精霊の心-9-
どうも、言ったことを守らない人間の神梛です。
今回は6000文字超えました……やったね!
しかし想像以上に投稿スピードを上げるって難しいですね。ハイ。
今回のお話は新キャラが出てきたりとするんですが、新キャラとか関係なく話をまとめるのが難しいパートでした。うーん、何故ですかね? よくわからないです(´・ω・`)
そういえば創作活動用のツイッターアカウントをいつだったかそう遠くない昔に作ったんですが友人に言われて初めて気付きました。「プロフとかにID載せなきゃ意味なくね?」
はい……全くその通りでございます!
という事でこれからは後書きの最後にID載せとくのとプロフにも載せておきますね……己のバカ野郎!!
*温かい夢
これは夢だ。結那は目の前に広がる光景を見て確信した。結那の視界の中は一面に緑広がる大きな庭園だった。結那はこの庭園を知っている。理由は単純で、自分の家だからだ。正確には実家と言うべきだろうか。大きな庭園の奥には、この庭園に見合ったサイズの大きな屋敷が見えた。今は亡き両親との思い出深い地でもあった。
結那の前では黒髪の子供が二人、追いかけっこをしているようだ。今は男の子を女の子が追いかけている展開だった。一人は綺麗で長い髪を元気に揺らしている、今から美しさを秘めているのがよく分かる幼き頃の結那。もう一人はいかにも好奇心旺盛そうな、硬い髪が逆立って、触るとサクサクしそうな髪質をした柚斗だった。
「……私の思い出」
どうせ夢なのだからと思い出に浸っていると、一つ疑問が浮かんだ。
私の見ている景色は誰が見た景色なんだろう?
視線の高さや時折瞬きのような瞬間がある事から、誰かではあるはずだが……。
(お父さん? でも視線の高さ的にちょっと低すぎる気も……お母さんなの? でもそもそもお父さんとお母さんはいつも屋敷から見守っていたし……)
そうすると知っている人ではない可能性も出てくるが、結那の住んでいた屋敷は森の中にぽっかり空いた穴のように、木が生えず小さな草原のなっている場所にある。通りすがりの来客など一度しか無かったくらいだ。知らない人というわけでも無さそうだが……。
(そっか、残ったのは姉さんだけだから姉さんの景色なんだ、これ)
景色の正体がようやく分かったところで、意識が薄れていくのを感じた。どうやら温かい夢の時間が終わってしまうらしい。きっとまた昔の夢を見れると信じて、静かに現実へと戻るのだった。
*初めて見る世界
柚斗は今、大空のド真ん中で自由落下を試みていた。いや、望んでやっている訳では無いので全く試みてなどいない。どういう状況かと言うと、結那と胡桃が異の門に吸い込まれ、柚斗も遅れて吸い込まれたのだが、行き先は同じだったらしく、ほぼ同時に宙へ放り出されたという次第だ。
「おにいちゃん!」
柚斗を呼ぶ胡桃の腕の中には、気を失っている結那がいた。高度なんとかメートルだのなんだの話を聞いたりはするがとても高いところにいる、というのは分かる。しかし地上からどのくらいの高さかとなると素人には検討もつかない。柚斗は叫びたい気持ちを抑え、今出来ることをやることにする。
「胡桃! 今そっち行くから待ってろ!」
そう言って体の向きを変え加速し、結那と胡桃の横に並ぶ。空は夕日に染まり、状況が違えばとても感動的な風景だったに違いないが、今は三人生きて着地しなければならない。魔力を練ることで身体能力を上げることは出来るが、この高度では個人の身体能力など意味を為さないだろう。つまり、魔法と魔術を学ぶ学園の生徒である三人に残された選択肢は一つ。魔法を使って生還する、という道のみだった。
ただし胡桃はまだ入学したばかりで何も魔法は使えない。柚斗も基礎魔法などを教わっているし、柚斗の得意な応用系魔法も持ち合わせてはいるが、基礎魔法でどうにかなる高度ではなく、応用系魔法も柚斗の使えるものは現状を打破出来るとは到底思えなかった。つまり、三人に残された希望は結那だけだった。
「おい、起きろ結那! 寝てる場合じゃねえぞ!!」
柚斗が空中で結那を揺さぶり、起こそうとする。結那は寝言を何やらブツブツと言いながら目を開ける。突然目の前に広がる自由落下中の光景に、夢だと思ったのかまた目を閉じようとする。そしてこのコントみたいな事をしている間も絶賛降下中であった。
「おーい、結那さん起きてー? これ夢じゃないから、現実だから、もう頼りになるの結那さんだけですからー!?」
柚斗はありったけの声量をぶつけながら結那を揺することで、結那が再び夢の国へ誘われるのをなんとか防いだ。
「ん……あれ、柚斗……すっごく落ちてるよ……」
寝起きが悪い結那に、柚斗は思わず真顔になって答える。
「あ、うん。正しくは落ちていてこのままじゃみんな落下死しちゃうんだけど」
「……え?」
数秒ほど間があって意識が覚醒した結那は、それでも頭の中を疑問符で埋め尽くされていた。
「ここどこ? え、飛んでる? 柚斗、なんで空にいるの?」
「なんで空にいるのかは分かんないけど多分異の門のせいだと思う。そして結那の魔法で生きてこの世界の地面を踏みしめたいからなんとかしてくれ!!」
結那の意識がはっきりしたところでもう一度状況を説明する。ようやく理解出来たのか、結那は目を見開き柚斗の顔を凝視する。そして胡桃のことを思い出したらしく、胡桃がいないか周りを見渡す。柚斗の反対側に胡桃を見つけ、少しばかり安心した様子で出来ることを実行に移した。
「出来るだけのことはする、でも無理だったら……ごめんね、二人とも……」
柚斗と胡桃は顔を見合わせる。お互いの表情を読み取り、どうやら同じ気持ちだと理解した。
「気にすんな!」「きにしないで!」
「……うん!」
柚斗と胡桃の答えを聞き、後悔が無くなった結那は呼吸を整え、魔法を使う準備をする。頭の中でイメージを作り、それを形にする。顕現魔法とはそういうものだが、結那の顕現魔法は格が違う。組成から物を組み上げることで、極めて精度の高い生成を実現させる。これは結那の家系、暁家で代々研究され磨かれてきた技術であった。まあそもそも暁家の顕現魔法は一般的な顕現魔法とは別物でもあるのだが……。
「-顕現-ドレッドノート! 二人ともこれに掴まって!!」
慌ててドレッドノートに掴まるというよりは乗っかった柚斗と胡桃。今朝の登校中に顕現させた時は短剣のような形をしていたはずだが、今は落下時の衝撃を和らげるのと、落下速度の減速を目的として目の前に薄く広がっている。しかし二人が掴まって五秒程でドレッドノートが形を歪ませ、消失してした。
「な!? やばい、このまま落ちるぞ!」
柚斗がそう言っている間にも落下し続け、ドレッドノートで多少減速したとは言え、あと十五秒もしたら、三人が地面のシミになってしまう。
(くそ、どうする!? もうどうすることもできないのか……!!?)
一瞬、柚斗の世界は止まった。否、実際に止まったわけではないだろう。恐らくだが体感的にそう錯覚しているだけだ。しかしそう感じさせた原因は確かにそこにあった。
『……る』
どこからか声が聞こえた。いつだったか聞いたことのある声。最初は微かだった声も、次第にハッキリと、力強く聞こえるようになった。
『わ……たし……が……』
(頭に響いてくるこの声……どこかで聞いたような声だ。一体どこでだったかな……)
『私が、助ける……!!』
次の瞬間、柚斗の周りに冷気が漂う。気付けばそれは結那と胡桃にまで及んでいた。地面との衝突の瞬間、漂っていた冷気が強い魔力を帯び、地面に向けて強く魔力を放出させる。三人の視界を奪い、隣にいる者の顔も見えない。柚斗はそのまま地面に倒れ込み、荒い着地に苦悶の表情を浮かべる。せめて結那と胡桃が無事なのかを確認したかったが、そういえば自分が無事着地出来ているという事に気が付き、頭の中は疑問と驚きで埋め尽くされ、それどころではなかった。
どうやら着地の時に柚斗だけ少し転がったりしたのか、他の二人は十メートルくらい離れた場所で柚斗を探していた。辺りの冷気が晴れるとすぐに柚斗を見つけ、駆け寄ってくる。その後しばらくの沈黙が続いたが、三人のうち誰かがクスッと笑い、緊張の糸が解れたせいか気が付けば三人で笑っていた。
「あーもう、なんか緊張が解れたら笑えてきちゃった!」
思いっきり笑い、目尻に涙を浮かべていた結那。そして柚斗に着地の時の魔法について問う。
「それで今の氷魔法だけど、どうやったの? 柚斗そんなに氷魔法得意だったっけ?」
結那の言葉に戸惑いを見せる柚斗。
「え、今のって結那がやったんじゃないのか?」
目を見開き、顔を見合わせる柚斗と結那。
もしかして……と二人は胡桃を見るが、彼女から魔力を感じることは無かったので違うだろう。その時、結那は柚斗に冷気が特に集まっていたのを思い出し、それについて詳しく聞こうとするが、胡桃の言葉に遮られる。
「ふぇぇ、こわかったよぉ……」
胡桃がそう言いながらその場に力無く座り込む。結那と同様に胡桃も涙を浮かべていたが、その表情は明らかに笑い過ぎなどではなく、いわゆるガチ泣きというやつだった。その様子を見て、笑い過ぎで吹き飛んでいた恐怖を思い出した柚斗と結那。三人はたった今死にかけたのだ。
「……」
こういう時どうすれば良いのだろう、と今日初めて出来た妹の様子を見て無言で考え込む柚斗。すると結那が胡桃の前でしゃがみ、胡桃の頭をそっと撫でる。
「うん、怖かったよね。大丈夫、私と柚斗もいるからもう大丈夫だよ?」
(結那の方がちゃんとお姉ちゃんしてるなぁ……俺、お兄ちゃんぽいことしたっけ……)
結那の姉パワーに関心する柚斗。己の不甲斐なさがなんだか少し申し訳ない。
胡桃が泣き止み、結那の手を取って立ち上がりそのまま手を繋いでいる。そして結那は柚斗に改めて質問をした。
「さっきの氷魔法、本当に柚斗じゃないの?」
結那に再度聞かれ、柚斗も自信がなくなってきた。思い出せば確かに冷気を凄く纏っていたのは自分だし、魔力を練った後の疲労感も感じていた。しかし柚斗には魔法を使った覚えがない。回答に困っていた柚斗は視線を横へやり、当時の状況を必死に思い出そうとする。だが、何故助かったのかという過去の出来事を考えるよりも大事なことに気が付く。
「なあ二人とも」
深刻そうな顔をする柚斗を見て、どうしたのかと首を捻る結那と胡桃。
「ここ、どこだ?」
今日何度目かもわからない驚きの表情をして周りを見渡す結那と胡桃。周りは草原になっていて、三人のいる所は少し土地が高いようだ。草原を外れると木々が生い茂る斜面が続いていた。どうやら三人は山に着地したようだった。日は沈みかけていて、草原に咲き乱れる小さな白い花も少し夕日に染まっていた。幻想的にも思える風景を見て、結那はため息の後、当たり前の答えを返した。
「うん、私も知りたい……」
「ですよねー」
知らない世界に来て早々、三人は世界規模の迷子になっていた。
*懐かしい声
年季の入った何らかの木が使用されているデスクで、精霊魔法を極めた彼女は愛用の眼鏡を掛け直しながら報告書を読んでいた。
彼女の名前はロノフォ。それ以外の名前を知る者はいない。不老の呪いを持つ彼女は、見た目こそ三十代前半くらいのお姉さんに見えるが、実際は百歳を超えている。そんな彼女はライハラム魔法学園で理事長をしていた。
(精霊殺し、ただ無差別に殺している訳では無く何か条件があるようだけど……)
報告書に同封されていた殺害現場の写真。そこには首を綺麗に切り落とされた精霊の死体達が写っていた。よっぽど鋭利な刃物か何かを用いて一撃で切り落とされたらしい、争った痕跡は無く、切り口もとても綺麗だ。
「一体なんの恨みがあるっていうのかしらね」
思わず独り言が口から漏れてしまった。普段から気を付けてはいるが、こうも大事件が起きてしまうと独り言が言いたくもなってしまう。
書類に記載された内容の限り、殺害された精霊の数は三十人に上るらしい。そもそも精霊は魔力がとても高く、一部を除けば性格も温厚であったため、人間とは古くから友好関係にあった。人間が使う魔法の原型は、多くが精霊によって伝えられたものだと言う。魔力が高いだけあって魔法による戦闘は下位の精霊でもプロの魔法師と並ぶほどだった。その精霊が三十人も殺された、と。
(プロの魔法師を遥かに超える実力となると容疑者も絞れるはずなのだけど)
魔法師よりも遥かに強い者となると数える程しかいない筈なのだが、全く容疑者が絞れていないのが現状だった。
もう一度書類を見返そうと最初のページに戻ると、デスクに置かれた固定電話が鳴る。昼間なら鳴ることもあるが、夕方にかかってくるとは珍しい。一体誰からなのか、予想しながら受話器を上げる。すると電話の主は全く予想すらしていなかった相手だった。
「もしもし、ライハラム魔法学園理事長ロノフォですが」
『どうも、仙王学園の岡です』
「あらあら、なんだか懐かしい名前ね」
ロノフォと岡は古い知り合いで、一緒にクエストをこなしていた時期もある。岡が教師になると言って、十年前に別れてからはそれっきりだったのである。
『驚いたかロノフォ?』
岡の問いに思わず笑みを作りながら「ええ」と答え、ロノフォからも岡へ質問をする。
「貴方、何処の世界にいるのかと思ったら仙王学園って事は今は真ん中に住んでるのね。昔拾ったお姫様はどうしたの?」
『あいつも仙王学園で教師やってるよ、その前に魔法師もやってたけど』
ロノフォは「十年って早いわねぇ」と岡の話を聞いて昔を懐かしみながらしみじみしていると、岡が今までと打って変わって真面目な声のトーンで用件を話し始める。
『実は異の門でトラブルがあってな、俺の生徒が三人ほどそっちに飛ばされたっぽいんだ』
「トラブルって?」と聞こうとするが、声から焦りが伝わってきたので今は止すことにした。
「それで?」
『仙王学園の方が解決するまでの間、面倒を見てほしいんだ。魔法や魔術を教えてくれるとなお助かる』
何かと思えばそんなことか、と考えた。ロノフォも教員なので別になんの問題もない。問題と言えばライハラム魔法学園のある世界、プラベラードで起きている精霊殺し事件くらいだった。
「お安い御用だけど、魔法はなにか要望あるの?」
電話越しに岡の少し唸る声がしてから答えが返ってきた。
『飛ばされた三人なんだけどな、三人とも結構特殊な事情があって相当出来る奴らだ。精霊魔法なんて教えても覚えるかもしれないぜ?』
具体的な内容ではなく、三人の素質についての説明だった。ということは、素質によって内容を変えろと言う風な事を暗に言っているのだろう。
「まあわかったわ、後進を育てるのも大事なことだもの。大体貴方がそんなに言うなら間違いないわ」
岡は「助かる」と言って電話を切ろうとするが、言い忘れたことがあったらしく「そういえば」と続けた。
『異の門のせいで決められたところに転移出来ないと思うんだ。っつーことで探し出してなんとかそっちで拾ってくれ、じゃあな!』
ブツンッ。
「……」
大変なのは分かるが、こういう丸投げなところは昔から変わってないようだ。と、ロノフォは思い出と照らし合わせる。まあ会話中に一キロ程離れたところで大きな魔力を感じたので恐らくそこだろうとロノフォは踏んでいた。学園からそんなに離れていなかったのはラッキーだろう。最近は物騒なのだから。
ロノフォは眼鏡を外しデスクに置いてから黄緑色の髪を束ね、薄手のコートを着て理事長室を出た。疎らに下校している生徒達に混じって学園から出るロノフォ。
薄手の薄茶色をしたコートに白いワイシャツ、茶色系のロングスカートにスニーカーという至ってシンプルな服装の彼女から感じる魔力は、桁外れの強さを纏っていたが、そこから感じるものはプレッシャーなどではなく、包み込むような温かさだった。
はっはっは、残念でしたね、ロリババアではないんですよ!!
と、いうわけで9話でしたが。お姫様とは一体誰のことなのやら……そのうち出てきますけど今は内緒です。
そういえば少し前に夏コミありましたね、C94!
まあ私自身オタクオタクしてないのでその手の旬なネタとか全く分からないんですよね……。
あ、ちなみにコミケって思ったよりオタクオタクしてない人たくさんいるので興味ある人とかはぜひ行ってみてくださいね!ボランティアの方とかコスプレイヤーの方とかめっちゃ面白いですよ!
そもそも人がすごい数なのでまあ色んな人がいるんですよ……。そういう意味でもとっても勉強になりますね!
Twitter:@kannagi1414
*誤字・脱字等報告していただけると大変助かります。