の優れた女性でしかないのに、その時のセフィリアの姿に自分とは違う存在であることを思い知る。
しかしイアはそれを感じ、所詮は違う存在なのだからと諦めるのではなく、いつか自分もそうなりたいと願った。そう思うことができたのはイア本来の心の強さだろう。
固有スキル、『心身掌握』を会得しているだけのことはある。
だからイアは、セフィリアに対して少々手厳しい。
それは毎度毎度自分がどれほど遠い存在であるかを認識させるようなハプニングばかりを起こすセフィリアに対する内心の不満の表れなのだ。
そんなイアは、またしても自身の魅力を誇示するかのようにそこにあるセフィリアの後姿をじっと見つめる。
その胸の中にあるのはその美しさへのあこがれ、嫉妬、そしていつか自分もそうありたいと願う強い渇望。
「セフィリアさんに、絶対に追いついて見せるんだから」
イアは誰にも聞こえない声でそう呟いた。
そして、セフィリアのステータスが映し出される。
大水晶の中に光る文字として。
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セフィリア・人?種
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筋力・999(+999)
体力・999(+999)
魔力・999(+999)
精神力・999(+999)
<スキル>
「完全なる肉体(固有)」 生物として完成された肉体。全ての能力に補正(極大)。
「無形」 その戦い方に定まりがない。全ての身体的技能に対する才。筋力に補正(極大)。
「始原の魔力(固有)」 魔力の根源たる力を操れる。魔力に補正(極大)。
「魔法創造」 自身が思い描いた魔法を創り出し、扱える。ただしイメージが詳細であり、その為に必要な魔力が十分でなければ扱えない。
「絶対確立(固有)」 その可能性がゼロでない限り、全てを可能とする。
<称号>
「神の代行者」 神の代行者である証。
「世界の調停者」 世界の調停を担うものである証。
「理不尽」 なんであれ、その前では無力。
「少女の師」 少女・イアの師となった。
「神々の畏れ」 神に畏れられたことの証明
「始祖神・ガイアの興味」 始まりの神たる始祖神・ガイアに興味を持たれている状態。
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その、もはや埒外としか言いようのないステータスを。
ちなみにステータスの平均の数値は100である。
「さて、これでギルドに登録できるな!」
その言葉でイアが天を仰ぎ、ゴスペルは顎が外れ、司祭は失神した。
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結局、セフィリアのステータスはあの場にいたものだけの秘密ということになり、司祭は本来の結果を改ざんした書類をギルドに渡すように言ったうえで、セフィリアの書類を渡した。
それなら司祭がその改ざんした書類を作って渡せばいいと思うのだが、司祭がそれをするのはなかなかまずい事らしく断固拒否であった。
とはいえ日はすっかり落ちてしまい、ギルドに行くのは結局明日にすることに。
ということで、3人は宿を探すべく、夜とはいえ灯で照らされた街を散策していた。
「にしても、さっきのはまじで驚いたぜ‥‥‥‥‥」
「ステータスのことか?」
「私も驚いた。 だってセフィリアさんが凄いのは知ってたけど、あんなにとは思ってなかったもん」
二人の純粋な賞賛に、セフィリアは居心地が悪くなったように思えて視線をそらした。
なにせセフィリアのその能力の高さはそもそものつくりが違う、”ズル”をして手に入れたものだ。
それを褒められて、”罪悪感”を覚えたのである。
「そ、それよりも、宿だったろ? ほら、あそこなんてどうだ」
そう言ってセフィリアが指さしたのはそれなりの大きさを持つ宿だ。
人通りの多い通りに目立つようにして建てられたそこは人の出入りも多く、いまは食事時だからか、中からは何かを焼いた香ばしい匂いが漂っていた。
その時、クゥ~~っと可愛らしい音が聞こえ、見ると赤くなったイアの顔があった。
セフィリアは笑ってイアの頭をポンっと叩いてから言った。
「決まりみたいだな」
その宿はファルで最も人気の宿、『水のせせらぎ亭』。
3階建てのその宿は、1階の半分が食事処、そしてもう半分が浴場。2階、3階は全て客室だ。しかし3階は利用金が高めの、一部の特別な客、つまり貴族用の客室になっている。
王国でも需要の高いファルの街。そんなファルには少なからず王都からやってきた貴族というのは存在し、そしてファルの水が多いという特色を生かした大浴場を備えたこの宿は貴族にも有名なのである。
だがだからと言って、しんとした空気などではなく、その賑わいはどこの宿ともまるで変りはしない、賑やかなものだ。もっとも、酒を飲んで羽目を外すようなものはさすがにいないようだが。
そこへ新たな客がやってくる。
そしてその客は”貴族”の女性のようであった。
雪のように白く長い髪に、紅い瞳。その装いもとても一般人には手の届かないような代物であった。
しかし貴族にしては随分とはだけた格好で、付き人も傭兵と思しき男と、どこにでもいそうな娘だけであったが。
その”貴族”は、残り二人には席を確保しておいてほしいと頼んでから自身は部屋を取るべくカウンターへと向かった。
その様子に周囲の一般客は、随分と変わった貴族様だと首をかしげる。
普通であれば付き人に任せ、自分は動かないというのが貴族の在り方だからだ。
少し変に思いつつも、まあそういう方もいるかと受付の20代かそこらの受付嬢は切り替えて笑顔での接客に努める。
「部屋はまだ空いているか?」
「ええ、十分に」
「ああ、じゃあよろしく頼む」
「畏まりました。 ですが、お付きの方はどうされますか? 一般の部屋はもう空きはありませんが‥‥‥‥」
「ん? 部屋はわけないが?」
「え?」
「ん?」
すれ違いが発生。受付嬢は混乱した!
「えっと‥‥‥‥お客様と同じ部屋‥‥‥ですか?」
「何か問題が?」
「いえ、問題といいますか‥‥‥‥その、メイド?の方はともかく、傭兵の方もご一緒というのは問題があるのでは‥‥‥‥?」
「そうなのか?」
「ええっ!? そ、そうなんじゃ‥‥‥‥ないんでしょうか?」
”貴族”と勘違いされていると知らないセフィリアは素で聞き返した。受付嬢はもっと混乱した!!
「まあ、そういうことなら二部屋頼もうか。 大丈夫か?」
「え? あ、はい。 大丈夫です」
「じゃあとりあえず一泊、明日の朝食まで含めていくらかな?」
「えっと、では一部屋10銀貨ですので、20銀貨いただけますか?」
「わかった」
セフィリアは腰に付けたバッグ(イアに勧められて先ほど買っていた)から重そうな袋を取り出すと、そこから銀貨20枚を取り出して渡した。
「これでいいかな?」
「はい。 ありがとうございます。 ではこちらが部屋のカギになります。 それと浴場をご利用されるなら明日の一番風呂がいいかと。 その時であれば一般のお客様はおりませんので」
「あいわかった。 じゃあとりあえず、夕食を頼むよ」
「畏まりました。 お席はいかがなさいますか? よろしければ、優先席の方を」
「(貴族でもないのに)そんなものがあるのか? まあいいさ。 二人が席は確保してくれたみたいだからな」
セフィリアが二人を探せば、二人は空いた席を確保し、視線を向けたセフィリアに気付いて手を振り返していた。
「そうですか。 わかりました」
未だ混乱は抜けきらない受付嬢であったが何とかしのぐと、とにかくそれだけを返したのだった。
ちなみに食事はメインがステーキという豪勢な定食で、ゴスペルなどはかぶりつくような勢いで食べようとしていたが、最もマナー等知らなそうなセフィリアが恐ろしく優雅に食事を勧めていたため、イアはそれをまねてその作法を覚えようと。ゴスペルは自分の欲求を何とか自生して、付け焼刃のテーブルマナーでその場をしのいでいた。
その様子に周囲の客が、いっそうその正体について頭を悩ませるのだったが、結局答えは出ないのであった。
そんな食事が行われていた時、宿の3階には。
「セバス。 それは本当かい?」
「はい、坊ちゃま。 どうやら3階の部屋を利用する、貴族と思しき客が先ほど入店したようです」
先客の貴族、正真正銘、本物の貴族の少年が、執事を侍らせ、優雅に窓辺でくつろいでいた。
貴族の視線の先には街灯に照らされた夜の街並みがある。
「それで?」
「はい。 不肖セバス、その者達につきましては一切の情報がなく。 つきましては、手の空いている者達に何者であるかを調べさせているところにございます」
「そうか。 ならばいい」
少年は思案する。
セバスは実に有能な執事だ。
その情報は多く、それを最も必要とする貴族である少年にとって、この初老の執事はまさに最も強力な武器の一つともいえよう。
しかしそのセバスの情報にない貴族とは。
セバスはこのルーヴェンに属するすべての貴族の情報、少なくとも名前については完全に把握している。
となればその者達は、ルーヴェン以外の出である可能性が高い。
それはかなりの問題である。
もっともその者達が貴族でない可能性も無きにしも非ず。
だが常に最悪の事態について考えておくべきだろう。
「ちょっとした休養のはずだったんだけどね‥‥‥‥」
少年は目を閉じると、眠るようにして深い思考の海に沈んでいった。




