精霊の心-16-
2か月ぶりです皆さん!
ということで投稿ペースの遅い神梛です。
今回の話でも大きくお話が動くようなことはありませんが、そろそろ動きが欲しいですよね。
うん、欲しい。
*ロノフォの内緒話
クラスメイトの精霊、マニンとどこかへ行ってしまった柚斗の器を借りる精霊の舞雪。彼女を探す柚斗達であったが、ロノフォは柚斗の少し後ろを歩く結那の肩を軽く叩き、手招く。
「どうかしました?」
「柚斗君についてちょっと聞きたいんだけどいい?」
柚斗に聞こえないよう小声で話すロノフォの様子に、首を傾げつつも頷く結那。
「朝、柚斗君が襲われて目が覚めた時、なんだか随分と動揺が少なかったと思ったの」
ロノフォの言葉に黙る結那。
「結那さん?」
結那は少し間を置いてから説明を始める。
「理事長は私と柚斗の話って聞きました?」
ロノフォは首を横に振る。
「私が聞いたのは、異の門から飛ばされてきた三人が特殊な事情を抱えているってだけよ」
「胡桃はまた別なんですけど、私と柚斗は……幼い頃に殺されかけたことがあります」
ロノフォは目を細める。
(ふーん……そういう感じ、ね)
岡から内容は全く聞いてなかったので、初耳だ。しかも特殊な事情とは聞いていたが、思っていたよりずっと深い事情のようだ。
「細かい話は省きますが、そういったことを特に経験し過ぎた柚斗は少し慣れてしまっているようなんです」
結那の表情はよく見えなかったが、少なくとも明るくないのは伝わってくる。
「うん、嫌なことを思い出させてごめんなさいね。話してくれてありがとう暁さん」
「……いえ、魔法は人の心に深く結びつくものですから。そういう意味ではちょうど良かったんだと思います」
「……」
一通り話し終わったと同時に、後ろで内緒話をしていることに柚斗が気が付いた。
「なに話してんだ?」
「……なんでもないよ」
一瞬、間を置いてからそう言った結那は、柚斗の肩に後ろから軽く抱きつく。二、三秒してすぐ離れた結那は、柚斗の前に歩み出て、そのまま振り向かず、柚斗の方を向こうとしない。
急に甘えてきた結那に戸惑いながら、まだ柚斗の後ろにいる結那の話し相手だったロノフォを見ると、ウィンクを返してきた。どうやら教える気は無いらしいので、柚斗は諦めて気にしないことにした。
*違和感
ライハラム学園から少し離れた精霊の住まう森。その森の木に生い茂る葉が、春を迎えた今、凍っていた。ここは広葉樹林になっていて、つまり冬の間、葉をつけていたものがまだ凍ったまま残っている、という訳では無い。しかもおかしいのはそれだけではない。
精霊の住まう森に精霊がいない。
体に冷気を纏い、血だらけの木に嬉々として寄りかかる女が一人。その横には、腕を血で染めた人間そっくりの男性型アンドロイドが女を真っ直ぐ見つめて立っていた。
「おい」
アンドロイドが女に声を掛けると、蕩けたような目でアンドロイドの目を覗く。
「朝の人間に取り憑いていたような精霊だが……」
「ええ、私の子よ」
女の即答ぶりにアンドロイドは自分にインストールされている擬似感情システムを押さえつけながら言葉を吐く。
「なら、いくら精霊の力を集めるとはいえ自分の娘まで狙う必要はないのではないか?」
女はアンドロイドの言葉に対して鼻で笑う。
「まさか人間のまがい物の貴方に言われるなんてびっくり、私の子だったら躊躇っちゃう?」
女の挑発的な言葉にアンドロイドは目を閉じ、表情を歪める。
「お前が殺れと言うのなら誰だろうと関係ない。ただ、インストールされている感情パターンではお前のような行動にどうやったらなるのか検討もつかなかったのでな」
「ふふ、どうやら貴方を作った人は人間を少し善いものに捉えすぎのようね……」
「……そうか」
それからしばらく、二人が血まみれの森で口を開くことはなかった。
*精霊の少女たちの疑問
ライハラムの敷地内を歩き回って疲れた舞雪とマニン。今は街中のタピオカドリンクのお店で、流行りの味を嗜んでいた。
「これ、おいしい……!」
そう言って目を輝かせているのは、初めてタピオカに出会った舞雪。マニンはというと舞雪の顔を見て、こちらもこちらでとても嬉しそうだ。
「喜んでもらえてよかったー! 今ライハラムで流行ってるんだけど、まさかタピオカを知らない乙女が残っているとはね」
「私の故郷はライハラムに比べればずっと田舎だったから、多分流行りものとか全然わからないと思うなぁ」
舞雪は自分の故郷のことを思い出す。雪がいつも降っていて、年中寒かった。でも周りの人たちは良い人ばかりだったし、ほとんど外との付き合いがない閉鎖的な村でも、不満は一つとして思い浮かばなかった。母がいなくなる時までは。
「ねえまゆっちてば!」
声のする方を見ると、思い出に浸っていてボーっとしていた舞雪に頬杖をつきながら声をかけるマニンの姿があった。
「ご、ごめん。ちょっとぼーっとしてて……」
ちゃんと聞いてよ、と言わんばかりの溜め息を吐くマニン。
舞雪は今までの短い間にマニンの性格がある程度分かってきた。彼女はリーダー的で、物をはっきり言うタイプだ。若干恥ずかしがり屋と自覚している舞雪的にはありがたいのだが、好みの出るタイプだろうとも感じた。
「でも不思議だよね」
舞雪が首を傾げると、マニンは持っていたタピオカドリンクのカップを置き、店の窓から見える人の行き交う様子を眺めながら話を続けた。
「だってさ、まゆっちは今半実体化なんでしょ? 留学生の神祠くんだかと器を半分ずつ使っているんだよね?」
「うん、確かに柚斗さんに助けてもらったけどそれがどうかしたの?」
突然マニンが舞雪の腕を掴む。
「!?」
驚いてビクッとする舞雪。その表情は固まっていた。
「ほら、掴めるし普通に飲んだり食べたり出来てる」
その言葉で舞雪はようやくマニンの意図が分かってきた。
「たしかに……なんでだろう」
マニンは腕を組み目を閉じて唸る。やがて目を開けると一つの仮説を話し始める。
「まゆっちはもしかして半実体化してなかった! とか、確かに今まゆっちは普通の精霊とは違う状態にあるんだけど、半実体化って言葉はあんまり正しくないんじゃないかなぁ……まゆっちとしてはどう?」
舞雪も目を閉じて考える。
「私も言われてみると半実体化って適切じゃないのかなって思うけど、実際に柚斗さんの中に入ったりもしたんだよね……」
そう、舞雪は存在しているだけで柚斗の魔力を喰うし、半実体化を解除して柚斗の中に収まることも出来る。つまり……どういうことなのだろうか。
舞雪の話を聞いてまた「うーん」と唸り始めてしまうマニン。やはりもっと精霊少女以上に精霊に詳しい人に聞いてみるしかないのかもしれない。二人が真っ先に浮かんだ人物は、今まさに窓越しで二人に手を振っている人物だった。
*放課後ティータイム
舞雪とマニンを見つけることが出来たロノフォ達。ロノフォが二人に手を振ると、二人は驚きと嬉しさの入り交じったような表情で手を振り返してきた。手を振り終えたロノフォは、柚斗、結那、胡桃を引き連れて二人のいる店に入る。みんなで一緒にお茶をしながらお互い話すことになった。
カウンター席にいた舞雪とマニンは、ロノフォ達と合流して同じテーブル席に座る。しばらくして各々タピオカドリンクの食感を楽しみながら喉を潤すと、ロノフォから話を切り出す。
「さて、先に話をさせてもらうと私たちは舞雪さんを探していたわけなんだけど」
ロノフォの言葉に反応したのは舞雪本人ではなく、火の精霊のマニンだった。
「こんなにたくさんで探して、どんな用事なんですか?」
「お勉強会よ」
ロノフォの短い返しに首を傾げる舞雪とマニン。二人のリアクションを見て、胡桃が付け足す。
「まほうをおしえてくれるんだってー」
「そう、それで柚斗くんは舞雪さんのことが必要なの」
付け足してくれた胡桃の頭を軽く撫でるロノフォ。胡桃がまるで犬である。
舞雪は少し考えるが、ロノフォの言葉がいまいちピンとこない。確かに柚斗の器を半分借りている状態のはずなのだが、魔法の訓練に何か影響があるかと言われると分からなくなる。
考える舞雪を見て察したのか、ロノフォが一言付け足す。
「このあと実際にやってみるからその時分かるわ」
「そ、そうですか、わかりました。という事みたいだからマニン……ごめんね?」
舞雪の謝罪に首を横に振るマニン。
「まゆっちはライハラム学園に来てばっかりだもんね、しょうがないよ」
ロノフォも両手を合わせて「ごめんなさいね」とマニンに謝る。
マニンは自分が通う学園の理事長に謝罪をされたことに申し訳なさを感じて自らも頭を下げてしまう。
一連のやり取りを黙って見ていた柚斗と結那は底に残ったタピオカと格闘していた。
*それぞれの課題
タピオカドリンクのお店を出てマニンと別れたロノフォ達は広い草原へ向かった。
到着するとロノフォは一人ずつ呼び出してそれぞれに教える事を説明し始める。
「まずは暁さん」
結那がロノフォの前に立つと、ロノフォは右手を前へ出す。上を向いた手のひらに光が集まり、形が一本の短剣となった。
「!? それって……」
目の前で起きた現象に驚く結那は、思わず言葉を詰まらせる。
「顕現魔法ね、あなたの実家は顕現魔法の研究をしていたのよね?」
「はい、そうですけど」
ロノフォは自分が生み出した短剣を光の粒へと変え、跡形もなく消してしまう。
「あなたの家の顕現魔法はオリジナルの顕現魔法。本来はあり得ない全く同じ物を増やす行為、しかもコピーではなく紛れもない本物だったはず」
結那の動揺はまだ残っているが、たどたどしく質問に答える。
「はい……そうですけど、なんで知っているんですか?」
ロノフォは笑顔を作り、なにも答えない。ロノフォのこの笑顔に、その質問には答えないという意思を感じた。先ほど経験済みの柚斗は、二人の会話を聞いてはいたが、聞くだけで特に突っ込もうという気は起きない。
ロノフォは先程理事長室にあった折りたたまれた古い資料をポケットから取り出し、広げてから文字の部分を上から下へ指でなぞっていく。
「そうね、あなたにはもっと上手い顕現魔法の使い方を教えてあげる」
結那は上手い顕現魔法というアバウトな説明に首を傾げる。
「と、言うと?」
ロノフォはハッとして、それから何かに気付いたように笑みを浮かべる。
「ごめんなさいね、言葉が足りなかったわ」
ロノフォは意味もなく咳払いをし、目を閉じて少し大きく呼吸をする。目を開き見えるロノフォの瞳、その奥の方。結那は微かにだが強い意志のようなものを感じる。
「暁さんの実家秘伝の顕現魔法を、一人娘であるあなたにマスターしてもらうわ」
結那は一瞬固まった。それは二つの意味を持っていて、一つは異の門が直るまでの短期間で特殊な顕現魔法を習得できるわけがないということ。もう一つは仮に出来たとしてそれをロノフォ理事長が教えられるのか? というものだった。
「あの……」と結那言いかけたところで、ロノフォは次の話へと進んでしまった。
「さて次は柚斗君ね」
名前を呼ばれ、思わず背筋を伸ばしてしまう柚斗。
「はい……と言っても俺は結那みたいな特殊な魔術を研究していた血筋ってわけでもないですけど」
ロノフォは首を横に振り、柚斗のとなりに居た舞雪を指差す。
「あなたも十分に変よ、柚斗君もそうだけど舞雪さんにもある意味暁さんより特殊なことを出来るようになってもらうわ」
舞雪は突然指を差された事よりも、むしろ自分にもなにか出来ることに少し驚いていた。
「私、ですか?」
「ええそうよ、確かライハラムに来る途中空から落ちてきたのよね?」
柚斗が頷くと、ロノフォは一つ質問をする。
「無事着地出来たのは何でかしら?」
胡桃が記憶を辿りその時のことを思い出す。
「あ、たしかすっごくさむくて……」
ロノフォは満足そうに頷く。
「そう、正確には氷。これこそが舞雪さんの精霊としての力。だから器の持ち主である柚斗君には、舞雪さんの精霊の力を自らの力として制御できるようになってもらうわ」
柚斗は驚きを隠せない様子で、やや前のめりになりながら質問する。
「そんなこと出来るんですか!?」
ロノフォは柚斗の反応に満足したのか、くすくすと笑い声を抑えながら答える。
「ええ、前例がないわけじゃないわ。そもそも精霊が人間の器に入り込むこと自体が少ないからほとんど文献とかは残っていないけど」
そして最後にロノフォは胡桃の方を向く。胡桃をジッと見つめるロノフォに胡桃はたまらず目を逸らす。
「な、なぁに?」
「妹さんについてもちょっと変わってそうだし、色々育てがいがありそうね~」
そう言うとロノフォは考え込む。すぐに答えが出ないと判断したのか、考えるのを中断してこの後の勉強会の進め方について説明し始める。
「まあ妹さんはあとで方針を固めるとして、とりあえず暁さんから順番に教えていくわね、いい?」
「わかりました」
「うん、いい返事。すぐに始めましょう、まずは……」
ロノフォは早速結那へ説明を始める。
もうすぐ夕暮れ時になるライハラム学園敷地内の広い草原。結那とロノフォから少し離れたところに移動した待機している柚斗、舞雪、胡桃の三人。柚斗は一度だけ、大きく深呼吸をする。空を見上げると、そこには仙王学園で見る大きな校舎で囲まれた空とは少し違う、とても広い空があった。
うーん、タピオカ流行ってますよね~。
まあ、あのJKとJDの行列に並ぶほど飲みたいとは思わなかったりするんですが、それにしたって野郎一人で行くのはちょっと……。
次回の内容的には「勉強会」を始めた彼等に何か動きのある描写を加えられたらなぁとかぼんやり考えています。
それではこれからもテンセカをよろしくお願いします!
Twitter:@Kannagi1414
*誤字・脱字等報告していただけると大変助かります。




