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変化する世界を貴方と  作者: 黒煉
1・出会い
12/93

2人の出会いの裏側で

時刻未明、???にて




とある古城。



その広い回廊を、ひとつの人影が靴音を響かせて進んでいく。


そして辿り着いた高さ数十mはあろうかという扉の前に立つと、人影は何もしていないというのに、ゴゴゴゴッっと相当な重量を感じさせる音を響かせて開いた。




そこは不思議な明るさに満たされた部屋だった。



その一室はとても広く、奥には金で装飾された椅子があることから、玉座の間。あるいは、それに準ずる何かであることがうかがえる。



部屋には22の窓があり、ステンドグラスが張られたそれを通して美しく、それでいてどこか怪しげな光が差し込んでいた。


また、そのステンドグラスには何らかの意味があるであろう別々の絵柄が描かれている。



 それは『皇帝』であったり、『互いの尾をかむ蛇』であったり、『死神』であったり‥‥‥。



そして人影はその部屋に踏み入り、玉座の前まで進むとその場で跪き臣下の礼をとった。


そして何事かを呟きはじめる。




 「偉大なる21番目の王‥‥‥‥厳粛な審判を下す王よ‥‥‥‥‥”洗礼”を、我に施したまえ‥‥‥‥」




その言葉が呟かれた後、それは起きた。



今の今まで誰もいなかったはずの玉座に異形が現れていたのだ。



それは犬だった。



だが背には本来ならないはずの二本の腕があり、左手には天秤を、右手にはラッパを握っていた。


顔には不気味な白色の仮面をつけ、その目の部分からは金色の光が爛々と輝いている。




 『ヴォオオオオオオオン――――――――――――――――――――――ッ!!』




異形の犬が一声吠えると、先ほどまで何ものっていなかった天秤の皿の左に脈打つ心臓が、右に何かの宝石のようなものが現れ、そしてゆらゆらと揺れ始めたではないか。



そして今度はどうやっているのか右手のラッパを口に持ってゆくと、犬はそれを器用に吹き鳴らした。




 ――――――――――――――――――――!!




金管楽器特有のけたたましい音が響き、同時に天秤がぴたりと止まる。


止まった天秤の皿はどちらにも傾いておらず、更に乗ったものが全く同じ重さであることを示した。



異形の犬はそれに顔を向けて確認すると、また器用にラッパを吹き鳴らし‥‥‥‥




次の瞬間にはその姿はどこにもなく、天秤の意匠がこらされた一つの王冠が、玉座の上にぽつんと置かれていた。




そこでようやく人影は立ち上がり、ゆっくりとした足取りで玉座へと向かっていく。


そしてその王冠を手にし、己の頭に載せた時。



王冠は消え、代わりにその人物を祝福するかのように眩い光が包んだのだった。









パチパチパチパチ‥‥‥‥




 「おめでとう。これで君も晴れて21人目の王になることができたわけだ」


 「テオフォン」



 「おっと、この場では”節制”の王と呼んでくれよシレイ。 いや、”審判”の王」



いつの間にか背後にいた人影が心から祝福するように手を鳴らす。


”節制”の王、テオフォンと呼ばれたその人物は、新たに王となったシレイに歩み寄ると一つの指輪を渡した。



それは簡素なつくりの、何の変哲もない銀製の指輪だ。

だがそれに嵌った一つの緑の宝石からは尋常ならざる力、もとい、魔力が感じられた。



 「これは?」


「それは私が”洗礼”で得た”管理”の力を用いて作ったものだ。 それをつけているうちは、私は君の生存を確認することができる。 そして、私とであれば遠距離通信も可能な自信作さ」



 「これは王全員に?」


「そうだね、ルーヴェンに属する(・・・・・・・・・)王には全員配っている。 ”魔術師”に、”女帝”様と”皇帝”様。 そして君の合計4人かな」



 「そうか」



シレイはその指輪を右手の人差し指にはめながら聞いたその言葉に、目を閉じて思案する。



ここでいう王とは、たった今自分も受けた”洗礼”を受け、そして力を与えられたもののことを言う。


”洗礼”自体はいたってシンプルで、人が『古城』と呼ぶこの場所、その玉座の前で跪き、そして願えばよい。



しかし”洗礼”はそれだけで終わるような簡単な物ではない。



シレイの”洗礼”で現れた異形の犬。


あれは”洗礼の獣”と呼ばれる存在で、その数は22であるといわれている。



そしてそれに認められなければ力は与えられず、どころか獣によっては殺されることさえあるというのだ。



シレイは己の胸に手を当てる。



そうすれば確かに心臓が鼓動が返ってくるが、先ほどの”洗礼”の時、あの”洗礼の獣”の持つ天秤に心臓がのった時。


自分の心音は”一切聞こえてこなかった”。



それは天秤にのせられていたあの心臓が、おそらく”自身の心臓”であったという事。



もしあの”洗礼の獣”が自分を認めていなかったときは‥‥‥おそらくあの心臓をつぶされて、あっけなく死ぬ運命だったのだろう。



そう考えると、もう今はその心配はないというのに冷や汗が止まらなかった。



だがその危険を冒しただけの見返りはあった。



今のシレイにはおそらく大抵のものは障害にすらなりえないであろう、圧倒的な力が宿っていた。

それこそ、世で強いと謳われる猛者たちを一捻りで倒せそうなほどの。



だがシレイはその力に驕るような人物ではない。



シレイは一つ息をつくとテオフォンへと向き直る。


その表情は浮かれてなどいない。

むしろ覚悟を決めたような、引き締まった表情だった。



それを認め、テオフォンも満足そうに笑う。



「さすがは『帝制五剣』をまとめる壱ノ剣、シレイ団長様だ。 ‥‥‥‥じゃあ戻ろうか?ルーヴェン城へ」


 「ああ」



テオフォンはシレイの手を取ると、呪文を唱え始める。

それは超高難易度と言われる長距離転移魔法。



その長い呪文が呪文を唱えられた後には、二人の姿はすでにそこにはなかった。





そして新たな王の誕生は直感的に、他の試練を乗り越えた王達も知るところであった。











 アーカム教大神殿・アヴル




 「‥‥‥‥感じましたか?」

 「ええ、はっきりと」



老いた錫杖を持った男が問えば、同じようないでたちをした老婆がそれに答えた。



この世界でもっとも巨大な宗教、アーカム教。


その中心、大神殿アヴルでは、”教皇”、そして”女教皇”がその言葉を聞き、嬉し気に相好を崩した。



 「これで22の王の頂点ともいえる”世界”の王を除いた、すべての王が揃ったことになりますね」

 「ええ。 世界の救済に向けて、全ては順調に進んでいます」



アーカム教の教え。



それは『”洗礼”を乗り越え、”洗礼の獣”に認められた王たちが揃う時、世界は救済される』というもの。



そしてこの教えを少なくとも”教皇”、”女教皇”も含めたアーカム教の熱心な信者たちは信じていた。



なぜなら”教皇”、そして”女教皇”はこの教えを”洗礼の獣”から直接聞いている(・・・・・・・)のだから。




 「最後の王の誕生が、待ち遠しいですね」

 「ええ、本当に」




その王たちは待つ。


最後の王の誕生、そして世界が救済される、その時を。











魔族の国・アスタリク




アスタリクの中央にそびえる、魔族の王である”魔王”が住まう居城、魔王城。


その玉座の間では今、大宴会が行われていた。



 

 「ハッハッハッハ!!!! 者ども祝え!!!! 新たな”王”、”強者”が誕生したことを!!!!」




  「「「「「応!!!!!」」」」



羊の角を生やし、背に大きなコウモリの翼を生やした異形の女の号令に、牛頭の男や下半身が蛇の女といった、異形の者たちが答える。



魔族とは褐色の肌が多く、また異形の姿をした者もいることで有名な種族である。


また、保有する魔力が多いことが多いことでも知られている。



そんな彼らは、強い。



そして総じて血の気が多い。



どれぐらいかといえば、国の一大イベントとして、世界のあらゆる場所から猛者を集めたコロシアムを開くほどだ。



魔族とは、大半が戦闘狂なのである。



そして魔王であり、”悪魔”の王であるジャミルはその筆頭であった。



新たな王の誕生を知ったジャミルは興奮を抑えきれず、とりあえず興奮を発散させるためにそこら辺にいた側近たちを集めて酒盛りを始めたのだった。


実はジャミルは女なのだが、この国においては王になることに性別は関係ない。



強さこそがすべて。



それが彼ら魔族の判断基準だからだ。





と、何が起きたか、酒の席で突然取っ組み合いのけんかが始まった。


それを皆が笑いながらはやし立てる。



しかしただでさえ興奮していたジャミルは我慢ができなかったらしく、紅く長い髪をなびかせながらそこへ特攻した!




 「なんだなんだ私も混ぜろお!!」




 「げっ!? べェぞお前ら、魔王様が来たぞ!」

 「野郎ども、今日こそ魔王様に一発喰らわせてやるんだ!」


 「馬鹿野郎!! さっさと魔王様の裏に回りやがれ!!」


 「魔王様の一撃がくるぞおおお!!!!!」



 「「「ぎゃああああああああ!?」」」




途端出来上がるのは阿鼻叫喚の地獄絵図。



魔族は今日も変わらず、仲良く戦いに明け暮れていた。






その日、魔王城の一角が崩壊したのは言うまでもない。











妖精族の暮らす森・テミスの大森林





 「「「‥‥‥‥‥」」」




テミスの大森林には大きく分けて2種類の種族が暮らしている。



一つは妖精族。もう一つは獣人族だ。



妖精族とはエルフの呼び名で有名な、緑色の髪と、長い耳を持つことで有名な種族だ。


彼らは思慮深く、また長命であるため、『膨大な英知を宿す種族』として名高い。



獣人族はその名の通り、体や能力に獣のそれを宿した者達だ。


そして彼らは一族の結束が強く、相手が何であろうと同族を傷つけたりするものには容赦がない種族として有名だ。



そんな二つの種族がすむ大森林。


その中で特別目立つ巨大な樹の下に、双子の兄妹エルフである兄の”太陽”の王と妹の”月”の王、そして頭に狐の耳を生やした獣人族の”星”の王はいた。




 「「”星”の王よ」」



 「なんでしょ?」



 「新たな王の誕生に対し」

 「獣人族はどのように?」



”太陽”と”月”の王の問いかけに、”星”の王はどうでもいいといった感じで軽く答える。



「べつにどないもしませんなぁ。 私ら獣人はただ、仲間を傷つけられでもしない限りは静観させていただきます。 それこそ、”星”のように」



 「「そうですか」」



独特の口調で語られたその”星”の王の言葉に、”太陽”と”月”の王はやはりといった感じで短く答えた。



 「それに、それはそっちも同じやろ? 少なくとも私はそう思うてましたけど」



”星”の王の言葉に、”太陽”と”月”の王は苦笑いを浮かべてうなずいた。




彼らは静観する。



良くも悪くも、テミスの大森林の外の世界に関心がないが故に。











???




そこは月光に照らされた、神秘的な花園だった。

咲く花のすべて。それは血を吸ったかのように紅い、美しくも鋭い棘を持った薔薇だ。



そしてその薔薇の絨毯に寝そべる裸の女性が一人。



その女性の透き通るように白い肌に当然のように薔薇のとげが刺ささり、血が流れだす。

しかし数秒も経てばまるで傷などなかったかのように、肌は綺麗に元通りとなっていた。



異常な再生能力を宿す女性。



その女性の正体は、人知れずどこかで暮らすと言われている種族、その始祖。始祖吸血鬼(オリジンヴァンパイヤ)であった。



その彼女のの脳内に、新たな王誕生の知らせが届く。




 「そう‥‥‥‥‥」




女性は閉じていた眼を少しだけ開けると、小さく呟く。



 

 「その人は‥‥‥‥私を殺してくれるのかしらね‥‥‥‥?」




死に焦がれる”死神”の王は、自分を殺すことのできる可能性を秘めた相手を想いながら。

いつか来ると信じた自分の命が終わる、その日を想いながら。紅い花園で眠り続ける。







現存する21の王たち。



そのうちの9の王が、セフィリアの旅立ちと時を同じくして動きはじめようとしていた。







これにて1章は終了です。

ここまでお付き合いくださりありがとうございます!まだまだ続きますので、これからもぜひ見に来てください!



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